新型コロナを告発し罰せられた医師。死後に「処分は不当でした」と発表、その本当のワケは?

写真の男性が李文亮医師。李医師が死去した2月7日、武漢での追悼の様子(写真:ロイター/アフロ)

 原因不明の肺炎の発生に警鐘を鳴らしたつもりが、逆に処分の対象になり、訓戒を受けた医師。後に自ら新型コロナウイルスに感染し死亡したこの医師に対し、中国政府の調査チームが「処分は不当だった」と結論を出した。だが本当の狙いは、単に医師の名誉回復だけではなさそうだ。

同僚を守るために...

 この医師とは、武漢市中心医院の眼科医だった李文亮氏(享年34歳)。

 李医師は、まだ中国政府が新型コロナウイルスによる肺炎の発生を公式に認めていなかった去年12月30日の段階で、「市場で7人のSARS(重症急性呼吸器症候群)感染が確認された」などの情報をSNS上のグループチャットに発信した。

 同僚の医師たちに防疫措置を採るよう注意喚起するのが目的だった。

 感謝されてしかるべき行為。しかし4日後の1月3日、李医師が受けたのは賞賛ではなく、地元警察からの呼び出しだった。

告発した医師は感染し犠牲に

「グループチャットに流したSARSの情報は正しくなかった。今後は注意します」

 李医師は警察で反省させられた上、訓戒処分を受けた。

 李医師は、1月6日に眼科で82歳の患者を診察するが、この患者は後に新型コロナウイルスの感染により死亡する。李医師自身も10日から発熱の症状が出た。

 それから1か月を待たず、2月7日、李文亮医師は新型コロナウイルスによる肺炎で死亡した。まだ34歳の若さにもかかわらず。

「処分は不当」と調査結果

 李医師は、不正などの内部告発者を意味する英語のホイッスルブロワーを中国語に訳した呼称で国内でも讃えられ、勇気ある行動ゆえに同医師が受けた処分に対しては、怒りの声が上がっていた。

 そうした中で、中国政府の最高の監察機関である国家監察委員会の調査チームが、李医師の死から1か月以上経った、昨日3月19日、調査結果を発表した。調査は、実際に12月中に武漢市内の複数の病院で原因不明の肺炎患者が確認されていた事実などに触れた。

 その上で、李医師の処遇について「警察が訓戒書を作ったことは不当であり、法執行の手順も規範に合っていなかった」と結論づけた。警察に対し訓戒書の取り消しと関係者の責任追及などを求めた。

 この調査結果に対し、ネット上では「真相が明らかになった」「国家を信じ、調査結果を支持する。李先生安らかに」などと賛辞が寄せられている。もっとも中国では政府の判断に反対する意見がネット上に残るはずはないが、人々の批判の矛先を逸らすには、まずまずの効果があったようだ。

防疫対策をすすめる中国では「人々が心を一つに」などのスローガンが掲げられている(2020年3月4日北京にて筆者撮影)
防疫対策をすすめる中国では「人々が心を一つに」などのスローガンが掲げられている(2020年3月4日北京にて筆者撮影)

「口封じ」が招いた結果は検証せず

 しかし、この調査結果は、重要な点に触れていない。李医師の発信が「社会の関心を集めた」などとしているが、訓戒によって李医師が口をつぐんでしまった事態が招いた結果についての検証がされていない。

 その結果とは「情報隠し」が引き起こした感染拡大だ。特に、医療関係者の防疫が後手に回ったために、武漢では医療崩壊が起きた。

きょうも新たに医療スタッフが犠牲に...

 李文亮医師の同僚の女医、艾芬医師も原因不明の肺炎の発生を知り仲間に警鐘を鳴らした一人だ。当時の経緯を語り、もし発信し続けていれば「このような多くの悲劇は起きなかった」と後悔する彼女のインタビュー記事は、発表直後、削除された。習近平国家主席が感染拡大後、初めて武漢を視察した2月10日の出来事である。

 李医師が勤めた武漢市中心医院では、きょう20日午前にも、新たに45歳のスタッフが新型肺炎で死亡した。同医院の医療従事者としては5人目の犠牲者となる。

敵対勢力が李医師を利用?

 国営新華社通信が、李文亮医師の調査チームとの質疑を報じている。その中で、李医師の情報発信が、社会にどのような作用を与えたかとの質問に対して、調査チームは次のようにこう答えている。

「一部の敵対勢力は中国共産党と中国政府を攻撃するために、李文亮医師に体制に対抗する“英雄”“覚醒者”のラベルを貼っている。しかし、それは事実に全く合わない。李文亮医師は共産党員であり、いわゆる“反体制人物”ではない。そのような下心を持つ勢力が、扇動したり、人心を惑わせたり、社会の不満を挑発しようとしているが、目的を達せられないことは決まっている」

 中国の体制にとって感染症そのものよりも、対策で下手を打ったとして民心が離れる事態の方が脅威だ。今回の調査結果の一番の狙いは、おそらくこれだ。