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ケアマネジャーがいない! 深刻なケアマネ不足で認定が下りても介護を受けられない地域が#ケアマネ不足

宮下公美子介護福祉ライター/社会福祉士+公認心理師+臨床心理士
ケアマネジャー不足で要介護認定が下りてもすぐには介護を受けられない地域がある(提供:イメージマート)

なぜ今ケアマネジャーが不足しているのか?

全国のあちこちで「ケアマネジャー(以下、ケアマネ)がいない」「要介護認定を受けてもケアマネが見つからなくて介護を受けられない」という声を聞く。

ケアマネを雇用する居宅介護支援事業所も、「募集をかけてもまったく応募がない。ホームヘルパー以上に採用が厳しい」(ステップ介護・日髙淳さん)、「法人内でケアマネ資格を取得した介護職員にケアマネ職に就くよう打診しても、皆なりたがらない状況」(横浜市すすき野地域ケアプラザ・小薮基司さん)という。

介護保険のサービスは、原則としてケアマネがサービスをコーディネートしてはじめて利用が可能になる。それなのに、いったい何が起きているのか? なぜそんなに、今、ケアマネは不足しているのか? 

※ケアマネは特別養護老人ホームなどの施設勤務のケアマネと、在宅の要介護者・要支援者を支援する居宅介護支援事業所のケアマネがいる。ここでは、問題となっている居宅介護支援事業所のケアマネ不足について取り上げる。

今や、ケアマネの給与>介護職員の給与ではない?

介護保険制度が始まった頃、ケアマネは、介護職員にとって「上級職」と見られていた。体を酷使する身体介護や夜勤がある介護職員の仕事は、年齢が高くなると、続けていくことに不安を覚える人は多い。

一方、相談援助職であるケアマネには、夜勤も身体介護もない。先々に不安を持つ介護職員にとって、ケアマネは目指すべき“セカンドステージ”となっていた。

そしてその背後には、「ケアマネのほうが介護職員より給与が高い」という事情もあった。

ところが、ケアマネ>介護職員だったはずの給与水準は、介護職員の給与水準アップを目的に導入された「介護職員処遇改善加算」により地殻変動が起きた。ケアマネと一部の介護職員の年収が逆転したのだ。

「介護職員処遇改善加算」とは、条件を満たした介護事業所で働く介護職員1人あたり月額1万5000円~3万7000円相当が給付される介護報酬の加算である。

これに加え、介護職員の給与アップのため、「介護職員等ベースアップ等支援加算」「介護職員処遇改善支援補助金」「介護職員等特定処遇改善加算」など、様々な施策が打たれた。厚生労働省のデータによれば、介護職員の平均給与は下記の通り、10年余りで5万円弱増えている。

※厚生労働省介護従事者処遇状況等調査(平成24年度、令和4年度)結果より
※厚生労働省介護従事者処遇状況等調査(平成24年度、令和4年度)結果より

※2011年9月は2012年に介護職員処遇改善加算の届け出をした事業所における介護職員(月給・常勤の者)の平均給与額。2022年12月は、介護職員等ベースアップ等支援加算を取得(届出)している事業所における介護職員 (月給・常勤の者)の平均給与額。平均給与額、基本給+手当+一時金(月割り計算した額)により算出している

国が公表しているデータでは、上表のとおり同様に、ケアマネジャーの給与もアップしている。しかし現職ケアマネジャーからは、「実態としては年収400万円に届かない場合が多い」(元町ケアサービス・加藤由紀子さん)、「ベテランの介護職員には『介護職員等特定処遇改善加算』で、給与が月8万円アップした人もあり、年収がケアマネと逆転している」(前出の小薮さん)という声が上がる。

「介護職員等特定処遇改善加算」とは、離職防止のため、勤続10年以上の介護福祉士に月額平均8万円相当の賃上げまたは年収440万円以上までの賃金増を行うために導入された加算だ。この加算の対象となった介護職員は、年収が100万円弱アップ。このため、ケアマネとの給与の逆転が起きている。

それでも、ケアマネの仕事に魅力を感じていれば、ケアマネ職を選択する介護職員はいるだろう。

しかし今、その「ケアマネの仕事」の大変さに尻込みをする介護職員が多いと、現職ケアマネたちは口をそろえる。というのも、現職ケアマネたち自身が、介護報酬は変わらないにもかかわらず、年々、増えていく業務に疲弊しているからだ。

本来業務だけでもこれだけあるケアマネの仕事

ケアマネジャー(介護支援専門員)とは、介護保険法で規定されている専門職だ。1人が基本39人までの要介護者等を担当し、介護サービスが円滑に利用できるよう連絡調整を行う。

横浜市の「令和5年度運営の手引き 居宅介護支援」によると、居宅介護支援事業所のケアマネ業務で、実施しないと減算(介護報酬が減らされる)対象となる、つまり「絶対にやらないとダメ」という業務は、下記の通りだ。

