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開幕は医療関係者の理解もー延期のラグビー・トップリーグ

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
昨季のトップリーグ開幕戦、東芝×サントリー(写真:松尾/アフロスポーツ)

 新型コロナウイルスの影響で開幕が延期されたラグビーのトップリーグはどうすれば、無事、実施することができるのか。新型コロナの感染者の減少、感染対策が一番だが、地域医療関係者などの社会の人々の理解も不可欠だろう。

 日本ラグビー協会はこのほど、トップリーグ開幕延期に関する会見、新リーグ大会フォーマット決定の会見を相次いで開いた。どちらも、オンラインだった。トップリーグでは6チーム計62人の選手らから新たに新型コロナ感染が確認されたため、16日に予定されていた開幕を延期し、リーグ戦2ステージ制は取りやめて大会期間を短くし、2カンファレンス制のリーグ戦とプレーオフトーナメントの形での開催を模索することになった。

 延期の理由について、日本ラグビー協会の岩渕健輔専務理事は、「新たに(新型コロナの)陽性者が出て、多くの試合を中止せざるを得なくなり、リーグ成立要件の(予定試合数の)75%を満たす可能性が非常に低くなってきています。そこで、フォーマットを変更した上で、選手、関係者の安全・安心を担保したリーグを運営していくことになりました。リーグを成立させるための最善の考え方ということで決断しました」と説明した。

 開幕を楽しみにしてきたラグビーファンにとっては残念な決定だが、妥当な判断だっただろう。トップリーグでは各チームと連携をとりながら感染予防策を徹底し、2週間に1回、PCR検査を実施してきたという。緊急事態宣言が発出されたとはいえ、クラブの食事やミーティング、練習だけでなく、選手たちはプライベートな行動もしているのだから、陽性者が出るのはある程度、やむを得ない。岩渕専務理事は「(陽性者)ゼロにする努力をしながらもリーグを開催する方向で進めていく」と言った。

 問題は、開幕に踏み切るタイミングと基準である。会見では、トップリーグの太田治チェアマンが「2月上旬から中旬」と発表した。あくまで希望目標に過ぎず、まずはリーグとして各チームの現状を把握し、科学的な分析をした上で、感染予防策の啓発、運用や健康チェック、体調管理、行動記録の徹底を進めていくことになる。新型コロナの感染症対策の対応ガイドラインの改定も急務か。変更リーグの終わりは、日本代表強化スケジュールなどの関係から、5月下旬のまま。プランは4つ、準備しており、太田チェアマンは「日々コロナの状況が変わっているので、その都度、判断していく」としている。

 やはりコロナ感染者を出さないためには、不要不急の行動を自粛し、感染予防対策を徹底した上で、プライベートの場での接触を極力少なくすることである。昨年の米プロバスケットボールNBAのごとく、全チームをひとつの隔離空間に集めて試合をする「バブル(隔離環境)」方式もあろうが、これは経費などの面から現実的ではない。PCR検査の頻度を増やすこともそうだが、試合の数日前から、選手、チーム関係者をある程度隔離するという手はあるかもしれない。

 あるいは、チームをいくつかの隔離エリアに集めて練習や試合を集中的に実施し、プライベートな家族や外部との接触を少なくする方法もある。どういう形なら大丈夫なのか。Jリーグやプロ野球などの他のスポーツの知見、医療関係者の意見を参考とし、リーグ運営を検討することになる。

 いずれにしろ、トップリーグを開幕することで選手やチーム関係者、観客に感染が拡大し、それぞれの地域の医療提供体制を逼迫させることがあってはならない。選手、チームだけでなく、医療関係者がリーグ実施を理解してくれるのか、ラグビーファン、社会の人々がどう考えるのか、が大事である。

 またラグビー新リーグの大会フォーマット決定の会見で、新リーグの設計を担当する日本ラグビー協会の谷口真由美理事は「新リーグは事業化と社会化が大事」と言った。新リーグのチームのディビジョン決定の材料となる、今年のトップリーグの開催状況は、来年1月発足の新リーグの編成に影響を与えることになる。

 「社会性というのは社会問題の解決を、ラグビーを通じてやっていくこと。新型コロナに関しても、ラグビーを通じて、なにかできることがあるのではないか。リーグとして、チームの皆様と考えてやっていくことが、社会課題の解決になると思います」

 それでは新型コロナ対策を実施するうえで、日本ラグビー協会はどう対応すればいいのか。ファンに愛されるリーグを作りたいのであれば、社会通念や行動規範に即した対応が求められる。新型コロナ禍の中でトップリーグのチーム練習や試合を実施することが、医療関係者や、社会の人々の理解を得ることができるのか。

 もうひとつ、言いたいことがある。新型コロナ禍の中でのスポーツイベント実施を考える際、東京オリンピックパラリンピック開催ありきだと判断を誤らせることである。プロ野球の2月1日のキャンプインなどは地域医療関係者の理解を得ているのか。大事なのはまず、科学的な検証、アカウンタビリティ(説明責任)、人命、医療関係者などの社会の人々の理解ではないのだろうか。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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