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ユニクロ「+J」最終章 トレンド迷子を救う助け船は「レス」 キーワード6選

宮田理江ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター
ユニクロ「+J」 2021年 秋冬コレクション (画像協力:ユニクロ)

ファッショントレンドの流れが様変わりしつつあります。以前はシーズンごとに新傾向が打ち出されたものですが、今はトレンドレス(無)の時代。ジェンダーレスやシーズンレス、エイジレスなど、あえて「ない」ことを重んじる流れが強まっています。一部には方向感が分からない「トレンド迷子」を心配する声もありますが、そもそもトレンド自体の意味合いが薄くなっているのです。

とはいえ、トレンドが完全になくなったわけではありません。長く続く各種の「レス」も少しずつアップデートしています。無理に乗っからなくても済むという意味では、着る側にとってはメリットもいっぱい。

ユニクロ「+J」がお手本!「レス(LESS)時代」にぴったりのトレンド

今回は2021年11月12日(金)から販売開始となる「ユニクロ(UNIQLO)」の「+J(プラスジェイ)」最終章となる2021年秋冬コレクションをフィーチャー。新たな服の可能性を切りひらいてきた「+J」ですが、この2021年秋で一区切り。「第2章としては完結という結末を迎えることになりました」(ユニクロ広報)。

大人気のブランドが迎えるフィナーレだけに、お別れコレクションを手に入れておきたいところ。「レス(LESS)時代」にぴったりの6つのキーワードを使った着こなし方をピックアップしたので、自分の好みに近いアイテムを選ぶヒントに役立ててみてください。

■ウィメンズ

キーワード1)シーンレス(sceneless) 「セットアップ」を自在に着回す

ダブルフェイスノーカラージャケット / ダブルフェイススカート / ミドルゲージカシミヤブレンドタートルネックセーター / +J (画像協力:ユニクロ)
ダブルフェイスノーカラージャケット / ダブルフェイススカート / ミドルゲージカシミヤブレンドタートルネックセーター / +J (画像協力:ユニクロ)

伝説的デザイナーのジル・サンダー氏とのコラボレーションである「+J」は、2021年秋冬での終了が決まっています。大ヒットになったこれまでのアイテム同様、最終章のコレクションにも、今のおしゃれに生かせそうな提案がたくさん用意されました。過剰に飾り立てない、静かな強さを帯びているのも、「+J」の魅力。着る人が主役になる「レス時代」の着こなしにもマッチしています。

支持が広がるアイテムに、上下がそろった「セットアップ」があります。セットアップはスーツに似ていますが、スーツほど堅苦しくないうえ、デザインの自由度が高くなっています。

スーツのイメージから離れている分、着こなし方も自在。お仕事シーンでもプライベートでもOKの着回し力は、セットアップが好まれる理由。ワードローブに1着あれば、マルチに着回せるアイテムは手持ち服を増やしすぎたくないという意識にもなじみます。

このような出番を選ばない「シーンレス(シーンフリー)」な服は着て行く場面(シーン)に関係なく、自在に着回すことができます。

こちらはダブルフェイスのノーカラー(襟なし)ジャケットと、共生地のスカートのセットアップ。上質で柔らかくふくらみ感のあるカシミヤブレンドのタートルネックセーターを合わせて首周りに冬ならではの上品な温もりをプラスしています。

セットアップ人気が示しているのは、ユーティリティー(使い勝手)や着回しバリエーション、コンフォート(着心地)を求めるニーズの広がりです。着る人の気持ちに寄り添ったデザインは、それ自体が大きなトレンドとなりつつあります。

キーワード2)ボーダーレス(borderless) 「異素材ミックス」で自分らしさを

プリーツラップロングスカート / ドライクロップドスウェットシャツ(長袖) / +J (画像協力:ユニクロ)
プリーツラップロングスカート / ドライクロップドスウェットシャツ(長袖) / +J (画像協力:ユニクロ)

「着こなし」という言葉は、今のおしゃれの方向感を象徴的に示しています。自分好みにアレンジするスタイリングは、全体をきれいにまとめるようなスタイリングにとらわれない「ミックスコーディネート」といううねりを起こしました。今のロングトレンドでは、いろいろな「ずらし」や「はずし」の工夫が試されています。

質感が違う素材同士を組み合わせる「異素材ミックス」も盛り上がっているコーデの一つです。トップスとボトムスで風合いをずらすのが基本的な合わせ方。素材感の食い違いのおかげで、互いを引き立て合う見え具合に。立体感も生まれます。

異なる素材を組み合わせるアレンジは、境界がないという意味では「ボーダーレス」とも呼べるでしょう。もともとは「国境がない」という意味ですが、服のテイストや素材に境界線を設けないという点では、このようなミックスコーデも一種の「ボーダーレス」。決まったルールに従う必要はないので、自分らしさを存分に表現できます。