●アセスメント(課題分析)のための利用者、その家族に対しての訪問・面接

●サービス担当者会議による専門的意見の聴取

●居宅サービス計画(ケアプラン)原案についての利用者への説明及び文書での同意の確認

●居宅サービス計画(ケアプラン)の利用者、サービス事業者への交付

●月1回以上、利用者宅でのモニタリングのための面接とその記録

横浜市の手引きにはこのほかにも、医師への情報提供、介護保険施設への紹介・連携、基準より訪問回数が多い訪問介護の理由の記載、地域ケア会議への協力など全27項目のケアマネ業務の説明が書かれている。

そこには含まれていないが、ケアマネには、介護サービスが提供されたら、その提供実績に基づく利用者一人ひとりの毎月の介護報酬給付管理票の作成と提出という重要な業務もある。本来求められているこうした業務だけでも、ケアマネは多忙だ。

「本当なら、もっとご利用者の意向や願いなどのお話を伺う時間を大切にしたい。しかし、ケアプランの帳票の記述の仕方や経過記録の書き方などに行政からの事細かな指導が入り、業務負担が増えています。また、複数回の訪問による利用者対応や、介護保険以外の多岐にわたる相談への対応を行っても報酬に反映されないなど、様々な問題があります。相談援助職でありながら、事務作業、シャドーワークが多い。これがケアマネの課題だと思っています」(株式会社ゆりかご・脇健仁さん)

事務作業量の増加、そして、「シャドーワーク」。

ケアマネを取り巻く環境は厳しさを増している。

事務作業量については、国主導でケアプラン等をオンラインでやりとりするシステムが始まるなど、ICT活用で軽減できる部分があるかもしれない。

しかし「シャドーワーク」の問題は深刻だ。「本当にケアマネの仕事なのか?」と首をかしげる業務がケアマネにあまた降りかかり、今やその業務範囲は見えないほど拡大している。

ケアマネジャー不足の背景には様々な問題があるが、ここから「シャドーワーク」について考えてみたい。

ケアマネは相談援助職でありながら、実は様々な書類や支援経過の記録、給付管理業務など、事務作業も膨大だ
ケアマネは相談援助職でありながら、実は様々な書類や支援経過の記録、給付管理業務など、事務作業も膨大だ写真:アフロ

ケアマネは「何でも屋」か?

増え続けるケアマネのシャドーワークは、一人暮らしや老老介護の利用者が増えたことが大きく影響している。親族の支援が期待できないため、かつては親族が担っていた役割を「やむなく」ケアマネが担わざるを得なくなっている。

例えば、新型コロナのワクチン接種。

「在宅で訪問診療を受けている利用者のワクチン接種には、当然のように、医師から『何日の何時に来てね』と立ち会いに呼ばれます。ケアマネが接種後の経過観察をするためです。何人もの利用者の、4回目、5回目と、ワクチン接種のたびに呼ばれるのはかなりの負担です」(指定都市のあるケアマネ)。

訪問診療の最初に接種すれば、診察している間に経過観察の15分は経過すると思うのだが、なぜわざわざケアマネを呼ぶのだろう。呼ばれるケアマネの負担への配慮はあるのだろうか。

ケアマネが担うべきことなのか? と思う業務は他にもある。

マイナンバーカードの受け取りもそうだ。

「マイナンバーカードの代理交付の際、公的な証明書がない要介護者は、ケアマネが『個人番号カード顔写真証明書』を書けば代理交付できるとされました。個人情報の塊のようなマイナンバーカードを、そんな形でケアマネに代理交付していいのかという疑問はさておき、個人名入りの証明書を書かされるケアマネの精神的負担、受け取りに行く労力と時間の負担を国や行政はどう考えているのでしょうか」(前出の加藤さん)

ある自治体の「個人番号カード顔写真証明書」。どこの自治体もほぼ同じ内容で、ケアマネの個人名などを記載する必要がある(筆者撮影)
ある自治体の「個人番号カード顔写真証明書」。どこの自治体もほぼ同じ内容で、ケアマネの個人名などを記載する必要がある(筆者撮影)

ケアマネの善意への依存が増やす「シャドーワーク」

このほかにもよくあるのが、リコール製品についての連絡だ。

これはある介護系サイトに掲載されているリコール製品の案内である。ケアマネに、利用者の家にこの製品がないかを訪問の際に確認してほしいというのだ。

要介護者の自宅を定期的に訪問するケアマネにリコール製品の確認、連絡を求める依頼はとても多いと、多くのケアマネは言う(画像は一部修正して介護系サイトより引用)
要介護者の自宅を定期的に訪問するケアマネにリコール製品の確認、連絡を求める依頼はとても多いと、多くのケアマネは言う(画像は一部修正して介護系サイトより引用)

「本来、リコール製品はメーカーが責任を持って広報、回収すべきものです。それなのになぜケアマネの善意を利用しようとするのでしょう? 例えば、このエアコンに該当するかどうかを確認するために脚立に上がったケアマネが転倒して、ケガをしたら? 利用者にケガをさせたら? その責任は誰が負うのでしょうか」(ケアプランナーみどり・原田保さん)

