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外に出るリスクと家にこもるリスク、高齢者はどちらを取るべきか?【#コロナとどう暮らす

宮下公美子介護福祉ライター/社会福祉士+公認心理師+臨床心理士
高齢者の“ウィズ・コロナ”生活はどうあるべきか(写真:アフロ)

判断が難しい、高齢者の“ウィズ・コロナ”生活

5月25日に緊急事態宣言が全面解除になり、新型コロナウイルスと共存しながら暮らす生活が始まっている。密閉、密集、密接の「3密」を避けながら、どのようにして日常生活を取り戻していけばいいのか、手探りの日々だ。高齢者は、感染すると重症化するというデータが示され、とりわけ判断が難しい。

Yahoo!ニュースでは新型コロナウイルスを経験した社会が今後どのように変化していくのか、皆さんが不安に感じていることをコメント欄に記載する記事を公開している。そこに高齢者の活動を支える方から悩みが寄せられた。次のような内容だ。

高齢者がボランティア活動する団体で、研修や会議の取りまとめを担当しています。

30名程度が集まる研修は控えた方がよいでしょうか。会場は窓の開放ができません。会議室を貸してほしいと要望が出ていますが、クラスター発生の恐れから許可は出せずにいます。高齢者にとってオンライン会議はなかなか難しいようです。

高齢者が「新しい生活様式」に移行するのは難しそうで、悩んでいます。

ITの活用に不慣れな方も多い高齢者世代は、若い世代とは異なる「コロナと共にある生活」を考えていく必要があるかもしれない。これからの高齢者の生活について考えてみたい。

高齢者対象の講座や集会は、休止しているところが多い※写真はイメージ(写真:アフロ)
高齢者対象の講座や集会は、休止しているところが多い※写真はイメージ(写真:アフロ)

デイサービス利用のメリットとデメリットは

複数の高齢者が集まる場として、要支援・要介護者を対象としたデイサービスがある。自宅から週に数回通い、食事や入浴、リハビリ、レクリエーションなどの提供を受けるサービスだ。2018年度には、全国で約160万人の要介護者が利用した。

新型コロナ感染拡大の影響で、一部、休業や受け入れ制限を行ったデイサービス事業所もある。しかし多くは、感染予坊に努めながら運営を続けている。一方、高齢者の方でも、感染を恐れ、利用を自粛しているケースも少なくないようだ。

高齢者支援を考える上で、まずはデイサービスを利用者の視点で見てみよう。

高齢者が集う場の利用については、利用するリスクと利用しないリスクを考えて判断することが大切だ。

画像制作:Yahoo!ニュース
画像制作:Yahoo!ニュース

利用すれば感染リスクは高まるが、利用しないと、認知機能や身体機能が低下する可能性は極めて大きい。認知症のある人など、見守る目がないと一人でふらりと出かけて帰れなくなることも考えられる。

マシンなどを用いた運動系ではなく、おしゃべりを楽しむような滞在型のデイサービスであっても、1~2カ月、利用を休止した高齢者の心身機能の低下は顕著だと、あるケアマネジャーは語る。それだけ、高齢者の心身機能は低下しやすいということだ。

そう考えると、実は利用しないデメリットの方が多いかもしれない。デイサービスを利用した場合、感染リスクがどれぐらいあるかを、冷静に検討する必要がある。

利用しているデイサービスの感染予防策の確認を

多くのデイサービスで行われている感染予防対策は、おおむね下記のような内容だ。

利用を継続するかどうか判断する際はきちんと確認してみよう。

【職員】

  • 出勤前に検温を行い、発熱、風邪の症状がある場合は出勤停止
  • 家族等に感染者が出た場合は出勤停止
  • 出勤後すぐに、手洗いあるいは手指のアルコール消毒を実施
  • 勤務中はマスクを着用
  • 1人の利用者に体に触れるケアをしたあとは、その都度、手洗いあるいは手指のアルコール消毒を実施
  • 不必要に利用者と接触しない、利用者同士を接触させない 等

【利用者】

  • 送迎時に検温し、発熱、風邪の症状がある場合は利用を控えてもらう
  • 利用中はマスク着用
  • 利用中はソーシャルディスタンスを意識してもらう
  • 家族等に感染者が出た場合は利用停止 等

【事業所としての対応】※事業所により異なる

  • 共用する箇所(送迎車両内、トイレのドアノブ等)の消毒
  • 利用人数を制限し、ソーシャルディスタンスを確保する
  • お茶の提供を休止し、水筒を持参してもらう 等

このほか重要なのは、近隣のデイサービスで感染者が出た場合のリスク管理だ。

デイサービスの危機管理についての記事で述べたが、近隣のデイサービスや、介護サービスをコーディネートするケアマネジャーとの連携が不十分だと、感染情報が伝わらず、感染者や濃厚接触者に利用を休止してもらうすべがない。

利用しているデイサービスの連絡体制も確認したい。

しかし、このウイルスの感染を完全に防ぐことは難しい。感染リスクと利用しないリスクをどう考えるかは、結局のところ、高齢者本人と家族次第だ。

以前、デイサービス利用継続の判断についての記事にも書いたが、高齢者は残された人生が長いとは言えない。厳しい言い方になるが、高齢者本人がリスクをとっても制限の少ない生活を望むなら、制限の多い生活で長生きすることとどちらが幸せかを、家族は十分考える必要があるだろう。