たとえば、冬の着こなしにあたっては、あえて春夏のような素材を取り入れるだけで、着こなし全体に抜け感が加わり、重たくなりがちな冬コーデを軽やかに見せてくれる効果があります。さらに、薄手素材を取り入れることによって、「厚×薄」という異素材ミックスも叶うという一石二鳥のコーデに仕上がります。

この感覚を季節に広げると、後ほど紹介しますが、「シーズンレス」になります。春夏物を秋冬シーズンに着るような、融通自在のアレンジは手持ち服の有効活用にもつながります。

こちらのカジュアルなスウェット素材とエレガントなサテン素材のプリーツスカートというコンビネーションは、質感がかなり異なるおかげで、かえって味わい深いムードに仕上がります。

上下で異なる質感で合わせることで、まとまりすぎない雰囲気のおかげで「こなれ感」が生まれます。気負わないたたずまいに整うのが異素材ミックスのメリットです。

キーワード3)ジェンダーレス(genderless) 「プロテクションアウター」に包まれる

ダウンボリュームジャケット / ミドルゲージカシミヤブレンドタートルネックセーター / コットンテーパードパンツ / +J (画像協力:ユニクロ)
ダウンボリュームジャケット / ミドルゲージカシミヤブレンドタートルネックセーター / コットンテーパードパンツ / +J (画像協力:ユニクロ)

ファッションはその時期ごとの状況に影響を受ける傾向があります。時代の「空気感」を写し取るからです。バブル景気時代に流行したボディーコンシャスは象徴的でした。気候変動や感染症などのせいで、世界的に不安が広がった近年は、やはりそうした気持ちを反影した装いを生みました。

近年、盛り上がったファッションデザインの一つに「プロテクション(防護)」ルックがあります。分厚く大きなアウターで身を包むシルエットが特徴です。世の中のリスクや危険から守ってもらえるかのようなイメージを帯びた装いとも言えるでしょう。

こちらのダウンボリュームジャケットはあごを隠すほどの高い立ち襟が見どころ。首周りにボリュームを持たせると、中世の甲冑(かっちゅう)を思わせるクールな見た目に。もちろん、暖かさも申し分ありません。さらに、顔を小さく見せてくれる効果も期待できます。凜々しさやタフ感が備わる点でも、今のプロテクション気分とマッチ。世界的なトレンドになじむ着映えです。

ボディーラインをぼかすようなボリュームアウターは、性別のイメージも遠ざけるから、注目の「ジェンダーレス」コーデのキーピースでもあります。冬に求められる防寒面で頼もしい点でも、ボリュームアウターはワードローブに迎え入れておくと便利でしょう。

オーバーサイズデザインでありながら、肩周りはコンパクトに整えられたシルエット。計算されたフォルムのおかげで、ボリュームがあるのに、着ぶくれして見えません。多少の雨水をはじく耐久撥水機能もプラスされています。軽くて暖かいプロテクションアウターを主役にする着こなしは、見た目のおしゃれ感と気持ちの穏やかさをダブルで叶えてくれそうです。

■メンズ

キーワード4)シーズンレス(seasonless) 「スリムレイヤード」で通年着回す

ウールジャケット / ウールパンツ / カシミヤタートルネックセーター / スーピマコットンオーバーサイズスタンドカラーシャツ / +J (画像協力:ユニクロ)
ウールジャケット / ウールパンツ / カシミヤタートルネックセーター / スーピマコットンオーバーサイズスタンドカラーシャツ / +J (画像協力:ユニクロ)

自分らしい着こなしを組み立てる際、頼りになるのがレイヤード(重ね着)です。複数のウエアをまとうので、アイテムの選び方や組み合わせ次第で、好みを表現しやすいわけです。もともと秋冬の定番的スタイリングでしたが、近ごろは春夏にも広がってきました。つまり、衣替えのない「シーズンレス」で着こなすという流れです。

以前からある「重ね着」ですが、少しずつ進化してきました。トレンドが長期化すると、こういった工夫の余地が出てくるものです。新しい流れは「スリムレイヤード」。名前が示す通り、服を重ねているのに、かさばって見えないスタイリングです。

かつてのレイヤードはやや着ぶくれする感じがありました。その点、スリムレイヤードは見た目を膨張させず、さらっと着こなすので、大人も試しやすい新顔です。コツは薄手素材との組み合わせにあります。

上品なウール仕立てのジャケットとパンツのセットアップに、スリムレイヤードを仕込んだコーデです。首周りを見ると、タートルネックセーターにスタンドカラーシャツを重ねているのが分かります。カシミヤやスーピマコットンといった、上質素材を使っているから、どちらも薄手。2枚を重ねて着ても、スッキリとジャケットの内側に収まっています。

このように薄手の生地を使えば、着ぶくれとは無縁のスリムレイヤードが完成します。体の細い部分でもある首周りをハイネック×スタンドカラーで強調することによって、細さが際立つ仕掛け。春夏物を秋冬にも着られるので、手持ちのワードローブを、オールシーズンで賢く着回すシーズンレスのコーデに、スリムレイヤードは役立ちます。

