Yahoo!ニュース

トンガ勢加入とひたむきさで復活狙う~大学ラグビーの古豪・日体大

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
記者会見に臨む秋廣秀一HC(右)と中野剛通主将(筆者撮影)

 台風接近。でも大学ラグビーの熱闘はおこなわれた。30日の日曜日、東京・江戸川区陸上競技場での関東対抗戦グループ。10年ぶりの大学選手権出場を目指す日体大が激しい雨の中、強豪明大に挑み、17-31で敗れた。昨季の“100点ゲーム”(7-101)の悪夢を考えると彼我の力量差は縮まった。古豪日体大に復活の兆しが見えたのだった。

 前半を0-24で折り返した。接点でやられ、キック処理などのミスもあった。リズムが悪く、日体大は後手を踏んだ。ハーフタイム。秋廣秀一ヘッドコーチ(HC)はこう、選手たちに試合のテーマを繰り返した。

 「ディフェンスを10フェーズ、我慢しよう。日体のラグビーをしよう」

 分析の結果、明大は攻撃で10フェーズ(展開)を超えると、ミスか反則を犯すことが多いことがわかっていた。この日は雨の影響か、4、5フェーズでミスが起きていたが、それでも我慢することには変わりがない。その上で日体大の目指すラグビー、つまりターンオーバーからはやいテンポでつないでいくのである。

 後半開始直後、敵陣の相手ボールのラインアウトだった。明大はラインにボールを回す。日体大がフランカー古閑夢都らの厳しいタックルでつぶす。耐える。ここで日体大のプロップ鎌田慶のファインプレーがあった。ラックからのこぼれ球にナイス・セービング。ターンオーバーから左右につないだ。SH堤英登の球さばきがよかった。

 ラックから左に回し、CTB石田大河が大外のWTB竹田賢二に山なりのロングパス。竹田がライン際を疾走し、内側にフォローしたCTB安城怜が左隅に飛び込んだ。反撃ののろしを上げた。秋廣HCが言う。

 「あれぞ、日体らしいトライだった。相手ディフェンスを置き去りにするはやいテンポのつなぎでした」

 この後、1トライを加えられたが、後半12分、今度はトンガからの留学生コンビのパワーが爆発する。まずはロックのミキロニ・リサラがクラッシュし、ラックサイドに走り込んだWTBハラトア・ヴァイレアが2人のタックラーを吹き飛ばし、左中間に飛び込んだ。さらに9分後、またもミキロニが140キロの巨体を生かし、モールサイドを爆走して右隅にトライを加えた。17-31。ノーサイド。2連敗となった。

 負けたとはいえ、収穫の多い試合となったようだ。トンガコンビの決定力はともかく、チームにリズムをつくったのは全員の鋭いディフェンスからだった。

 初戦の慶大戦(17-84)からディフェンスが改善された。秋廣HCは試合後、手応えをつかんだ感じだった。

 「きょうはディフェンスが非常に光ったなと思います」

 敗戦はもちろん、悔しい。でもFB中野剛通主将は言葉に充実感ものぞかせた。

 「前半はディフェンスで我慢できていたところもあったけれど、我慢しきるというところまではできなかった。でも後半は我慢し続けて、自分らのアタックができたと思います」

 そして、秋廣HCと中野主将はこう、口をそろえた。

 「次につながる試合になりました」

 日体大のチーム力アップは、トンガからの留学生の加入が大きい。3人とも日体大の系列校から進学してきた。ロックのミキロニは日体大荏原高出で、高校入学時は98キロだったという。元バックス。攻守ともにラグビースキルが高く、パワフルな突破力だけでなく、セービングからの起き上がりのスピードなどもピカ一である。

 日体大柏高出のハラトアは後半、スタンドオフの位置に入って、得意のオフロードパスなども見せた。高校日本代表のアイルランド遠征に参加したほか、ケガもあって、日体大に合流したのは夏だった。まだ本調子ではなく、これからスピードアップを図る。

 日体大にはもうひとり、トンガ出身の選手がいる。ナンバー8のクリスチャン・ラウイで日体大柏高出。故障で戦列離脱中ながら、基本に忠実な「仕事人タイプ」。復帰は今月下旬あたりになる見通し。3人がそろえば、それなりのチーム力となるだろう。

 トンガ出身選手は他の選手へも好影響を与えている。今季の練習はコンタクト、タックル主体。秋廣HCによると、「部内の練習の強度が上がりました」と説明する。

 課題は、スクラムでの8人の結束と、プレーすべての精度アップか。チームのスローガンが『ひたむき』。目標は、大学選手権出場の条件となる対抗戦5位入りを狙う。

 余談をいえば、ほぼ週一のペースで早朝、横浜・健志台キャンパスのそうじと周辺地域のゴミ拾いを全部員でやっている。地域貢献と人間力アップのためである。

 “台風一過”の月曜日。秋廣HCは言った。

 「大学ナンバーワンのはやいテンポのラグビーで大学選手権出場を目指します」

 日体大復活成るか。帝京大、早大、筑波大・・・。この先、日体大にとって、対抗戦は毎試合がビッグ・チャレンジになる。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

松瀬学の最近の記事