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悔やまれる1試合が生んだ悲劇…田中恒成、比嘉大吾に挑戦した世界王者がリング禍

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
比嘉大吾に挑戦したフエンテス(右)(写真:日刊スポーツ/アフロ)

新鋭に倒され、脳手術

 元WBOミニマム級王者で日本で田中恒成(畑中)、比嘉大吾(志成)と戦ったモイセス・フエンテス(メキシコ)が痛烈なKO負けを喫し、脳手術を受けるショッキングなニュースが伝わった。フエンテス(34歳)は16日(日本時間17日)メキシコのリゾート地カンクンのグランド・オアシス・ホテルでダビ・クエジャール(メキシコ)とスーパーフライ級10回戦で対戦。6ラウンド、19歳の無敗の新鋭クエジャールが放った左フックを浴びて昏倒。担架で会場を去り、搬送された病院で凝血を解除する脳の切開手術を受けた。

 フエンテスは2018年9月、4階級制覇王者“ロマゴン”ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)の再起戦の相手を務め、5回、強烈な右カウンターを食らってKO負けして以来のリング。対するクエジャールは今年6月メキシコ内のサバイバル戦で9回KO勝ち。年齢、勢いには明らかな差があった。ちなみに争われたタイトルはWBCスーパーフライ級ユース・シルバー王座。“ユース”王座は23歳以下が対象だが、フエンテスが相手に駆り出されたことが悲劇につながった。

 この試合で20勝13KO無敗となったプロスペクト、クエジャールに対しフエンテスは出だしから劣勢を強いられた。ジャブ、左フックを浴びて右目が腫れ出したベテランは3回、右を痛打されてフリーズ。ダウン寸前に陥る。辛うじてラウンド終了にこぎ着けたが、コーナーに戻ったフエンテスにはオフィシャル陣から棄権が要請されたほど。6回開始前には立会人として出席したWBCマウリシオ・スライマン会長直々、棄権が進言されたが、セコンドが拒否した。

 現地ニュースでは最悪の事態は回避される見込みだが、事故が発生する前にストップされていれば……と残念でならない。19年7月のスーパーライト級世界ランカー対決でスブリエル・マティアス(プエルトリコ)に11回TKO終了負けしたマキシム・ダダシェフ(ロシア)はインターバルでチーフセコンド(元世界王者ジェームス・マクガート)がストップしたものの、死亡事故が発生。そのケースからもフエンテスは止められて当然だったと思われる。

3年前、ローマン・ゴンサレス(右)に痛烈なKO負けを喫する(写真:tudn.com)
3年前、ローマン・ゴンサレス(右)に痛烈なKO負けを喫する(写真:tudn.com)

一流選手たちとグローブを交える

 メキシコシティ出身のフエンテスは身長169.3センチ、リーチ173センチ(田中戦の時のデータ)と軽量級では恵まれた体格を誇る。WBOミニマム級王者に就き2度防衛。その一つでミニマム&ライトフライ級2階級を制覇し軽量級屈指の名王者だったイバン・カルデロン(プエルトリコ)に5回KO勝ちし引退に追い込んだ。

 ベルト返上後、ライトフライ級に転向。のちに4階級制覇を達成するWBO王者ドニー・ニエテス(フィリピン)に挑み、初戦はドローだったが、14年5月の再戦では9回KO負け。ニエテスとの2戦の間にWBOライトフライ級暫定王座を獲得したこともある。15年12月には、WBOスーパーフライ級王者井岡一翔(志成)に挑戦し善戦した記憶が新しいフランシスコ“チワス”ロドリゲス(メキシコ)に2-1判定勝利を収め存在感を示した。

 痩身の体躯ながらメキシカンらしい好戦的な戦法と強打を誇ったフエンテスは16年の大みそか、岐阜で田中恒成に移ったWBOライトフライ級王座に挑戦する。しかし田中のスピードと機動力に手を焼き、自慢のパンチは不発。田中の猛攻に晒され5回TKO負けで敗退した。

 2度目の来日は18年2月。15連続KO勝ちの日本タイ記録がかかったWBCフライ級王者比嘉大吾に比嘉の地元沖縄の那覇で挑んだ。だがこの試合も引き立て役に甘んじる。初回、持ち味を発揮する前に比嘉の強打で倒れ、カウントアウトされた。何とか立ち上がったフエンテスは納得がいかない態度を見せたが、続行されていても試合は長引かなっただろう。

1試合多くやり過ぎた

 そして同年9月、ロマゴンの相手に抜擢され、ショッキングなKO負け。ダメージが心配された。アグレッシブな戦法を売り物にする分、被弾することが多い。ニエテス、田中、比嘉、ロマゴンと相手はトップクラスながらいずれもダメージを引きずる敗戦。3年以上のブランクを経た今回のクエジャール戦は、かなりリスクを伴ったものだった。

 素顔のフエンテスは笑顔を絶やさない明るい男。愛妻家でもあり、ジャニン夫人との間に生まれた2児の良き父として知られる。25勝14KO7敗1分でキャリアの幕を降ろす男は、1試合多くやり過ぎたことが悔やまれる。一日も早い回復を祈りたい。

最愛の家族といっしょに(写真:ボクシング・ビート)
最愛の家族といっしょに(写真:ボクシング・ビート)

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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