キーワード5)エイジレス(ageless) 「スウェット上下」は健康的でクールに

ドライスウェットハーフジップパーカ(長袖) / ドライスウェットパンツ / カシミヤクルーネックセーター / +J (画像協力:ユニクロ)
ドライスウェットハーフジップパーカ(長袖) / ドライスウェットパンツ / カシミヤクルーネックセーター / +J (画像協力:ユニクロ)

トレンドと上手に付き合ううえで知っておきたいのは、世の中の人たちが望む方向に、トレンドは向かっているという法則です。「おしゃれは我慢」と言われていた昔とは違い、今は「快適なおしゃれ」が支持されているから、トレンドもその方向に流れています。

窮屈な暮らしを強いられた結果、これまで以上に健やかで伸びやかな装いを求める意識が強まりました。家で働くことも増えて、おうちでも外でもいちいち着替えずに済む服のニーズが拡大。そういった欲張りなおしゃれを実現するために登場した新トレンドが「アスフロー(ath-flow)」です。

数年前からあったトレンド「アスレジャー(ath-leisure)」の進化形にあたります。アスレジャーはフィットネス帰りのようにも見えるスポーティーなテイストが強めでしたが、アスフローはさらに洗練度がアップ。動きやすさにエレガントさを上乗せしたところが進化ポイントになっています。年齢層に関係なく取り入れやすいのもいいところです。

クルーネックセーターの上から、パーカを重ね、セットアップ仕様のスウェットパンツでオールブラックでまとめました。昔ながらの運動着や部屋着にありがちな「スウェットの上下」とは無縁のヘルシーなムードです。年齢を感じさせない「エイジレス」な装いにも向く着こなしです。

シックな見た目と快適な着心地を兼ね備えているので、仕事とプライベートを自在に行き来しやすい装いです。自転車通勤やウォーキングが増えたこともあり、機能性とスタイリッシュ感が同居したウエアは重宝な存在。気持ちまでアクティブに整えてくれそうです。

キーワード6)サイズレス(sizeless) 「オーバーサイズ」アウターでリラックス

ダウンオーバーサイズパーカ / プレミアムラムVネックカーディガン / スーピマコットンオーバーサイズスタンドカラーシャツ /  +J (画像協力:ユニクロ)
ダウンオーバーサイズパーカ / プレミアムラムVネックカーディガン / スーピマコットンオーバーサイズスタンドカラーシャツ / +J (画像協力:ユニクロ)

ビッグトレンドに育った「ジェンダーレス」は、性別にとらわれない装いです。代表的なアイテムは、「オーバーサイズのアウター」。体の線を拾わないから、性別を感じさせにくいのがジェンダーレスに着こなしやすい理由。ゆったりしたシルエットは、穏やかでのどかなムードも漂わせてくれます。

オーバーサイズが秋冬に便利な理由の一つは、レイヤードに使いやすいから。内側にスペースの余裕がある分、シャツやセーターなどをレイヤードに組み込みやすくなります。たっぷりした量感が着やせ効果を引き出すのも、「サイズレス」に仕上がるオーバーサイズならではのメリット。仕上げにバサッと羽織るだけでコーデが決まる気軽さもいいところです。

ジャストサイズできれいに着こなすのではなく、サイズをあまり気にしないで着られるところも魅力です。女性がメンズ服をあえて選んでオーバーサイズで着るという着こなしが支持される流れもあり、こちらのメンズのダウンオーバーサイズパーカは女性にも受け入れられそうな予感。カップルでシェア使いできるよさもあります。

コーデの主役に選んだのは、ダウンを贅沢に使ったオーバーサイズのパーカ。朗らかな曲線シルエットがソフトなイメージをまとわせています。スタンドカラーシャツにVネックカーディガンを重ねて、印象的な重ね着ルックに。シャツ裾をカーデの下にあふれさせた小技が冬レイヤードの決め手です。

「タイムレス(timeless)」な着こなしへ導く「+J」

毎シーズンのように変わるといった感じの短期的なトレンドは、弱まる流れにあります。でも、今回、ご紹介した6つのキーワードは長期トレンドとして当面、衰えそうにありません。このようなトレンドの背景で最大級の裏トレンドになっているのは、自分が愛着を持つ服をずっと長く着続けるという「タイムレス」の意識です。

ものを無駄にしない点でサステナビリティーにも通じています。複数のロングトレンドが同時進行している今、大切になっているのは、自分はどんな着方を望んでいるかに気づくこと。「+J」の静かな個性は、自分らしいタイムレスな着こなしに気づくきっかけになってくれるかもしれません。

(関連サイト)

「+J」スペシャルサイト

https://www.uniqlo.com/plusj

ユニクロ

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ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター

多彩なメディアでコレクショントレンド情報をはじめ、着こなし解説、スタイリング指南などを幅広く発信。複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスも経験。自らのテレビ通販ブランドもプロデュース。2014年から「毎日ファッション大賞」推薦委員を経て、22年から同選考委員に。著書に『おしゃれの近道』(学研パブリッシング)ほか。野菜好きが高じて野菜ソムリエ資格を取得。

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