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責任と感謝を胸に。東京五輪7人制ラグビー女子、小出深冬。

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
東京五輪への意気込みを語る7人制ラグビー女子の小出深冬(5日・オンライン会見)

 懐かしい顔がたくましく変わっていた。チーム唯一の2大会連続出場となる東京五輪7人制ラグビー女子日本代表の小出深冬(アルカス熊谷=三井住友海上火災保険)のオンライン会見。新型コロナ禍ゆえの不安もあろうが、「(代表)12人に選ばれた責任があります」と言葉には覚悟がのぞいた。

 1995年12月生まれの小出は、神奈川県横浜市出身の25歳。名前の「深冬」は「みふゆ」と読む。母親の故郷の秋田の病院で、大雪の日に生まれたことから、そう名付けられたという。高校3年時に日本代表入りし、2016年リオデジャネイロ五輪にはチーム最年少の20歳で出場した。

 その後、ひざや肩の負傷、腰痛に悩まされ、2019年の春にようやく、本格復帰した。小出は日本代表から離れていた期間を「自分のからだを見つめ直す時間になった」とポジティブにとらえた。

 「ケガをしたことで、自分の食事だったり、生活だったりに 再度向き 直 って、より世界で戦う選手として鍛え直すところを再確認できたなと思います」

 才能は文句なしだ。鋭利するどいラン、切れのある動き…。加えて、フィジカルも強くなって、コンタクトプレーも自信を持ってできるようになった。東京五輪が1年延期となったことで、結果的に五輪代表入りのチャンスが膨らんだ。がんばり屋は声を弾ませた。

 「自分がどれだけ成長できたかを見るためにも、東京オリンピックはすごく楽しみな気持ちです」

 女子ラグビーの五輪チームの平均年齢は22歳と若い。どうしても経験豊富な小出にはリーダーとしての使命感が頭をもたげる。「前回(のリオ五輪)はどうしても先輩たちに頼ってしまうところがあったと感じています。今回は、よりチームのことを考えるようになりました」。積極的に若手とコミュニケーションをとり、戦い方の共通理解、一体感醸成を心掛けているという。

 リオ五輪では、日本代表はわずか1勝の10位にとどまった。世界の強豪との差は歴然としていた。日本代表の個々のスピード、スキルはアップしたが、国際レベルも同様に上がっている。ここはハレ・マキリヘッドコーチのもと、ゲームプラン、結束力、精度に磨きをかけるしかあるまい。東京五輪の予選リーグでは、前回金メダルのオーストラリアと5位の米国、アジアの宿敵の中国と同じ組に入った。

 メダル獲得のポイントを聞けば、小出は「まずは自分たちのラグビーを相手に合わせずにしっかりやり切ること」と応えた。

 自分たちのラグビーとは、「7人全員でアタックしたり、ディフェンスしたり、全員で勝利していくこと」という。即ち、オリンピックのプレッシャー下、全員が自分たちのゲームプランを信じて遂行することだろう。いわば全員ラグビー。個々の強みを生かしながらも、7人全員で連動しながらアタックし、パスやキックで相手スペースを巧みに突いていく。ディフェンスもしかりで、全員で組織だって守っていくイメージか。

 小出は対戦相手をこう見る。まずオーストラリア。「ビデオの印象になるんですけど」と前置きして、こう続けた。

 「オーストラリアはほんとうに一人ひとりの能力が高くて、どの選手も個人技でトライを取り切る力があります。すごくグラウンドを大きく使ってくるラグビーをしてくるので、私たちがいかに相手のラグビーをさせないかが重要になってくると思います」

 続けて、米国はこうだ。

 「アメリカの選手はすごく身長が高くて、キックオフのところを強みにしている印象です。だから、そのセットプレーがキーになる。そこで負けないこと。そのあと、自分たちがいかにボールを持ち続けることが重要になってきます」

 では、中国は。

 「一人ひとりの足の速さであったり、グラウンドを大きく使ったりの印象があるので、その中国に合わせたラグビーをしないというのがキーになるかなと思います」

 故障や新型コロナ禍のことを考えると、小出はラグビーができることに感謝している。責任と感謝。厳しい戦いが予想されるが、「難しさも楽しもうかなと考えています」と楽しそうに言うのだった。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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