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暴力、暴言、介護拒否……。身近な高齢者との付き合いに悩む人への4つの提案

宮下公美子介護福祉ライター/社会福祉士+公認心理師+臨床心理士
こちらの感覚を押しつけても、高齢者との付き合いはうまくいかない(ペイレスイメージズ/アフロ)

介護職(介護従事者)へのハラスメントについての取材をしながら、親など身近な高齢者からの暴言、暴力、介護拒否で悩む家族のことを思った。ハラスメントの記事にも書いたが、共通する部分が多いからだ。そうした悩みの全てを解決できるわけではないが、高齢者との付き合い方として知っておいた方がよいこととして、以下の4つを挙げてみたい。参考にしてもらえればと思う。

(1)ほめる・否定しない・叱らない

まるで、子育てのようだが、高齢者に対しても(本来、誰に対しても、なのだが)ネガティブなメッセージは極力避けた方がいい。高齢になると、苦手なこと、できなくなることが増える。それを、「なぜできない」「また失敗した」「気をつけろ」といったところで、いいことはない。注意すれば次からは気をつけるだろう、というのは、若い人の発想だ。注意を受けた高齢者は、次に失敗しない可能性より、反発する、自信を失う、行動を制限する、注意した人を恐れるようになるなど、マイナス面の方が大きい。

しかし、家族は思いのほか、これをやってしまいがちだ。衰えていく親のことを、実は、子どもの方が本人以上に受け入れられないという場合もある。そして、何とか衰えを食い止めようと、叱咤激励してしまうことがあるのだ。親への愛情からの行動だが、残念ながら、功を奏さない場合の方が多いことを知っておきたい。

子育てであれば、子の性格によっては、叱咤激励してうまくいく場合もある。能力が開発される途上だからだ。しかし残念ながら、高齢者の能力は年々低下していく。頑張ろうと思っても思うように頑張れないのが、高齢者なのだ。頑張れないのにそれを求められたら、怒鳴ったり、暴れたりして押し返すしかなくなる場合もある。

もともと能力が高い努力家で、頑張らなくてはと考える高齢者であれば、頑張れない自分、頑張っても結果を出せない自分に直面し、落ち込んでしまう。そんな思いはさせない方がいい。自信を失い萎縮すると、行動範囲はどんどん狭まっていく。それまでできていたことも、失敗したら叱られると思うと、怖くてできなくなることもある。ますますできないことが増えていくという悪循環だ。介護している家族は、衰えゆく親などの高齢者に過大な期待をしていないか、自分を振り返ってみることも必要だ。

叱咤するより、できたこと、できていることを認め、ほめることを意識しよう。そうでなくても、高齢者は自信を失っていくもの。本人はできていることは当たり前と捉え、できないことに目が向きがちだ。できないことを必要以上に気にしないよう、家族は、できていることに目を向けられるように声をかけてほしい。

認知症のある人、失語症のある人などは、気持ちを言葉にできなくて、暴力に訴えてしまうこともある。今、着替えたくないと思っているのに、着替えさせられたら、手を振り払うこともあるだろう。両手がふさがっている時に、嫌なことをされたら、怒鳴ったり、つばを吐いたりする人もいるかもしれない。

そうした行為を受けると、人はついカッとしてしまいがちだ。しかし、人の行動には何か理由がある。なぜそんな極端な行動をとったのか、カッとしてもそれを相手にぶつける前に、背景にある気持ちを考えてみてほしい。

高齢者はできないことに必要以上に目を向けていると、気持ちが落ち込み、生きる希望を失ってしまうこともある。周囲は、意識してポジティブな言葉をかけたい(写真:ペイレスイメージズ/アフロ)
高齢者はできないことに必要以上に目を向けていると、気持ちが落ち込み、生きる希望を失ってしまうこともある。周囲は、意識してポジティブな言葉をかけたい(写真:ペイレスイメージズ/アフロ)

(2)説得しない・諦める

いくら説明しても理解しない。言っても言っても伝わらない。親と話していて、そんな経験をしたことはないだろうか。もともと、周囲の話にあまり耳を傾けないタイプの人もいる。理解力が衰えて、理解することを諦めている人もいる。いずれにせよ、そうした高齢者に何とか理解させようとしたり、説得してこちらの思惑通りに動かそうとしたりするのは、諦めた方がいい場合もある。

説得の努力が高じて、怒鳴り合いになり、親子関係を悪くしてしまうこともある。子どもに対して強い父・強い母だった人たちには、特に子どもから指図されるのを嫌う人が多い。高齢になり、親子の関係性が変わったのを受け入れるのは、そうしたタイプの親には難しいこともあるのだ。そこをまず理解してほしい。

怒鳴り合いのケンカなど、認知機能が衰えてきた人の場合は、起きた出来事や言われたことの詳細は覚えていなくても、「この人は自分に嫌なことを言う人だ」といったネガティブな感情だけが残る。そうなると、その後、何を言っても受け入れなくなることもある。理解力が衰えてくると、自己防衛本能がより強く働くのだ。

思惑通りに動かすのを諦めろと言っても、子ども側からすると、受け入れ難いと思うことも多いだろう。それでも、命に関わることでなければできるだけ目をつぶる、諦める努力をしてみてほしい。そして、起きてしまったことは、仕方がないと受け入れることも大切だ(ただし、自動車の運転については、危ないと思ったら関係を損なうことを恐れず、辞めさせる必要があるが)。

大概のことは、高齢者が子世代の思い通りに動いてくれなくても諦めた方がいいが、車の運転だけは、危険を感じたら関係を損なうことを恐れず、全力で辞めさせてほしい(写真:フリー画像)
大概のことは、高齢者が子世代の思い通りに動いてくれなくても諦めた方がいいが、車の運転だけは、危険を感じたら関係を損なうことを恐れず、全力で辞めさせてほしい(写真:フリー画像)

