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香港の「覆面禁止法」を賞賛する中国人の気持ち

宮崎紀秀ジャーナリスト
香港政府が「覆面禁止法」を制定、5日から効力発揮。(2019年10月4日香港)(写真:ロイター/アフロ)

 香港政府は、「覆面禁止法」を制定した。あす5日から効力を発揮する。林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官が、記者会見で発表した。デモや集会に覆面やマスクをつけて参加してはならず、違反すれば最長で1年の禁固刑および、2万5千香港ドル(約34万円)の罰金が科せられるという。「覆面禁止法」の制定は、いわゆる「緊急法」を発動した上の措置。

 「緊急法」は、緊急事態や治安状況が危険にさらされた時に、立法会の審議を経ずに、行政長官と行政会議が規則を制定できる仕組み。例えるならば、総理大臣と内閣が国会の審議を経ずに立法できることになる。全く民意を汲まない措置に対しても法的な根拠を与えることが可能なわけだ。「緊急法」の発動は、ほぼ半世紀ぶり。香港情勢が、新たな段階に入ったといえる。

 香港の民主団体の幹部、流暢な日本語でも知られる周庭(アグネス・チョウ)さんは、すぐにツイッターで、「こんなバカバカしい法律を実施したら、市民の怒りが上がるしかないです」と発信した。さらに「緊急法」の発動で、香港政府が、立法会の審議を経ない立法手段を得たことに対し、「政府のやりたい放題になります」、「香港の終わりの始まり」などと、怒りを表明している。

 これに対し、「覆面禁止法」に対する中国人の反応は、真逆だ。同法の制定が中国本土のニュースサイトなどで報じられると、瞬く間に、香港政府の決定を支持するネット民の書き込みが集まった。

 中には、「もっと早く(覆面禁止法を制定)すべきだった」「(違反者の禁固刑)1年を(最長ではなく)最短にすべきだ」「すべての覆面をした者は、現場で射殺すべきだ」などの意見が並ぶ。

 もちろん、これらが中国人すべての意見とは言えないが、少なくとも、こうした書き込みなどで示そうとしている中国本土の中国人の民意は、香港の若者たちが、覆面をしてまで抗議の声を上げ、実弾で撃たれる危険を冒しながらも、守ろうとしているモノを全く理解していない。

 中国本土では、報道規制があり、香港情勢は中国側の観点からしか報じられていない。だから、それも仕方ないかもしれない。ただ、一つ重要な点は、自分の家族や友人が、覆面をしてデモに参加しただけで、逮捕されるというひどい状況を、これらの書き込みをしている中国人たちが想像できていない点だ。それは、「香港は中国の一部」と声高に言うにもかかわらず、彼らは、香港人を同胞と感じていない証左だ。多くの中国人が香港について意見表明する時、隣人としてではなく、中国共産党と同じ目線でモノを言うのだ。

 今の香港の“混乱”はなぜ起きたのか。逃亡犯条例の改正案を、香港社会のコンセンサスを十分に得ないまま、進めようとした林鄭月娥長官の失策である。混乱を引き起こした張本人が、独裁的な手法で事態を収拾しようとしたところで、本質的な問題解決は決してできない。

 その手法に、惜しみない賛意を表明する中国人は、香港社会の“混乱”の本質を、全く理解しようとしていないのである。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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