手すりやドアノブなど、多くの利用者が触れる箇所は1日数回消毒するというデイサービスもある(フリー画像)
手すりやドアノブなど、多くの利用者が触れる箇所は1日数回消毒するというデイサービスもある(フリー画像)

高齢者が集まる場の運営はどうするか

さて、冒頭で紹介した高齢者の活動支援について、考えてみたい。

新型コロナウイルスが、急に消えてなくなることはない。

いつまでも、集会を一切開催しないというわけにはいかないだろう。厚生労働省からも5月末、自治体宛に「新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に配慮して通いの場等の取組を実施するための留意事項について」という事務連絡が出た。

これによると、感染症に詳しい専門職の助言を得ながら開催の可否や実施方法を決めるよう求めている。そしてやはり基本はこの4点だ。

* 「3密」を避けること

* ソーシャルディスタンスを確保すること

* マスク着用

* 手洗い

そして、以下のような注意事項が記されている。

  • 運営者、参加者とも検温して、発熱・風邪症状がある場合は参加を控える
  • 複数の人が触れるドアノブやテーブルは適宜消毒
  • 室内での開催の場合は、1時間に2回以上、数分間窓を全開にして換気
  • 飛沫飛散防止のため、声を出す機会を少なくする。歌のアクティビティは止める
  • 息が荒くなる運動は避ける
  • 熱中症予防の観点から、水分補給、室温調節に留意する
  • 外での開催の場合は、2m以上離れていればマスクを取る
  • 飲食を伴う集会は、横並びの席とする
  • 食事は大皿ではなく個別の配膳。お菓子は個包装のものにする
  • 食器や箸は使い捨て、あるいは洗剤で適切に洗って使用する
5月末、厚生労働省も高齢者が集う「通いの場」等の再開を意図した通知を発出(筆者撮影)
5月末、厚生労働省も高齢者が集う「通いの場」等の再開を意図した通知を発出(筆者撮影)

「3密」を避けて集える方法を見出す

具体的な対応を紹介しよう。

横浜市すすき野地域ケアプラザ(以下、すすき野ケアプラザ。地域住民が利用できる集会室などがある)では、6月1日から閉館時間を早め、活動制限など利用ルールを定めた上で、集会室などの利用を再開した。

館内入り口での手指消毒とマスク着用を必須とし、発熱や咳などの風邪症状がある人の利用を制限。

活動内容についても、横浜市の指針に従い、運動系・歌、吹奏楽の演奏活動や、飲食を伴う活動(持参した水筒、ペットボトルはOK)、麻雀や囲碁、将棋など近い距離で行う活動の受け入れは見合わせた。

横浜市ではまた、前後左右1mのソーシャルディスタンスを保つため、4平方メートルに1人を基本とし、集会室等の利用定員を面積÷4の人数とするモデルを示している。

すすき野ケアプラザの最も大きい集会室(100平方メートル)では、使用できるテーブルの上限が18台。そこで1人1台となる18人を利用定員と決めた。「面積÷4」より少ない人数だ。

窓やドアは開けたまま使用。貸し出し物品はスリッパも含め、すべて使用禁止。上履き持参としている。

また、感染拡大防止のため、館内に案内表示を掲示し、通行ルートも指定。エレベーターの使用も極力控えてもらい、階段の使用を呼びかけている。

すすき野ケアプラザのセンター長を務める小薮基司さんは、「いつまでも活動を控えるのではなく、『3密』をいかに回避するかという問題をクリアして、どんどん活動を再開できるようにしていく方が良いと考えています」と語る。

自宅にいてもつながりが感じられる工夫も

すすき野ケアプラザではまた、「折り紙講座」など自主事業の動画配信も行い、自宅にいてもつながりが感じられるよう工夫している。

高齢者だから、インターネットでの動画視聴やビデオ通信は使えない、という声をよく聞く。しかし、高齢者本人も家族も「できない」と思い込んではいないか。これを機会にITの活用にチャレンジしてみたら、新しい世界が開けるかもしれない。

新型コロナウイルス感染による重症化リスクは怖い。しかし、恐れて閉じこもり続けているうちに、高齢者の人生が、ただ消費されていくのも怖い。

少しずつでいい。

「3密」による感染リスクに適切に備えて家から出かける。ソーシャルディスタンスを保って人と接する。ITを活用して人と交流する。

そうすることで、高齢者も新型コロナウイルスと共に暮らす「新しい生活様式」をつくっていってほしい。

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※記事をお読みになって、高齢者の生活・活動支援についてさらに知りたいことや疑問に思っていること、自分なりの対策などのアイデアがありましたら、ぜひ下のFacebookコメント欄にお寄せください(個別の回答はお約束できませんのでご了承ください)。

また、Yahoo!ニュースでは「私たちはコロナとどう暮らす」をテーマに、皆さんの声をヒントに記事を作成した特集ページを公開しています。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

介護福祉ライター/社会福祉士+公認心理師+臨床心理士

高齢者介護を中心に、認知症ケア、介護現場でのハラスメント、地域づくり等について取材する介護福祉ライター。できるだけ現場に近づき、現場目線からの情報発信をすることがモットー。取材や講演、研修講師としての活動をしつつ、社会福祉士として認知症がある高齢者の成年後見人、公認心理師・臨床心理士として神経内科クリニックの心理士も務める。著書として、『介護職員を利用者・家族によるハラスメントから守る本』(日本法令)、『多職種連携から統合へ向かう地域包括ケア』(メディカ出版)、分担執筆として『医療・介護・福祉の地域ネットワークづくり事例集』(素朴社)など。

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