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【戌年】飛行犬と淡路瓦が夢のコラボ!島の名物に

南文枝ぐるぐるフリーライター/防災士/元毎日新聞記者
犬小屋の鳥休め部分には、飛行犬が飾られている

 本州と四国を結ぶ、兵庫県南部の淡路島。島の名物の一つが「飛行犬」です。わんちゃんの4本足がすべて地面から離れ、まるで空を飛んでいるように見える一瞬の姿を指します。島内、兵庫県南あわじ市には、愛犬が飛行犬となった瞬間を撮影してくれる広大なドッグランがあります。

 そんな飛行犬と、「三州瓦」(愛知県)や「石州瓦」(島根県)とともに日本三大瓦に数えられ、約400年の伝統がある「淡路瓦」がコラボレーションした犬小屋「デラックス・飛行犬ハウス」が、話題を呼んでいます。その斬新な発想や機能性は高く評価され、昨年10月に東京で開かれた「第22回瓦・造形展」で「現代鬼瓦造形賞」を受賞しました。いったいどのような犬小屋なのでしょうか。

淡路瓦と飛行犬がコラボレーションしたデラックス・飛行犬ハウス。地元の製瓦所社長、道上さん(右端)が制作した。左は制作に協力した飛行犬写真家の的場さんと愛犬のスカイ
淡路瓦と飛行犬がコラボレーションしたデラックス・飛行犬ハウス。地元の製瓦所社長、道上さん(右端)が制作した。左は制作に協力した飛行犬写真家の的場さんと愛犬のスカイ

 飛行犬ハウスを一目見た時に感じたのは、「圧倒的な迫力」です。木造の小屋の屋根は、約15×約19センチの瓦100枚でふかれています。その1枚1枚がいぶし銀の輝きを放ちます。人工芝のバルコニー付きで、サイズは幅約1.3メートル、奥行き約1.5メートル、高さ約1.7メートルと大きめです。

飛行犬ハウスの制作には、瓦100枚を使用。淡路瓦の特徴であるいぶし銀が美しい
飛行犬ハウスの制作には、瓦100枚を使用。淡路瓦の特徴であるいぶし銀が美しい

 屋根のてっぺん、鳥休め(鬼瓦の上の部分)は、瓦と同じ土で焼き上げた飛行犬にしました。まるで空中に飛び出さんばかりの勢いです。その反対側、鬼瓦の部分は、小さな犬小屋で覆われています。その中からも、飛行犬がちょこんと顔をのぞかせています。愛嬌のある表情です。

鳥休め部分に飛行犬が。今にも飛び出しそうな勢いだ
鳥休め部分に飛行犬が。今にも飛び出しそうな勢いだ

 屋根には犬の足跡と「淡路瓦100枚判」の文字。屋根の裾部分、軒瓦にも、犬の足跡。よく見ると、6枚のうち1枚の足跡は、肉球が立体的にデザインされています。反対側の6枚のうち1枚はサッカーボールが描かれています。ボールに犬が遊んだ跡なのでしょうか、小さな足跡がついています。

ハウスのところどころに道上さんの遊び心が。サッカーボールをデザインした軒瓦には、可愛らしい犬の足跡
ハウスのところどころに道上さんの遊び心が。サッカーボールをデザインした軒瓦には、可愛らしい犬の足跡

 そして、飛行犬ハウスのすごさは見た目だけではありません。小屋内にこもった熱が屋根の上の犬小屋から抜けるという換気機能も備えているのです。犬に優しく、実用的です。 

いぶし銀に輝く淡路瓦の魅力を広めたい

 飛行犬ハウスを制作したのは、道上敏夫製瓦所の社長、道上定幸さん(37)。普段は、ひさしや門柱、塀などに使う、屋根瓦よりも少し小さめの瓦を作っています。淡路瓦の魅力を多くの人に伝えようと、瓦を使った造形作品づくりにも力を入れています。

