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新型コロナ感染拡大がラグビー新リーグを直撃「コントロールできる部分に集中する」

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
勝利後、笑顔を浮かべるクボタスピアーズのラピース(15日・秩父宮)=筆者撮影

 新型コロナウイルスの再度の感染拡大がスポーツ界を直撃するなか、ラグビーの新リーグ『リーグワン』のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ(旧クボタ)は、NTTコミュニケーションズ・シャイニングアークス東京ベイ浦安(旧NTTコム)に競り勝った。日本代表の主将でもあるクボタスピアーズのフランカー、ピーター・ラピース・ラブスカフニは「コントロールできる部分に集中する」と言った。

 「(新型コロナ禍の)状況を受け入れるしかない。自分たちがコントロールできないところはコントロールできない。でも、コントロールできるところに自分たちの強みをしっかりフォーカスしてやってきました」

 15日の秩父宮ラグビー場。19-9での勝利の後の記者会見。写真の「頭撮り」のため、オレンジ色のマスクを外したラピースは笑顔をつくった。開幕戦が相手チームのコロナ禍で中止となった。実質、新リーグ初戦を制したとあって、言葉には充実感がただよった。

 「戦えたのがまず、よかった。いい準備ができていたので、(初戦が)1週間ずれてしまったが、自分たちはいい試合ができることはわかっていた。どちらに転ぶかわからないハードな試合だった。試合を楽しむことができました」

 それにしても、新型コロナの影響は深刻である。リーグワンは新型コロナの感染拡大を受け、1~3部の全24チームの選手(負傷のため入院中の選手を除く)、スタッフを対象とした新型コロナのPCR検査を実施。総数1706件中、陽性が119件も出た。陽性反応者、および濃厚接触者は試合メンバーから外れるため、15、16日の週末に予定されていた第2節の10試合のうち、1部2試合と3部3試合の計5試合が中止となった。

 前週の第1節と、来週の第3節を加えると、既に計9試合の中止が決まっている。新リーグの一番のコンテンツはもちろん、試合そのものである。リーグワンの立ち上げで、チケット販売権などの興行権がリーグからチームに移ったため、試合がないと、チーム運営も収入面で打撃をこうむることになる。もちろんファンも落胆するだろう。

 この日の「千葉ダービー」「東京ベイマッチ」には、寒い中、5998人の観客が秩父宮ラグビー場に足を運んでくれた。激しいぶつかり合い。とくにブレイクダウン、接点での攻防に、シャイニングアークス浦安の青色、クボタスピアーズのオレンジ色に染まったスタンドが何度も沸いた。

 ラピースは、新リーグの成功が、日本代表など日本ラグビーの盛り上がりにつながることを分かっている。「サポートのみなさんがスタジアムに来てくれるなかでプレーするのはうれしいことです」と言葉に実感を込めた。

 「リーグワンはいいリーグです。チカラとチカラの勝負になると思う。レベルは上がる。しっかり準備をし、毎週、毎週、全力を出していかないといけない戦いがつづきます」

 チームの準備を考えれば、新型コロナの感染予防や行動規範、休養などによる体調管理も重要な要素となる。新型コロナの影響を聞かれると、シャイニングアークス浦安のCTB、シェーン・ゲイツ主将は運営側に感謝し、こう続けた。

 「(新型コロナウイルスの)パンデミックのなかで、まずは人々の健康と安全が、ラグビーより先にくる部分だと思う。規律や感染対策など、自分たちがコントロールできる部分を守っていきたい」

 ところで、優勝争いのことを考えると、チームの「健康」が大きな要素となる。現状ではコロナ陽性者発生により、試合登録に必要なメンバーをそろえられなかったチームは、不戦敗扱いで勝ち点0となるからだ。対戦相手には勝ち点5が付けられている。リーグワンの実施要項の次の第43条(4)が適用されているからだ。

 <試合の中止理由がチームの責に帰す場合、当該試合は開催されたものとみなし、勝ち点の扱いは以下各号の通りとする。

 ①一方のチームの責に帰す場合:その帰責性のあるチームに勝ち点は付与されず、対戦チームに5点を付与する。>

 ただ、これはどうなのだろう。新型コロナ感染発生が当該チームの責なのかどうか。最初に新型コロナに感染した選手が不憫でならない。むしろ、天災などと同様に扱い、次の第43条(3)を適用した方がいいのでは。

 <試合の中止理由が不可抗力の場合、以下各号の通りとする。

 ①延期が可能な場合:再試合とする。

 ②延期が不可能な場合:当該試合は開催されたものとみなし、双方のチームに勝ち点2点ずつを付与する。>

 当然、試合が実施されていれば、勝利で勝ち点4(もしくは5)を確保できたであろうチームからは批判もあるだろうから、ここは①の試合延期の対応策を何とか模索するのが最善ではなかろうか。

 確かに再試合の会場確保や日程調整が難儀なのはわかる。でも、再試合をやることでリーグの価値は上がる。チームもスポンサーもメリットがあるだろう。ファンも喜ぶ。だって、誰だって、中止となった開幕戦、クボタスピアーズ対埼玉ワイルドナイツの試合を見たいに決まっているのだ。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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