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ファッションは「性別不問」時代へ ジェンダーレスな服装が流行

宮田理江ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター
ジェンダーレスの装いに注目! FACETASM 2022年春夏パリコレクション(提供:IMAXtree/アフロ)

性別を超えておしゃれを楽しむ「ジェンダーレス(Genderless)」の性別不問ファッションが一段と広がりを見せています。有力ブランドやアパレル各社は相次いで「男女兼用可」のアイテムを発表。「日経MJヒット商品番付」の2021年上期では「ジェンダーレスファッション」が東の前頭に。歌手の宇多田ヒカルが「ノンバイナリー(non-binary)」を明かし、ダボダボの服を好むビリー・アイリッシュがおしゃれアイコンになったりと、新たなうねりも起きています。今回は支持が広がるジェンダーレスファッションの現状と背景に迫ります。

女性ファッションが「脱・カワイイ」へ オーバーサイズにシフト

オーバーサイズのパフィアウターで体の輪郭をぼかして Billie Eilish
オーバーサイズのパフィアウターで体の輪郭をぼかして Billie Eilish写真:REX/アフロ

ジェンダーレスの装いが人気になった背景の1つに、アメリカのシンガー、ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)の存在が挙げられます。彼女はファッション面でもカリスマ的リーダー。着こなしの特徴は、全体にダボッとした、体の線を拾いにくいシルエットを好むところ。まるでメンズ物を借りてそのまま着たかのようなイメージです。性別を前提に視線を浴びることを好まない人たちからもビリーの着こなしは支持を集めているようです。

かつての女性ミュージシャンはデビュー当初のマドンナがそうだったように、素肌を露出した、セクシー寄りの衣装をまとうことが珍しくありませんでした。レコード会社が仕掛ける売り出し戦略の事情が少なからずはあったかと思われます。しかし、今はアーティスト自身が自分のライフスタイルやポリシーを前面に押し出す時代。ビリーの「女性らしさ」を売り物にしないポリシーは同世代の共感を集めました。

男性アクセサリーはシルバージュエリーからパールモチーフへシフト

特大のパールが顔周りを華やかに演出 Machine Gun Kelly
特大のパールが顔周りを華やかに演出 Machine Gun Kelly写真:Splash/アフロ

「MGK」の愛称でも知られる人気ラッパーのマシン・ガン・ケリー(Machine Gun Kelly)も、ジェンダーにとらわれない着こなしがお得意なセレブリティーの1人です。この日、ケリーがコーディネートのキーピースに迎えたのは、パールのチョーカー(首にぴったり巻くネックレス)。手首には小玉のパールブレスレットを巻いて、真珠の美しさを響き合わせています。パンク気分を漂わせるトップスとのずれ感でエレガントストリート風スタイルに仕上げました。

かつてはメンズのネックレスやブレスレットといえば、シルバー系が主流でした。ハードでタフな雰囲気を印象づける効果が期待されていたようです。しかし、パールは清らかでピュア、ノーブルといったムードが持ち味。たおやかなイメージも漂います。

メンズがパールをつけるブームを呼び込んだのは、2020年に発表された「ミキモト コム デ ギャルソン」のプロジェクト。ミキモトとコム デ ギャルソンが組んだパールネックレスのシリーズはファッショニスタのお手本になったようです。

世界のトップブランドはジェンダーニュートラルを加速

 パンツとスカートの長所を融合 LOEWE 2021-22年秋冬メンズパリコレクション
 パンツとスカートの長所を融合 LOEWE 2021-22年秋冬メンズパリコレクション提供:IMAXtree/アフロ

世界の有力ブランドは、性別をぼかすような見え具合の装いを相次いで提案しています。このような位置づけの服には、ジェンダーニュートラル(中立的)やユニセックス、アンドロジナスなど、様々な言い方があります。

ウィメンズのスカートを穿く男性や、メンズ向けのジャケットを羽織る女性が増える傾向にありますが、ジェンダーニュートラルの場合、服をデザインする最初から、着る人の性別を固定しない点に違いがあります。

日本でもファンの多い「LOEWE(ロエベ)」の2021-22年秋冬メンズコレクションで発表されたこちらのルックは、パッと見た感じはほとんどスカートのよう。実は、超ワイド幅のパンツ(トラウザー)。両脚の間にあるはずの隙間が見えず、ウィメンズのマキシ丈スカート風です。花柄で埋め尽くしたバッグもジェンダーニュートラルな風情。男性だから男っぽい色や柄を着なくてはいけないという思い込みは、徐々に過去のものとなりつつあるようです。