 日本三大瓦の一つの淡路瓦ですが、1995年の阪神淡路大震災で、瓦ぶきの木造建築が多く倒壊したことから敬遠する動きが広まり、生産量は減少しています。道上さんは、4年前に父親の製瓦所を継いでから、強度や耐久性に優れ、見た目も美しい淡路瓦の魅力を広めるためにできることはないかを探っていました。

 そこで思いついたのが、屋根を瓦でふいた犬小屋でした。道上さんの製瓦所で製造する瓦の大きさは、犬小屋の瓦にぴったりでした。当時、実家で犬を飼っていたこともあり、3年前、しっくいの小屋を淡路瓦でふいた犬小屋を完成させました。

屋根の鬼瓦部分にも犬小屋が。斬新で、面白い発想だ
屋根の鬼瓦部分にも犬小屋が。斬新で、面白い発想だ

 その犬小屋を瓦・造形展に出品したところ、多くの来場者に好評だったのです。「こんな犬小屋がほしい」という人もいました。そこで道上さんは考えました。「淡路瓦と同じく、島の名物である飛行犬とコラボレーションしたら面白いかもしれない」。2016年1月、南あわじ市のドッグランを拠点に、全国を回って飛行犬を撮影するカメラマン、的場信幸さん(57)の元を訪ねました。

 的場さんに「飛行犬をモチーフにした犬小屋を作らせてほしい」と頼んだところ、快諾を得られたため、制作に着手し、完成させました。鳥休め部分の飛行犬は、的場さんの愛犬、スカイの若かりしころの写真を参考に、土で作ったパーツを組み合わせて作りました。

飛行犬ハウスの制作で犬への愛着がわいた?!

 そんな道上さんですが、実は、犬が少し苦手です。小さな犬でも触るのは難しいそうですが、今回の犬小屋の制作を経て、「わんちゃんに触る勇気をもらえたような気がします」と話します。

飛行犬ハウスを制作する過程で、犬に愛着がわいてきたという道上さん
飛行犬ハウスを制作する過程で、犬に愛着がわいてきたという道上さん

 完成した犬小屋は、昨年末、道上さんの製瓦所の倉庫から、的場さんやスカイのいる「南あわじドッグラン 飛行犬撮影所」に移設されました。愛犬の撮影に訪れる飼い主たちに、間近で見たり、使ってみたりしてもらおうという試みです。

 的場さんに、完成した犬小屋の感想を聞いてみました。「完璧。素晴らしい出来です。いぶしの瓦には和犬が似合いそうですね。インスタ映えもしそうですし、ぜひわんちゃんと飼い主さんで記念撮影してもらいたいです」

 道上さんは「記念撮影した写真をSNSなどにアップしてもらうことで、少しでも淡路瓦の知名度を上げたいです」と話します。今後、注文があれば、犬種に応じてオーダーメードでの制作も受け付けます。

 南あわじ市の飛行犬撮影所は、2018年元旦から、飛行犬ハウスの前で、来場者とわんちゃんが記念撮影した写真を、1枚プレゼントするサービスも始めました(18年1月末まで)。今年は戌年。飛行犬も淡路瓦も、飛躍の1年になるでしょうか。

飛行犬となったスカイ。飛行犬も淡路瓦も、飛躍の1年となるか?!(的場さん提供)
飛行犬となったスカイ。飛行犬も淡路瓦も、飛躍の1年となるか?!(的場さん提供)

撮影=筆者(一部提供)

ぐるぐるフリーライター/防災士/元毎日新聞記者

1979年、石川県生まれ。同志社大学経済学部卒業後、北國新聞記者や毎日新聞記者、IT企業広報を経て、2013年からフリーライターとして書籍や雑誌、インターネットメディアなどで執筆。現在は兵庫県小野市在住。これまで当ページやニュースサイト「AERAdot.(アエラドット)」などで大阪、神戸、四国の行政や企業、地元の話題など「地方発」の記事を執筆。最近は医療関係者向けウェブメディア「m3.com(エムスリーコム)」で地域医療の話題にも取り組む。地方で面白いことをしている人に興味があります。

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