オレオレ詐欺でお金を奪われた高齢者には、自殺した人もいると聞く。それは、お金を奪われたこと以上に、周囲から責められ、あざけられたことが大きく影響しているという。詐欺に遭って一番傷ついているのは本人だ。そこに追い打ちを掛けるように、家族や周囲から責められたとしたら、その心中は察するにあまりある。

繰り返しになるが、失敗を責めたところで、高齢者の場合、得るものは少ない。どうかそのことは、よくわかっておいてほしい。

(3)ストレスを発散してもらう

すでに述べたとおり、年齢を重ねると、苦手なこと、できないことが増えていく。それは本人にとっては、悲しみであり、心の痛みを伴うことだ。できないことを突きつけられることが増えれば、それだけストレスがたまっていく。たまったストレスはどこかで発散する必要がある。

しかし高齢になって行動範囲が狭くなった人、介護が必要になった人にとって、ストレスを発散する場は限られている。そのため、家庭で発散せざるを得ないということもあるだろう。外出の機会を増やす、飲み屋やカラオケに連れて行く、買い物に連れて行く、かわいがっている孫に会わせるなど、本人の趣味嗜好に合わせて、ストレスを発散できる機会をつくるといい。

要介護の人であれば、デイサービス(通って利用する介護施設)なども気分転換になる。デイサービスを嫌がる男性も、リハビリ特化型と呼ばれる運動中心のデイサービスなら行くという人は多い。そのほか、地域によっては、レストラン並みの食事を楽しめるデイサービスや、ちょっとした仕事をして小遣いが稼げるデイサービスなど、特色を持つデイサービスも増えてきた。ケアマネジャー(介護サービスをコーディネートする専門職)に、地域にどんなデイサービスがあるか、特色を聞いてみよう。

カラオケなど、本人が好きなことを楽しめる機会を意識してつくり、ストレスを発散してもらおう(写真:フリー画像)
カラオケなど、本人が好きなことを楽しめる機会を意識してつくり、ストレスを発散してもらおう(写真:フリー画像)

(4)得意なことをやってもらう

誰でも、得意なことを任され、周囲に喜ばれたり、ほめられたりするとうれしいものだ。ほめられること、注目されることが少なくなった高齢者にとっては、特に喜びが大きい。しかし、ただ得意なことをやってくれと言っても、人はそう簡単には動かない。やってみようという気にさせる工夫が必要だ。

女性であれば、家事については任せられる部分があるはずだ。危ないから、時間がかかるから、と取り上げている仕事を、本人に返すだけで、生き生きとしてくることもある。「お母さんのつくった○○が食べたい」と言われたら、ついからだが動いてしまうという母親は多いのではないか。女性同士なら、出身地の郷土料理や得意料理を教えてほしいと言ってみるのもいいだろう。

男性の場合は、かつての仕事で培った能力を発揮してもらう場をつくれるといい。企業勤務経験者のボランティア男性たちが、市内の「つどいの場」づくりにマネジメント能力を発揮し、大いに活躍している自治体もある。「お父さんを見込んで」「得意だと言っていたから」と言われたら、悪い気はしないはずだ。

得意のギターを担いで高齢者施設に行き、歌のボランティアに勤しむ男性もいる。ボランティア活動については、住んでいる地区にある地域包括支援センターや社会福祉協議会が相談に乗ってくれる。

楽器の演奏や手品など、得意を生かしてボランティアをする高齢者もいる。自分の得意なものを披露することができ、かつ喜ばれるボランティアを生きがいだという人もいる(写真:フリー画像)
楽器の演奏や手品など、得意を生かしてボランティアをする高齢者もいる。自分の得意なものを披露することができ、かつ喜ばれるボランティアを生きがいだという人もいる(写真:フリー画像)

自分史作りもいい。本人が自分で作るのもいいが、できることなら、子世代が親のこれまでの人生を聞いてみるともっといい。どんな人の人生にも何らかのドラマがある。そのドラマに興味を持ってもらえるのは、誰でもうれしいことだ。また、これまでの歩みを振り返ることは、よくあんな苦労を乗り越えたな、など、過去の自分を再評価し、人生への満足感を高めることにもつながる。

子どもが耳を傾けてくれたら、照れくさいながらもうれしいはずだ。子どもにとっても、親の意外な一面を発見したり、今の親の人となりが形成された背景を感じ取れたり、思いのほか楽しい経験となる。なかなかまとまった時間を取るのは難しいだろうが、少しずつでも話を聞いていくと親子の良い関係作りにも役立つだろう。

以上、対応に苦労している高齢者への接し方について4つの提案をしてみた。身近な人ほど、照れや甘えから、お互いに厳しい態度を取ってしまいがちだ。しかし、親など高齢になった身近な人と共に過ごす時間は、そう長くはない。関係を損なうことがないよう、参考にしてもらえればと思う。

介護福祉ライター/社会福祉士+公認心理師+臨床心理士

高齢者介護を中心に、認知症ケア、介護現場でのハラスメント、地域づくり等について取材する介護福祉ライター。できるだけ現場に近づき、現場目線からの情報発信をすることがモットー。取材や講演、研修講師としての活動をしつつ、社会福祉士として認知症がある高齢者の成年後見人、公認心理師・臨床心理士としてクリニックの心理士、また、自治体の介護保険運営協議会委員も務める。著書として、『介護職員を利用者・家族によるハラスメントから守る本』(日本法令)、『多職種連携から統合へ向かう地域包括ケア』(メディカ出版)、分担執筆として『医療・介護・福祉の地域ネットワークづくり事例集』(素朴社)など。

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