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悪童ネリも参戦するSバンタム級統一戦が幕開け。覇者が井上尚弥を迎えるシナリオが進行中

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
2階級でWBSS制覇も夢ではない井上(写真:YUTAKA / アフロスポーツ)

岩佐に勝ったアフマダリエフが評価上昇

 中央アジア、ウズベキスタンの首都タシケントで4月3日行われたスーパーバンタム級タイトルマッチはWBAスーパー・IBF統一王者ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)が挑戦者IBF暫定王者の岩佐亮佑(セレス)に5回1分30秒TKO勝ち。2冠の防衛を果たした。岩佐は4敗目(27勝17KO)を喫したことも残念だったが、レフェリーストップのタイミングが早すぎたことがメディアやファンの同情を集めた。

 しかし彼の師匠、セレス小林会長(元WBAスーパーフライ級王者)は「ストップが早いと思うけど、やはりそこはアウェーかなと思っています。(岩佐の)左のタイミングが合って来ていたので残念ですが、あのくらいは想定内なのかなと……」と冷静な対応を示した。私の海外試合の観戦経験から見ても「あのくらい」のストップに何度かお目にかかったことがある。

 海外のファンの間でも「即リマッチだ」という声も聞かれるが、ひとまず岩佐はトップシーンから後退を余儀なくされるだろう。株を上げたアフマダリエフはライバルたちとの統一戦がクローズアップされている。すでに2冠を保持するアフマダリエフは対抗王者からターゲットになりやすい。そして岩佐戦で披露したアグレッシブなスタイルがファンから支持を得ている。26歳で今、勢いがあることも見逃せない。

早くも井上、ネリの名前が浮上

 ファンの中には「次は井上(尚弥)vsアフマダリエフだ」、「その通り。勝者がパウンド・フォー・パウンド・ナンバーワンに認知されるだろう」とコメントする者までいる。井上は現在バンタム級でキャリアを進行させており、ずいぶん飛躍している印象だが、米国の著名メディアでも井上尚弥vsムロジョン・アフマダリエフを「今後待望されるビッグファイト10番」に入れるところがある。また「私はムロジョン対ネリを見たい」と悪童ルイス・ネリ(メキシコ=WBCスーパーバンタム王者)対アフマダリエフを望む書き込みもある。いずれにせよMJ(アフマダリエフのニックネーム)は井上ともネリとも試合が「かみ合う」と見られている。

 その中でWBAはアフマダリエフに対してゴールド王者ロニー・リオス(米)との指名試合をオーダーした。王座を乱発して批判を浴びるWBAはスーパー王者にアフマダリエフ、レギュラー王者にブランドン・フィゲロア(米)、暫定王者にライース・アリーム(米)をスーパーバンタム級で王者に認定。さらにリオスがゴールド王座を所有しており非常に煩わしい。それでもWBCでも現在3位を占めるリオス(33勝16KO3敗=31歳)はボディー打ちを武器とするプレッシャー・ファイターで、2018年8月、前WBC王者レイ・バルガス(メキシコ)に挑戦して判定負けしたあと好調をキープする。アフマダリエフvsリオスの交渉期限は5月6日まで。まとまらないと入札に持ち込まれる。

2冠統一王者アフマダリエフ(左)は井上戦が待望される(写真:Matchroom Boxing)
2冠統一王者アフマダリエフ(左)は井上戦が待望される(写真:Matchroom Boxing)

ネリはフィゲロアと統一戦

 岩佐を下してIBFの指名試合をクリアしたアフマダリエフは本来ならばWBAの二番手王者フィゲロアと対戦すべきなのだが、2人は試合を中継するメディアとプロモーターが違う。前者はストリーミング配信のDAZN、後者はPBC(プレミア・ボクシング・チャンピオンズ)と契約している。その背景でゴールデンボーイ・プロモーションズの選手でDAZNで試合が流れるリオスがピックアップされた。

 一方フィゲロアはネリとの統一戦が5月15日行われることが決まった。場所はロサンゼルス近郊カーソンのディグニティ・ヘルス・スポーツパーク(旧称スタブハブ・センター)。両者ともPBC傘下という背景が交渉をはかどらせた。

旧トレーナーと復縁したネリ

 ネリは昨年、サウル“カネロ”アルバレスやWBCスーパーフェザー級王者オスカル・バルデス(ともにメキシコ)ら著名選手を指導するエディ・レイノソ・トレーナーに弟子入りしたが、すでに同トレーナーの下を去っている。そして一度別れた地元メキシコ・ティファナのイスマエル・ラミレス・トレーナーと再びコンビを組む。元の鞘に収まったのである。

