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知らないと損するお米の選び方 美味しい米を見つけるために絶対調べたほうがいい項目は?

松浦達也編集者、ライター、フードアクティビスト
(写真:アフロ)

今年の新米も出揃ってきました。実のところ今年のお米マーケット、かなり厳しいものになると予測されています。

理由はコロナ禍。緊急事態宣言も明け、かりそめであっても日常が戻ってきたというのに、「またか」とうんざりしたくなりますが、「いま買うべき、買いたいコメ」の話をするためには、まず今年の概況を整理する必要があります。

いま、コメのまわりでは何が起きているのでしょうか。

コロナ禍で一人あたり年間4kg分のコメを食べなくなった。

日本のコメ消費量は1962年をピークに右肩下がりで減少し続けています。特にこの数年、急激な減少傾向にあったときに、新型コロナ禍がやってきて、外食産業に営業規制がかけられ、出口がなくなってしまいました。本来のニーズやクオリティとは関係ない理由でコメあまりに拍車がかかり、出口がなくなってしまっています。

さらに、農協がコメ集荷時に農家に支払う仮渡し金も2年連続で下落。今年9月の取引価格は20年産米の通年平均と比べて約9%も下がり、一見消費者にはうれしくも思える安値基調ですが、コメ農家にとっては大打撃ですし、コメ市場にとって健全なこととも言えません。

米価下落、苦しむ農家 政治に望むものとは(2021.10.22 朝日新聞東京地方版/新潟)

https://digital.asahi.com/articles/ASPBP76ZHPBCUOHB00C.html

上記の記事のほか、今年のコメにまつわる報道をまとめると、

・民間在庫量は189万トンから30万トン増の219万トン。在庫量は15.9%増。

・JAが農家に払う仮渡し金は1万4000円から1800円下落の1万2200円。-12.9%

・14日に報じられた9月の業者間取引価格は-12%。

コメマーケットの苦境が伺えます。おいしいコメは健全なマーケットにこそ宿ります。新米の季節は、普段は流通しにくい地方のコメなども見かける、絶好のメシ食いシーズン。ここは食いしん坊のみなさんの総力を結集して、おいしいコメを次々に平らげていきたいところです。

コメの購入ルート、基準を見直してみる

さて普段、みなさんはどんな店でコメを購入しているのでしょうか。以下は農水省が作成した精米購入時の入手経路を調べた資料です。

https://www.maff.go.jp/j/seisan/keikaku/soukatu/attach/pdf/mr-510.pdf

この数年、だいたい傾向は変わりません。直近の令和2年度(2019年4月-2020年3月)を見ると購入先は次のような順番になっています。

スーパーマーケットで購入 49.8%

家族・知人などから無償で入手15.2%

ネットショッピング9.7%

生協7.0%

ドラッグストア5.7%

生産者から直接購入5.0%

その他4.1%

ディスカウントストア3.9%

米穀専門店2.4%

デパート1.5%

農協1.1%

産地直売所1.1%

コンビニ0.3%

「おいしいコメ」を食べたいと考えたとき、どの選択肢が正しいのでしょうか。

消費者が重視しているのは「価格」に見えるが……

2020年の日本政策金融公庫の「食品購入時の判断基準」調査(3つまで回答)では「米」の項目を見ると、上位から、価格(66.9%)、国内産地(56.3%)、銘柄(44.3%)、味(31.8%)、安全性(20.9%)の順となっています。

選択肢が3つあることで「価格」という回答が突出しているように見えますが、2-5位まではいずれも重複しうる選択肢です。特に「味」と「安全性」という項目はパッケージを見ただけではわからない項目です。

各地域の農協は、奨励するブランド品種のPRにおいて、「食味」を前面に押し出します。つまり「国内産地」や「銘柄」に「味」や「安全性」が内包されていると消費者は当然考えます。

もちろん消費者が「価格」を気にしないわけはないのですが、先の結果をもって「価格」が味や安全性よりも優先される消費者ばかりと考えるのが、早計なのはご承知の通り。各地の農協や生産者の皆様方に置かれましては、この数字や順位はを鵜呑みにして「安かろう」だけに舵をお切りにならないことを切に願っています(ほとんどいないとは思いますが)。

ちなみに僕が先の「購入時の判断基準」調査に回答する立場だったとすると、少なくとも上位5つには選べる回答がひとつもありません。

「価格」は大切ですが、その値付け適正かどうかは価格そのものだけでは判断できません。強いて言えば「安全」と「味」ではありますが、どちらも店頭でパッケージだけを見て判断できるものではありませんし、そもそも「安全」とは何か、「味」とは何を評価して判断するのかが曖昧です。

同じ産地表記でも川一本隔てれば土壌由来の味は異なりますし、同じ品種でも土地が変われば味は変わります。中には新潟のコシヒカリBLといういもち病対策品種のように、他府県のコシヒカリとは近いながらも異なる品種のコメが「コシヒカリ」という名前で売られていたりもするわけです。

重視すべきは、品種・産地よりも状態

となると、いいコメ、好みのコメにはどうやったら巡り会えるのかという話になりますが、おいしいコメに出会う確率を確実に上げる方法がひとつだけあります。

「保存状態のいいコメ」を選ぶことです。「クオリティ・オブ・ライス(QOR)」向上はひとえにどう保存されていたかにかかっていると言っても過言ではありません。

「お米にまつわるQ&A」というようなコンテンツには必ず「どう保存したらいいですか」というような項目があります。米びつに入れて冷暗所、野菜室で保存する、ペットボトルに詰め替えて冷蔵庫、といった解答が見られますが、それ以前に家庭に届くまでの間に低温貯蔵をされていたかどうかが重要です。新米のサイクルを考えると、年の大半は家庭に届く以前のどこかで保存されているのですから。

