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井上尚弥の4団体統一路線はどうなる?バンタム級戦線のカギを握るのはドネアか?

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
カシメロvsリゴンドウ(写真:Sean Michael Ham/TGB P.)

フィリピン人対決は再燃、それとも?

 WBAスーパー・IBF世界バンタム級王者井上尚弥(大橋)が目標にする「比類なきチャンピオン」、同級4団体統一王者への道がスローダウンする見通しが出てきた。井上は次戦でWBO王者ジョンリール・カシメロ(フィリピン)vsWBC王者ノニト・ドネア(フィリピン)の勝者との対決を望んでいる。このうちカシメロはユーチューブを通じて12月11日にリング登場を宣言。相手は井上かドネアを希望した。ただ今月中旬までの状況はフィリピン人対決の勝者vs井上による全ベルト統一戦が有力だった。

 ドネアvsカシメロは8月にゴングが鳴る見込みだったが、ドネア側がカシメロ陣営の薬物検査に対する不透明さを追及。ドネアのレイチェル夫人を巻き込む騒動になり、一度消滅した経緯がある。カシメロはもともと試合が組まれていた前WBAレギュラー王者ギジェルモ・リゴンドウ(キューバ)と対戦。リゴンドウのフットワーク全開の戦法に苦しみながらも判定勝ちを収めた。

 カシメロはリゴンドウを下した時点で、「次はイノウエと」と大いにアピールした。コロナパンデミック発生前に対決が具体化したことも再度締結を促す理由だった。同時に「我々はすでにサインを交わしている」(カシメロのプロモーター、ショーン・ギボンズ氏)という背景もあり、因縁のドネアと次戦で雌雄を決することを匂わせた。「12月11日」の相手はドネアではないかと推測された。

 これまでのところ、カシメロ陣営がドネア側とヨリを戻したという確証はない。カシメロは大いにヤル気のようだが、ドネアの方はまだ疑心暗鬼という状態ではないだろうか。だが「カシメロはドネアとの関係修復が可能だった。カシメロが謝罪し和解が成立したもようだ」(ボクシングシーン・ドットコム)という報道もある。両者の最新の試合を中継した米国有料チャンネルのショータイムは現時点で12月11日のスケジュールを発表していないが、この日にドネアvsカシメロが実現する確率は高いと思われた。

5月、ウバーリを撃沈してWBC王者に就いたドネア(写真:Sean Micael Ham/TGB Promotions)
5月、ウバーリを撃沈してWBC王者に就いたドネア(写真:Sean Micael Ham/TGB Promotions)

WBCとWBOが指名試合を通達

 ところが21日、WBCはドネアに対しバンタム級暫定王者レイマート・ガバリョ(フィリピン)との指名試合をオーダー。カシメロあるいは井上との再戦を目指す状況に待ったがかかった。

 これより前、ドネアのプロモーター、リチャード・シェイファー氏(元ゴールデンボーイ・プロモーションズ最高経営責任者)はドネアが所属する米国興行大手PBC(プレミア・ボクシング・チャンピオンズ)の総帥アル・ヘイモン氏が「カシメロvsドネアを拒絶している」と発言。今後の動きが注目されていた。これに対してギボンズ氏は「こちらはそんなことはない」と交渉が継続中であると反論。成り行きが関心を集めている。

 しかし翌22日、今度はWBOがカシメロにランキング1位ポール・バトラー(英)との指名試合を通達。両陣営に対して20日間の交渉期間を設け、試合が締結するように呼びかけている。その間に決定しなければ入札に持ち込まれる運びだ。

井上vsカシメロの即実現はない

 相次ぐ指名試合の通達でドネア、カシメロ陣営はどう対応するのか。もし応じなければタイトルはく奪の危機に見舞われることもあり得る。井上本人はもちろん、ファンとしても少なからず気になるところだろう。

 そこでギボンズ氏の右腕、業界通のハビエル・ヒメネス氏に聞いてみた。前回、井上vsカシメロの可能性を強調した同氏だったが、「井上戦は今すぐはなくなった」という。それでも第一オプションはドネアだと明かす。ではバトラーとの指名試合はどうなるのか。

 連絡を入れたところ、ギボンズ氏はWBOのフランシスコ・バルカルセル会長と会談中とのことだった。今回の指名試合の交渉に違いない。WBOが折れる可能性はあるのか?結論を急いだところ、ヒメネス氏は「もう少し待ってほしい」という返事。もしかしたら急展開もありというニュアンスだった。

バトラー、ガバリョとも力不足

 当たり前の話だが、ひとまず井上戦がなくなり、ドネアとの交渉がまた進展しないとなると、カシメロ陣営にとりバトラーは次戦の有力な候補者に浮上する。ただこの32歳の英国人はカシメロを脅かす存在とは思えない。これまで33勝15KO2敗のバトラーは、初黒星を喫した相手がカシメロが3回で粉砕したゾラニ・テテ(南アフリカ)。しかも痛烈にKO負けだった。そして2敗目が井上に2回で倒されたエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)。2度ダウンを喫し判定負け。やはりカシメロはドネアと戦ってほしいと願いたくなる。

 一方、WBCがドネアにオーダーするガバリョは、これまで24勝20KO無敗の25歳。以前WBAでもバンタム級の暫定ベルトを獲得しており、2団体で暫定王者というのは珍しい。だが、ロドリゲスとの王座決定戦は不評を買った。試合でガバリョを支持した2ジャッジ以外は誰もがロドリゲスに分があった一戦と見ており、ラッキーな戴冠となった。米国マイアミを拠点にしており、一時、亀田和毅も師事したキューバ人トレーナー、オスミリ・フェルナンデスの指導を受ける。

昨年12月、ロドリゲス(左)に辛勝したガバリョ(写真:Amanda Westcott/Showtime Boxing)
昨年12月、ロドリゲス(左)に辛勝したガバリョ(写真:Amanda Westcott/Showtime Boxing)

 ただこの選手もドネアと対戦すると不利の予想が否めない。ある日本の関係者によると以前、井上のスパーリングパートナーを務め簡単に倒されたという。スコアカードが問題となったロドリゲス戦の後、WBCはダイレクトリマッチをオーダーしたが、ガバリョは応じなかった。おそらく条件がいいドネアとの同国人対決を見据えているからだろう。カシメロ戦が締結しないと、ドネア陣営はガバリョを迎えることになるかもしれない。

ドネアはどう出る?

 カシメロvsバトラー、ドネアvsガバリョは両者が対戦するまでの前哨戦という位置づけになるか。それだけ井上のバンタム級完全制覇のチャンスが遅れることになる。カギを握るのはドネアか?

 まだ可能性が残されているカシメロを選択するか、あるいは一気に井上とのリマッチを実現させるか。ドネアの本心が気になる。同時に彼のシェイファー・プロモーター、強力代理人のヘイモン氏、そしてレイチェル夫人の思惑も今後の展開を左右しそうだ。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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