地元ティファナでラミレス・トレーナーとミット打ちに励むネリ(写真:筆者)
地元ティファナでラミレス・トレーナーとミット打ちに励むネリ(写真:筆者)

 最近のインタビューでネリは「レイノソの指導は私のスタイルに合わなかった。私にはミット打ちやゴベルナドーラ(大型円形ミット)打ちがもっと必要だった」と明かしている。だが規律を重んじるレイノソ氏に自由奔放なネリはついて行けなかったと周囲は見ている。その点、10年以上連れ添ったラミレス氏とは「気心が知れているし、また化学変化を起こす。水を得た魚とは俺のことだ」とネリは吹聴。フィゲロアとの統一戦に向け「7ラウンドまでに試合は終わる。たぶん4,5ラウンドあたりでノックアウトできる」と舌の方も絶好調だ。

 ただし元WBCライト級王者オマール・フィゲロアの実弟で、これまで21勝16KO1分無敗のフィゲロア(24歳)はかなりの強敵だ。恵まれた身長とリーチ(それぞれ175センチ/183センチ)を誇り、体格で優位に立てることもネリには不安材料になる。そこはネリも承知で「フィゲロアはリーチが長いしパワーがありとても強い。若いけど経験も豊富だ」と気を引き締める。

バンタム級で井上と対戦したい(ネリ)

 だがそこはネリ。ビッグマウスは健在だ。何と「今でもバンタム級に落とせる」と豪語。続けて「イノウエやノニト・ドネアと対戦したい。とくにイノウエ。彼とはボクシングで決着をつけると同時に経済的な理由でも戦いたい。プロモーター、会社同士の折衝に望みを託している。そう、彼のトップランクと私が所属するPBCが試合をアレンジしてくれることを。繰り返すけどバンタム級も問題ない。今年12月か来年に試合を組んでくれることを期待しているよ」

 同じくネリは「2本のベルトを持っているアフマダリエフは当然、私のレーダーに入っている。我々の戦闘スタイルはファンをエキサイトさせるだろう。またWBOチャンピオンに就いたスティーブン・フルトン(米)も今後ライバルになる」と発言。ただしギエルモ・リゴンドウ(キューバ=WBAバンタム級レギュラー王者)に関しては「彼はチャンピオンなの?やりづらいスタイルだからできれば対戦したくない。ウズベキスタン人(アフマダリエフ)の方がベターだ」とアピールする。

 一部のファンはアフマダリエフに王座を追われた前2冠統一王者ダニエル・ローマン(米)の復活を期待する。2人のリマッチも浮上するに違いない。整理するとアフマダリエフvsリオス(まだ正式に締結していないが)にローマンが挑戦。ネリvsフィゲロアの勝者と同じPBC傘下のフルトンが統一戦という展開になろうか。そこにもしかしたらアリーム(暫定王者)が絡むかもしれない。

ネリとの統一戦が決まったWBAレギュラー王者フィゲロア(写真:WBA)
ネリとの統一戦が決まったWBAレギュラー王者フィゲロア(写真:WBA)

みんなINOUEとの対戦熱望

 これらのキャストによってスーパーバンタム級の王座が統一され“比類なき”チャンピオンが誕生すれば理想的だ。そして彼らに共通しているのはネリに代表されるように将来、井上との一騎打ちを熱望していることだ。

 井上がバンタム級より4ポンド重いリミット122ポンドのスーパーバンタム級に転向する動きはまだない。だが同級の王者、強豪たちはいつでも「ウェルカム」の姿勢なのだ。米国メディアもそれを煽っている印象。スーパーバンタム級の流れは今後、井上の対戦者を決める戦いと化す可能性が大きい。

 メンバーの多彩さはフアン・フランシスコ・エストラーダ、ローマン・ゴンサレス、井岡一翔、シーサケット・ソールンビサイらがしのぎを削る軽量級のホットなクラス、スーパーフライ級に比肩する。統一戦の覇者が井上を迎え撃つのか、それとも井上の転級を待ってトーナメントが幕を開けるのか。ファンの中から「スーパーバンタム級でもWBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)を開催してほしい」という要望が出ている。INOUEブランドの値打ちは絶大だ。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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