コメは保存状態によって大きく食味が変わります。保存状態が悪いと脂肪酸が酸化し、古米臭などにつながってしまう。このことは酸化を防ぐには、低温、暗所での保存が効果的。つまり手元に届くまでの間、冷蔵保存をされているかどうかがポイントとなります。

●いい状態のコメはどう選ぶか

一般的な米の流通は、生産者農家 → 農協(JA) → 卸売業者 → スーパーや米穀店などの小売業者→ 消費者という流れになっています。すべての段階で低温・暗所貯蔵がなされていればいいのですが、流通の途中段階は可視化されません。

ではどうするか。貯蔵環境が可視化できる事業者から買うのです。一昔前は流通の形は限定的でしたが、現在、消費者は生産者、農協、卸売業者、小売業者のどこからでも買うことができます。自社で低温貯蔵施設を持っている事業者はその前段階で保存状態のいいコメを選んでいるはずです。

「低温貯蔵」「米穀店」などのキーワードで検索して、引っかかった店舗で買う。低温貯蔵に投資している米穀店には、ネット販売に力を入れている店も多数あります。

さらに地名を加えて近所の店舗を探したり、なんなら近所のお米屋さんに低温貯蔵庫があるか確認してもいいでしょう。どんな品種でも、保存が悪ければ確実に不味くなります。逆にプロが選び、きちんと保存されたコメにはおいしく感じられる何かの食味はあるはずです。

一般に言われる食味には「やわらかい」「かたい(しっかり)」「もっちり」「さっぱり」「甘い」など様々な指標と感じ方がありますが、自分の好みのコメがわからない、もしくは好みの幅を広げたいという方も多いでしょう。

ならばまずは五つ星お米マイスターのいる米穀店か卸売業者に相談するのがおすすめです。「いい生産者」や特徴の違うコメにも詳しく、好みのおかずなどを伝えると産地や品種、生産者にまで踏み込んだ上、ブレンドという秘技を披露してくれたりすることも。ただし、五つ星マイスターにも好みや流儀、それに消費者との相性だってあります。「合わない」と思ったら、サクッと乗り換えればいい。いずれにしても当てずっぽうで買うよりは、よほど好みのコメに当たる確率はあげられるはずです。

●選択肢は増えている

近年、日本のコメは市場評価の高い一部品種にシェアが偏っていました。その象徴的存在だったのはコシヒカリですが、一時期40%近かったシェアも、2020年産では33.7%と落ち着いてきています。その分、この数年で新しく魅力ある米が続々登場しています。

2015年「青天の霹靂」(青森県)、「ささ結」(宮城県)、「はるみ」(神奈川県)

2016年「銀河のしずく」(岩手県)

2017年「新之助」(新潟県)

2018年「雪若丸」(山形県)、「いちほまれ」(福井県)、「ひゃくまん穀」(石川県)、「だて正夢」(宮城県)、「金色の風」(岩手県)、「くまさんの輝き」(熊本県)

2019年「ひめの凜」(愛知県)「ほしじるし」(岐阜県)

2020年「富富富」(富山県)、「粒すけ」(千葉県)

2021年「福、笑い」(福島県)

ざっと挙げただけでこれだけの品種がデビューしていて、まだまだ他にもあります。最近のお米に多い特徴としては、大粒でしっかりした粒感のある米が多いこと。コシヒカリのように粘りと甘みが印象的なだけでなく、新之助や雪若丸のようなより粒感のはっきりした食感が近年のお米のトレンドです。

また以前、コシヒカリと並ぶ人気米だったのに、1993年の大冷害で壊滅的な被害を受けたササニシキもじわじわと人気に復権の兆しがあります。多様であることが必要とされる時代には「いつもの」以外に手を伸ばしたり、おかずやシーンに合わせてお米を選ぶことも大切な振る舞いでしょう。

これぞ! という新米を手に入れたら、炊き方にもこだわりたいもの。今年の夏、いそいそと数十パターンに及ぶ鍋炊きの実験を積み重ねた記事もぜひ参考にしてください。

実験から導き出した、「ご飯力」が著しく高まるレシピ(日経ビジネス)

https://business.nikkei.com/atcl/plus/00004/101200004/

まずはお米の保存環境を「調べて」、専門家に「相談する」ところから。人生をガラリと変える新しい米は、売るほどあるのです。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

編集者、ライター、フードアクティビスト

東京都武蔵野市生まれ。食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで「調理の仕組みと科学」「大衆食文化」「食から見た地方論/メディア論」などをテーマに広く執筆・編集業務に携わる。テレビ、ラジオで食トレンドやニュースの解説なども。新刊は『教養としての「焼肉」大全』(扶桑社)。他『大人の肉ドリル』『新しい卵ドリル』(マガジンハウス)ほか。共著のレストラン年鑑『東京最高のレストラン』(ぴあ)審査員、『マンガ大賞』の選考員もつとめる。経営者や政治家、アーティストなど多様な分野のコンテンツを手がけ、近年は「生産者と消費者の分断」、「高齢者の食事情」などにも関心を向ける。日本BBQ協会公認BBQ上級インストラクター

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