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中国で旅行者もスマホ検閲の恐れ?

宮崎紀秀ジャーナリスト
中国では情報統制が強まる(写真は2019年10月1日北京)(写真:ロイター/アフロ)

 中国で旅行者でさえもスマホやパソコンの中身を問答無用で調べられる可能性が出てきた。アメリカ政府系メディアは中国の空港ですでにそうした措置がとられている可能性を示唆する目撃証言を報じた。

現場に権限を与える新規定

 中国で携帯電話やパソコンなどを強制的に検査する権限を現場の担当者に与える新たな法規が施行される。中国国家安全省が先月26日に発表した「国家安全機関の行政法執行手続き規定」と「国家安全機関の刑事事件処理手続き規定」で、いずれも施行は今年7月1日から。

 前者の第40条には、「国家安全機関による個人や組織の電子機器、設備及びプログラム、ツールに対する検査」について「市レベル以上の国家安全機関の責任者の承認を得た上で、検査通知書を作成しなければならない」とある。だが、「緊急の状況で直ちに検査の必要がある場合には、市レベル以上の国家安全機関の責任者の承認を得た上で、法の執行員が警察証や偵察証を示して現場で検査を実施できる」ともなっている。

「緊急の状況」が、如何なる状況かは明記されていない。人治の中国ならではの「柔軟な解釈」の余地が残されているとも言える。

これまでの「遠慮」はなくなる?

 私自身の経験に照らせば、携帯電話そのものを調べられたことはないが、これまでも取材中に警察官に身柄を拘束されて、撮影した映像の消去を命じられたり、パソコンにコピーした映像を調べられたりしたことは数知れない。それらは実際は強制措置だが、彼らはあくまでも「私が警察の依頼に応じ協力した」という体裁を整えたつもりでいたはずだ。だが、今後は法的なお墨付きを得る。

 先に触れたように、新規定の施行は7月1日だが、アメリカ政府系放送局「ラジオフリーアジア」は、中国の複数の空港の税関で、施行日を待たずに旅客らの携帯電話の検査を始めている可能性を目撃者の話として伝えた。

すでに旅行者の携帯チェックが始まる?

 5月7日のラジオフリーアジアによれば、ある女性が5月第1週の週末に中国南部の深圳から香港に渡ろうした際、深圳側の税関で観光客が携帯電話を取り上げられ調べられた上、他の携帯があれば出すように命じられていた様子を目撃したという。その後、どうなったかまでは分からないという。

 目撃者の女性は、南京や杭州の空港でも同様の光景を目にしたことがあったといい、「携帯にどんな写真や内容が残っているかを調べられるので、その日は自分の携帯の中身を整理し、デリケートな内容は削除した」という。

 また上海に住む男性も、最近、日本から戻った際に上海の空港で、別の男性が税関で止められ携帯を調べられてから通過を許された現場に居合わせたという。

恐怖心で自粛を狙う?

 中国では厳しい言論統制が敷かれているが、一部のアプリやソフトを使えば、中国当局の検閲を逃れて国外と情報のやり取りができ、国内で禁じられている情報に触れることもできる。外国からの「不都合」な情報や影響は、中国当局が最も警戒する対象だ。

 携帯電話などに対する検査権限については、去年7月に施行された反スパイ法も規定している。ただ、同法が権限を付与するのは「反スパイ業務にある国家安全機関の要員」だったが、新規定では「法の執行員」となっている。上記の目撃情報のように、税関などを通じて出入国者の所持するスマホやパソコンを対象にした検査も広く実施される懸念も生じる。

 ラジオフリーアジアは、新規定の影響について、人々に恐怖心を与え、検閲を回避できるアプリなどを使って国外と連絡を取ることを自粛させる効果がある、という専門家の見方も紹介している。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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