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震災復興&RWCへ、こころひとつに~釜石vs神鋼V7レジェンドマッチ

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
レジェンドマッチ発表を行った松尾氏(左)坂下氏(中央)藪木氏(右)=筆者撮影

 こころ震える記者会見だった。来年のラグビーワールドカップの開催地、岩手県釜石市の釜石鵜住居(うのすまい)復興スタジアムのオープニングイベント(8月19日)で、ともにラグビー日本選手権7連覇の偉業を達成した新日鉄釜石と神戸製鋼のOBによる『レジェンドマッチ』が行われることになり、このほど発表された。

 「ぎっくり腰なもので、試合どころじゃありません」。いつも陽気な往年のスター、64歳の松尾雄治さんは周りを笑わせながら、言葉に実感を込めた。

 「もともと神戸製鋼と新日鉄釜石はいろんな共通点がありまして、鉄鋼業ですし、7年連続して日本一になったし、ジャージの色が赤で似てますし、そして同じように大震災に遭って、まちは大打撃を受けました。じつは神戸の震災(阪神淡路大震災=1995年)のあと、我々は神戸に行って励ましのイベントに参加しました。釜石の震災(東日本大震災=2011年)のあとは、まだ元気でおられた平尾君(誠二氏=2016年死去)が中心になって釜石を助けようと言ってくれたのです」

 いわば楕円球がつなぐ縁であろう。これぞラグビー精神、「ワン・フォア・オール、オール・フォア・ワン」である。2012年9月、釜石OBと神鋼OBによる震災復興チャリティーマッチが秩父宮ラグビー場で行われた。雨の中、神鋼OBが得点では上回ったが、勝ち負けはともかく、感慨深い試合だった。

 この両チームは日本ラグビー界におおきな影響を与えてきた。釜石は1978年度~1984年度、神鋼は1988年度~1994年度において日本選手権を7連覇した。目をつむると、無数の大漁旗がはためく国立競技場のスタンド風景、松尾さんや平尾さんたちの華麗なプレーがよみがえる。

 その両チームのOBが再び、釜石に集結することになった。単純に考えれば、平均して10歳程度、神鋼が若くなりそうだ。松尾さんとハーフ団を組んでいた坂下功正さんが会見で「いろいろハンディを考えています」と言えば、松尾さんは「現役選手(釜石シーウェイブス)を少し混ぜようぜ」と冗談を言ってまた笑いを誘った。

 松尾さんの口調が変わる。言葉が湿り気を帯びる。

 「ラグビーの試合になるわけないんですけども、ワールドカップの成功を祈って、精いっぱいやりたい。みんなで集まって、こころをひとつにしたいと思います」

 59歳の坂下さんはこう、言った。

 「60ぐらいのおやじががんばっている姿を、震災復興のシンボルのスタジアムで見せられることが、みんなに勇気を与えることになるのかなと感じています。今回はトシの差があっても、勝ちにいきたい」

 神鋼OBからはスタンドオフで活躍した藪木宏之さんが会見に出席した。ちょっぴり緊張した面持ちで意気込みを話してくれた。

 「ラグビーを通じて、釜石市の方々に元気、勇気を与えて、そして来年のラグビーワールドカップが大成功することを祈念して、試合にのぞみたいと思っています」

 このオープニングイベント『キックオフ!釜石』では、メインゲームとして、釜石シーウェイブスとヤマハ発動機の招待試合も行われる。

 釜石市の野田武則市長は新スタジアムのコンセプトを「羽ばたき」「船出」と説明した上で、会見をこう締めくくった。

 「東日本大震災で被災した釜石が、将来に向け、希望を持ってどうやっていくのか。釜石鵜住居復興スタジアムが、その象徴的な場所となります。ワン・フォア・オール、オール・フォア・ワンは、まさに復興の精神だと思っております」

 同感である。いわば『絆』。被災地に建つ新たなスタジアムが、時代をつなぎ、地域をつなぎ、人々をつなぐ、のだ。

 そういえば、新スタジアムには、取り壊された国立競技場と、東京ドーム、熊本県民総合運動公園陸上競技場の廃棄する可能性があった座席を再利用し、計600席が設けられる。オープニングイベントのチケットとして販売されることも発表された。

 名付けて『スタジアム絆シート』。いい響きである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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