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ラグビー日本代表、始動「世界一のスクラム、めざしますよ、もちろん」

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
オンライン会見で、日本代表のスクラムについて話すPR稲垣啓太選手=30日

 新たなワンチームの象徴もまた、スクラムである。大分県別府市で合宿に入ったラグビー日本代表が30日、初めてスクラム練習に励んだ。夏を思わせる日差しのもと、フォワード(FW)陣の覇気がぶつかる。スクラムをリードするプロップの稲垣啓太(パナソニック)が、「スタンダードが確実に上がった」と言葉に充実感を漂わせた。

 「4年前、初めて集まったキャンプでは、最初から100%のスクラムを組むことなんてできなかった。およそ、統率がとれてなかったし…。でも、今回は新しい選手を含めて、いきなり、しっかりしたスクラムを組むことができたのです」

 ところで、今の心持ちは?

 「自分のやるべきことを、しっかりやるという気持ちですね」

 前回の2019年ラグビーワールドカップ(W杯)で、日本代表の躍進の原動力となったのは、間違いなくスクラムだった。最後の準々決勝では南アフリカにそこから粉砕されたけれど。毎度のオンライン会見。新チームの目指すスクラムは?と聞けば、30歳の“笑わない男”はボソッと言った。目がコワかった。

 「世界一のスクラム、めざしますよ、もちろん」

 ひと呼吸おくと、こう言葉を足した。いつも誠実、実直、ロジカル。

 「前回のワールドカップでは世界一のスクラムを持った南アフリカに、スクラムなどのセットピースでコントロールされて負けてしまったと思っています。だから、そこを超えない限り、次のステップには行けないですよね。スクラムは我々にとっての生命線。世界一の相手にでも通用する、世界一のスクラムというものを、これから、一つひとつ積み上げていきたい」

 では、世界一のスクラムを組むためにはどうすればいいのか。そこが肝要である。やはり体格では海外の強豪チームと比べると見劣りする。そこをフィジカル強化でカバーし、FW8人がそれぞれ役割を全うし、ひとつのチームになる。低く、はやく、結束して、ひとつの方向に押していく。前回のワールドカップに向けては、スクラムコーチの長谷川慎さんのきめ細かい指導で日本代表は本物の「ワンチーム」になったのだった。

 具体的にはどんなスクラムのイメージですか、と聞いた。稲垣は思考を巡らし、静かに言った。

 「目的としては、相手にプレッシャーをかけるということです」

 6月下旬からの欧州遠征で対戦する全英&アイルランド代表ライオンズにしろ、アイルランド代表にしろ、はたまた2023年W杯で対戦するイングランド代表にしろ、スクラムから日本代表を崩しにかかってくるだろう。だから、ここで相手に圧力をかける。

 「しっかりスクラムで仕掛けていくマインドを持つことができないと、ゲームを相手にコントロールされてしまう。逆にいうと、我々がそこでプレッシャーを相手にかけてコントロールすることができれば、ゲームの支配権を握ることができます」

 時間は限られている。まずは、各自のスクラムの理解度を高め、全員が共通の絵を見ることができるか。それぞれの決まり事を守れるか。意識できるか。結束できるか。稲垣は言葉を足した。「ま、付け加えるとしたら、からだの使い方でしょうか」

 日本代表の日本代表たるゆえんは、だれもが向上心の固まりだということだ。右プロップの具智元は過日、ホンダを退団した。「環境を変えて、もっともっと成長したいから」と説明し、厳しい環境を求めて、移籍先を検討しているという。

 具智元はライオンズ戦を「人生で一回あるかどうかのチャンス」だと表現した。話題がスクラムになれば、26歳は言葉に力をこめた。「自分たちは前のワールドカップ同様、8人でまとまって、早く低い姿勢をとって、ぎゅっと固まっていきたい」

 他にも、プロップ陣には、前回W杯代表のヴァル アサエリ愛(パナソニック)ほか、垣永真之介、森川由起乙(以上、サントリー)、クレイグ・ミラー(パナソニック)が並ぶ。いい男ばかり。互いを信頼し合いながらも、これから切磋琢磨していくことになる。

 苛烈なるハードワークが待ち構える。長谷川慎コーチのもと、世界一のスクラムへ、新たなワンチームへ、その壮大なるチャレンジが始まった。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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