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同郷のモンスターが語る、親友フルトンが井上尚弥に番狂わせを起こす理由

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
エニスvsチュカジャン(写真:アマンダ・ウェスコット//ショータイム)

30勝27KO無敗のウェルター級

 5月7日、横浜アリーナで前世界バンタム級4団体統一王者井上尚弥(大橋)の挑戦を受けるWBC・WBO世界スーパーバンタム級統一王者スティーブン・フルトン(米)はペンシルベニア州フィラデルフィアの出身。今、フィラデルフィアではもう一人、注目のボクサーが台頭している。IBFウェルター級暫定王者ジャロン・エニス(米)だ。

 フルトン同様、PBC(プレミア・ボクシング・チャンピオンズ)傘下でキャリアを進めるエニス(25歳)はこれまで30勝27KO無敗1無効試合と井上並みのKO率を誇る強打者。暫定王者に就いた今年1月の試合は相手(カレン・チュカジャン=ウクライナ)の消極的な戦法に遭い、連続KO勝利は19でストップしたが、スター選手が集うウェルター級で、バージル・オルティスJr(米)と並ぶ卓越した逸材と見なされる。

 そしてエニスはフルトンの親友という関係にある。そのエニスがボクシング専門サイト「ボクシングシーン・ドットコム」のインタビューで「フルトンは日本でショックを起こす」と友人の勝利を支持する。

フィラデルフィアから愛をこめて

 フルトンには“クールボーイ・ステフ”というニックネームがあるが、エニスは愛情をこめて“スクーター”とフルトンを呼ぶ。

 「イノウエは賢明な決断をしたとは思わない。彼(フルトン)は両手にいっぱいのもの(ファイトマネー)を得るけど、それだけではない。リングで起こる結果は予期されないものとなる」

 予期されないものとは不利を予想されるフルトンが番狂わせを巻き起こすことである。

 「私はスクーターがやってくれると信じている。彼はイノウエにリードを許してベルトを明け渡すなんてことはないよ。彼はウエートを上げることを真剣に考えていた。でも究極的にこのスポーツのパウンド・フォー・パウンド・ナンバーワンを狙う道を選んだんだ」

 フルトンを称賛するエニスはフィラデルフィアの「ネクスト・チャンプ・ジム」、フルトンは「ジェームス・シュラー・ボクシング・ジム」でトレーニングする。それでも以前は同じジムで汗をかいた仲。今でも2人は交流を保ち合いながら向上に努める。親友を間近に見るエニスは、モンスターを負かす理由を明かす。

「スクーターはすべてのツールに磨きをかけている。彼のトータルのボクシング能力、器用さ、品行、かなりあるパンチングパワーが難関突破のカギとなるだろう。そう、オールラウンドプレーヤーであることとキャラクターがタイトルを守るファクターになる。それは彼のレコード(21勝8KO無敗)が示している。試合の夜、彼は私を落胆させないと誓う。彼は常に勝利の道を探し求めているから」

エスピノサ・ショータイム・スポーツ社長をはさんでフルトンとエニス(写真:ショータイム)
エスピノサ・ショータイム・スポーツ社長をはさんでフルトンとエニス(写真:ショータイム)

フルトンが見せる思いやり

 フルトンに関して、エニスが言及する器用さやトータルの能力は誰もが異を唱えることはないだろう。ここで注目したいのは品行やキャラクターという言葉だ。これは彼と直に接していないとなかなか出て来る言葉ではない。エニスから見たフルトンは、どこまでもナイスガイに映る。

 同時にフルトンも地元のプロスペクトに対して気遣いを見せる。以前も触れた彼らの試合を米国で中継する「ショータイム」のポッドキャスト番組で、ブライアン・カスター氏(インタビュアー)から「あなたは世界チャンピオンに就き、日本のスター選手と戦うことになった。でもブーツ(エニスのニックネーム)はまだ世界挑戦すら実現していない」と聞かれると「いい話が舞い込むために準備をしておけと言っている。まだ君はキャリアがスタートしたばかり。若いんだから焦ることはないよ」とアドバイスを送ったという。

 フィラデルフィアの怪物が次に覚醒する時、果たしてフルトンはどんなポジションに就いているだろうか。今年、断食月が始まるのは22日。スーパーバンタム級2団体王者はフィラデルフィアのほか、テキサス州やロサンゼルスでも調整を図るもようだ。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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