黒系でまとめたジェンダーレスルックの草川拓弥さんと生駒里奈さん Ground Y Photographed by Masatoshi Yamashiro (出典:prtimes.jp)
黒系でまとめたジェンダーレスルックの草川拓弥さんと生駒里奈さん Ground Y Photographed by Masatoshi Yamashiro (出典:prtimes.jp)

かわいらしさやセクシー感を遠ざけたジェンダーレスの装いは、タフでクールな印象を強めます。自分らしく暮らしたいという意識が強まる流れもあり、凛とした強さもアピールできるジェンダーレスルックは世界的に支持を集める流れにあるようです。

日本を代表するファッションデザイナーの山本耀司氏は「Yohji Yamamoto」「Y's」などのブランドで有名です。「Ground Y(グラウンド ワイ)」ではヨウジヤマモト社のフィルターを通し、ジェンダーレスでエイジレスなスタイルを提案しています。

2021-22年秋冬コレクションのキービジュアルモデルには、女優の生駒里奈とダンスボーカルグループ「超特急」の草川拓弥を起用しました。バンダナ風の布で髪全体を覆った装いで、性別イメージをあいまいに見せています。ヴィンテージ感を帯びたアウターやワイド幅のパンツをまとった2人はジェンダーレスを体現しているかのようです。

性別間の平等・同権を指す「ジェンダーイコーリティー」ブランドが登場

性別を意識させないシェフエプロン風のVネック・ワンピースを発表 IIQUAL(出典:prtimes.jp)
性別を意識させないシェフエプロン風のVネック・ワンピースを発表 IIQUAL(出典:prtimes.jp)

国内のアパレル業界でも、ジェンダーレスの提案が相次いでいます。「23区」や「組曲」「Paul Smith(ポール・スミス)」などで知られるオンワードホールディングス傘下の新ブランド「IIQUAL(イーコール)」もその1つ。メンズやウィメンズという概念から離れていて、ワンピースもスカートも性別を問わずに着こなせます。ブランド名も性別間の平等・同権を指す「ジェンダーイコーリティー」を象徴しています。

ワンピースは誰でも着やすいストレートなシルエットを採用しました。体のラインが出にくい、ゆとりを持たせた仕立てです。男女で左右の合わせ方が異なっていた、シャツの正面ボタンはパチンと留めるスナップボタンに。スカートパンツは前から見るとスカートで、背中側はパンツルックという前後アシンメトリーの構造。従来の「男らしさ」「女らしさ」にとらわれない「自分らしさ」を重視したアプローチです。

「自分らしさ」を大事にしつつ、イメージチェンジにも効果的

男女でシェアできるウエアを披露 FACETASM  2022年春夏パリコレクション
男女でシェアできるウエアを披露 FACETASM 2022年春夏パリコレクション提供:IMAXtree/アフロ

ジェンダーレスの装いが支持される背景には、性別間の平等・同権を求める意識の広がりがあります。ダイバーシティー(多様性)を重んじる考え方も広がってきて、性別とリンクする装いに違和感を覚える人が増加したことも一因です。他人からの視線に応じるのではなく、「自分らしさ」を大事にしたいという意識の強まりは、ジェンダーレスの装いになじみます。

機能性や着心地を重んじる傾向は、ミニマルなデザインが求められる流れを呼び込みました。着回しが楽で、体を締め付けないストレスフリー感もジェンダーレスの魅力。出番を選ばない中性的ウエアの出現は、カップルで共有するような「シェア使い」を可能にしました。ジャストフィットで着る必要がほとんどないので、サイズ調整や試着抜きで購入できる点もひそかなメリットです。

従来のメンズ、ウィメンズ用アイテムを融通するという選択肢もあります。女性にとっては、メンズの武骨で丈夫なアイテムは、使い勝手がよく感じられます。実際にメンズ売り場を物色するおしゃれ好き女性は増える傾向にあります。

一方、男性にとってはピンクや花柄といった、これまで持っていなかったデザインにトライするチャンス。柔らかい素材や繊細なフリルなどのアイテムもメンズ市場に登場しています。ジェンダーレスファッションの広がりを受けて、おしゃれの自由度はますます高まり、「自分らしさ」をまとう人も増えていきそうです。

(関連サイト)

FACETASM

LOEWE

Ground Y

IIQUAL

ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター

多彩なメディアでコレクショントレンド情報をはじめ、着こなし解説、スタイリング指南などを幅広く発信。複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスも経験。自らのテレビ通販ブランドもプロデュース。2014年から「毎日ファッション大賞」推薦委員を経て、22年から同選考委員に。著書に『おしゃれの近道』(学研パブリッシング)ほか。野菜好きが高じて野菜ソムリエ資格を取得。

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