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連帯責任の議論をーラグビー選手の違法薬物逮捕で日野RDが無期限活動自粛

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
2020トップリーグ開幕戦の日野レッドドルフィンズ(1月12日・秩父宮)(写真:松尾/アフロスポーツ)

 つらい事件である。ラグビートップリーグの日野レッドドルフィンズ(RD)のロック、ジョエル・エバーソン選手(ニュージーランド)がこのほど、違法薬物使用容疑で逮捕された。これを受け、チームを持つ日野自動車は即座に無期限の活動自粛を発表した。

 確かに、当事者の処分に加え、チームの管理責任や監督責任も問われなければいけない。だが、高校や大学の運動部と違い、自己責任が問われる社会人のチームである。しかも、価値観のちがう海外出身選手も数多く加入している時代なのだ。他の選手には罪はない。チームの連帯責任が妥当なのかどうか。

 「ワンチーム」を標ぼうするラグビーだからといって、ことさら、他の選手にも責任を負わせるべきなのか。あくまで法を侵した個人の責任は個人に帰す。チームの社会的責任の取り方としては、活動自粛とは違う形を検討する余地もあった。

 ここはまず、チームとして事実関係をしっかり調べて公表することが最優先である。加えて、全選手の薬物使用検査を実施し、全員が「無実」であれば、再開するトップリーグで戦い続ける選択肢もあっただろう。その代わり、ラグビー界のイメージダウンを挽回するため、例えば、全員で再発防止策と規律徹底を図り、社会貢献活動に従事する。

 誤解を恐れずにいえば、そろそろ日本のスポーツ界も不合理な連帯責任のあり方を見直す時期にきているのではないか。確かにトップリーグは企業チームで構成されている。サッカーJリーグとは違い、ほとんどの選手が会社員である。

 だがプロチームでなくとも、責任の所在を「個」と「組織」に分けてもいいだろう。連帯責任を科すことによって、抑止力が増すという考えはどうなのだろう。

 トップリーグ昇格2年目の日野には他チームから数多くの元日本代表選手らも移籍している。社員選手とプロ契約選手が切磋琢磨し、日々、ひたむきに努力してきた。これで今季限りで社業に専念することを決めていた選手も、引退覚悟のプロ選手も、不完全燃焼で終わることになる。こんな形でラグビー人生が終わるとは…。彼らの心中は察して余りある。

 また日野の活動自粛によって、今後のトップリーグの9試合が中止となった。神戸製鋼や東芝、パナソニック戦などがキャンセルされた。そういった相手チームやトップリーグに迷惑をかけ、多くのファンの楽しみを奪うことにもなった。

 確かに昨年6月にトヨタ自動車の所属2選手が麻薬法取締法違反の疑いで逮捕、起訴された際は、トヨタ自動車は無期限で活動を自粛し、その後のカップ戦を辞退した(活動は8月に再開)。だから日野の選手の薬物違反容疑もまた、チームの活動自粛となるのだろうか。新型コロナウイルスの感染拡大による自粛ムードも無関係ではあるまい。

 

 もちろん、今回の日野自動車の決断は尊重したい。率直なところ、日野の採った措置は「しょうがない」と感じている。無期限の活動自粛のあと、出直しを図ることになる。日野はラグビー部の志賀得一部長名で、コメントを出した。(以下、抜粋)

 「重大な法令違反により逮捕されたことに対し、深くお詫び申し上げます。また、日頃より日野レッドドルフィンズを応援してくださるファンの皆さま、ご支援いただいている多くの関係者の皆さまに多大なるご迷惑をおかけいたしましたことに深くお詫び申し上げます。今後の警察の捜査に全面的に協力していくとともに、当該部員につきましては、捜査の状況を踏まえ厳正に対処してまいります。

 今回の事態をチームとして厳粛に受け止め、日野レッドドルフィンズは今後の活動を無期限に自粛いたします。

 また、部員の服務規律の遵守およびコンプライアンスに関する意識を徹底してまいります。まずは、皆さまの信頼を一日でも早く回復できるよう、誠心誠意、全身全霊をもって努める覚悟です」

 また、昨年のラグビーワールドカップの盛り上がりによる人気をさらに拡大していこうとしているラグビー界にとって、相次ぐ不祥事のダメージははかり知れない。日本ラグビー協会、およびトップリーグは発展のため、「コンプライアンス遵守」の徹底や全員薬物検査による信頼回復、再発防止策の実施に加え、チームの責任範囲を含めての連帯責任の内容を議論すべきである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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