もちろん、リコール製品の発見をケアマネだけに委ねているわけではなく、企業としてはあらゆるチャネルを使って発見したいということだろう。一つ一つは些末だと思われがちな依頼。しかしそれに誠実に対応していたら、ケアマネの業務量は増える一方だ。

一人暮らしの高齢者であれば、ケアマネがリコール製品について利用者に説明し、メーカーに連絡を取り、修理対応にも立ち会いが必要になるかもしれない。しかも、これら「善意に頼った依頼」には何の報酬も支払われない。

「利用者支援」はケアマネの業務だが、それは適切な介護サービスを受けて在宅生活を送るための支援だ。それが今、「生活全般の支援」に拡大し続けている。しかし生活全般の支援を担うにしては、ケアマネの介護報酬は低すぎるのだ。

本来業務に様々なシャドーワークが降りかかり、疲弊しているケアマネを介護職員たちは目の当たりにしている。それが、ケアマネ職に就くことを介護職員が敬遠する一因であり、ケアマネ不足の大きな要因ともなっている。

シャドーワークに疲弊するケアマネを見つめる介護職員は、今の仕事を続ける方がいいと考え、ケアマネ職を選ばなくなっている
シャドーワークに疲弊するケアマネを見つめる介護職員は、今の仕事を続ける方がいいと考え、ケアマネ職を選ばなくなっている写真:イメージマート

介護保険制度がケアマネ不足から立ちいかなくなる日

介護保険制度が始まって23年。

40歳前後でケアマネとなった人々は今、60歳を超える。そろそろリタイアしてもいい年齢だ。ケアマネ自身が介護家族となる世代でもある。実際、年齢を重ねたケアマネが退職し、そのまま閉鎖する居宅介護支援事業所は増えている。

2022年度介護労働実態調査によれば、ケアマネの平均年齢は53.0歳。50歳以上が6割弱を占める。

大げさではなく、ケアマネがいなくて介護サービスを受けられない事態がこれからさらに増えていくことが危惧される。

今後、一人暮らしや老老介護の世帯は一層増えていく。介護保険制度が始まった頃とは世帯状況が変わってきていることに、介護保険制度、そして今の社会保障制度は対応できていない。一人暮らしや老老世帯の「生活全般の支援」を担う仕組みのなさが、今、ケアマネへの負担となって降りかかっている。

多くのケアマネが、「他に誰もやれる人がいないから」「私がやらないと利用者が困るから」と、支援職としての倫理観で担わなくてもいい業務を担っている。

しかし、それがケアマネのあるべき姿とは思えない。

本来ケアマネは、前出の脇さんの言葉にあったように、「利用者の意向や願いなどのお話を伺う時間を大切にしたい」はずだ。

このままケアマネが「何でも屋」のように扱われ、本来業務ではないことを担い続ける状況が続けば、ケアマネは疲弊し、いつか担い手がいなくなってしまうかもしれない。

介護保険制度が、ケアマネ不足から立ちいかなくなる日が来てはならない。

ケアマネが本来担うべき役割は何なのか。

その業務を担うのは、本当にケアマネでなければならないのか。

それを、国も、自治体も、一般企業も、利用者も、そしてケアマネ自身も、改めて考える時期に来ているのではないだろうか。

最後に。

ケアマネを疲弊させている大きな問題は、実はもう一つある。

介護保険制度開始から23年たち、利用者も変わってきている。権利意識が高まっている利用者やその家族からの過大な要求やハラスメントに苦しむケアマネも多い。

これについてはまた別の機会に取り上げたいと思う。

【記事作成協力に感謝いたします(順不同)】

・ステップ介護・日髙淳様

・横浜市すすき野地域ケアプラザ・小薮基司様

・元町ケアサービス・加藤由紀子様

・株式会社ゆりかご・脇健仁様

・ケアプランナーみどり・原田保様

・柏市光ヶ丘地域包括支援センター・神津様

・社会福祉法人協同福祉会様

・社会福祉法人悠・安田篤様

・株式会社未来企画・福井大輔様

他、アンケートにご協力くださった皆さま

【参考資料】

平成24年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要

令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要

令和5年度運営の手引き 居宅介護支援/横浜市介護事業指導課

令和4年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査 結果報告書

介護福祉ライター/社会福祉士+公認心理師+臨床心理士

高齢者介護を中心に、認知症ケア、介護現場でのハラスメント、地域づくり等について取材する介護福祉ライター。できるだけ現場に近づき、現場目線からの情報発信をすることがモットー。取材や講演、研修講師としての活動をしつつ、社会福祉士として認知症がある高齢者の成年後見人、公認心理師・臨床心理士としてクリニックの心理士、また、自治体の介護保険運営協議会委員も務める。著書として、『介護職員を利用者・家族によるハラスメントから守る本』(日本法令)、『多職種連携から統合へ向かう地域包括ケア』(メディカ出版)、分担執筆として『医療・介護・福祉の地域ネットワークづくり事例集』(素朴社)など。

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