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ラグビー再燃ならず。松井主将「メダルをとれず、申し訳ない」

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
東京五輪のラグビーでカナダに完敗した日本代表=27日、東京スタジアム(写真:ロイター/アフロ)

 東京五輪の7人制ラグビー(セブンズ)は27日行われ、日本代表はカナダに完敗し、1次リーグを3戦全敗のB組4位で終えた。決勝トーナメント(上位8チーム)進出を逃し、メダル獲得の夢はついえた。

 カナダ戦の終盤、台風8号接近の影響か、激しい雨が落ちてきた。12-36でノーサイド。主将の松井千士(ちひと=キャノン)はしばし、濡れた緑の芝に片膝をついて、うなだれたままだった。

 試合後のミックスゾーン。その時の心境を問えば、松井主将は「期待されていたと思いますし…」と漏らし、顔を歪めた。ほおに芝のかけらがこびりついていた。

 「15人制日本代表の活躍からラグビー熱がすごくあった中で、僕たちがもう一回、盛り上げようという使命があった。それを果たすことができなかった。メダルを取ることができず、申し訳ない気持ちでいっぱいです」

 一昨年のラグビーワールドカップ(W杯)で会場となった東京スタジアム(味の素スタジアム)だが、その光景は全く違った。満員のラグビーファンで埋まっていたスタンドには観客が誰もいない。ただ選手らの声とレフリーの笛が響きわたるだけだった。空しさが漂う。

 そして、ラグビーファンを熱狂させた日本代表の姿もなかった。ラグビーの魅力が前後半の合計14分に凝縮されたセブンズ。15人制と同じ広さのグラウンドで各チーム7選手が走り回る。そのスピード感、躍動感。だが、セブンズで一番大事なのは、ボールを保持することである。

 それが、できなかった。日本代表にとっては、とくにキックオフが全てだった。前回リオデジャネイロ五輪で4位と健闘した日本代表の桑水流(くわずる)裕策のようなキックオフのスペシャリストがいない。代表12人のうち、5人が海外生まれの選手たち。ボールさえ持てば、それなりの得点力はあったのだか。

 日本代表は初日のリオ五輪金メダルのフィジー戦では、19-24と健闘した。だが、午後のイギリスには、0-34でゼロ封負けした。この日のカナダ戦も、キックオフからリズムを崩され、6トライを奪われた。相手の早い重圧にハンドリングミスが重なった。セル・ジョセが危険なプレーでイエローカードをもらい、数的不利の状況にもなった。

 終了直前、松井主将が俊足を飛ばし、60メートルの独走トライを挙げた。日本は2トライだった。結局、日本はフィジー戦のパフォーマンスを継続できなかった。そこに日本の甘さが垣間見える。

 なぜか。松井主将は「逆にそこ(フィジー戦)で自分たちが過信してしまったところがあったかもしれない」と反省した。

「イギリスに完封負けを喫し、そこで気持ちが切れてしまった。イギリスがディフェンスでフィジーより強くて、フィジカルの部分でも圧倒されてしまった」

 他国も同様だが、日本は新型コロナの影響で、なかなか国際試合をできなかったことも響いた。実戦でしか上げられないディフェンス力、フィジカルの部分があるからだ。キックオフも整備できなかった。

 岩渕健輔チームリーダー(日本協会専務理事)は1次リーグをこう、総括した。

 「一番のポイントにキックオフを挙げていましたけど、フィジー戦を含めて、キックオフで後手に回って、最後まで立て直せなかった」と。

 試合終了後、日本代表はグラウンドで円陣をつくった。岩渕チームリーダーは「まだオリンピックは終わってない」と訴え、こう続けたそうだ。

 「せっかく、ここでやらせてもらって、たくさんの応援ももらっている。未来のために俺たちは戦わないといけない」

 五輪ホスト国の意地である。9-12位決定戦に回ることになったが、最後まであきらめない。からだを張る。その姿を示し、1つでも順位を上げるしかあるまい。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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