Yahoo!ニュース

ラグビー、ジョセフ新HCのゴールとは

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
就任会見したラグビー日本代表のジェイミー・ジョセフさん(写真:ロイター/アフロ)

どうしたって前任者のエディー・ジョーンズさんと比べたくなる。就任会見後の囲み取材。「エディー流ジャパンで継承する部分と創造する部分はどこでしょうか?」と聞かれると、ラグビー日本代表の新ヘッドコーチ(HC)に就任したジェイミー・ジョセフさんは少し語気をつよめた。「わたしはエディー・ジョーンズではありません」と。

来日したジョセフ新HCはジョーンズ前HCと日本代表についての懇談の場を持っていた。もちろん、10人10色。同じコーチなどいるはずがない。現役時代、ニュージーランド代表として、また日本代表として活躍し、HCとしてもスーパーラグビーのハイランダーズを優勝に導いた実績を持つ46歳にはプライドがある。

「彼(ジョーンズ前HC)がやってきたことをそのままやるということはなく、自分がこれから思うところをやっていきます。当然、過去に何が行われてきたかということをきちんと理解し、その上でアイデアを持って、自分たちのコーチングチームでチーム作りを考えていかないといけません」

人懐っこい笑顔が印象的だ。ジョセフ新HCは目がやさしい。ジョーンズ前HCのような過激な言葉は口にしない。どこか慎重である。

昨年のワールドカップ(W杯)ではジョーンズHC率いる日本代表は南アフリカを破るなど3勝を挙げた。当然、日本開催となる2019年W杯では昨年のW杯以上、つまりプレーオフ進出(ベスト8)がノルマとなる。

目標を聞かれると、額に汗を浮かべたジョセフ新HCは「みなさんは、(次回W杯で)何勝するかというか、数字的な目標を求めていると思うんですが」と前置きし、こう言葉を選んだ。

「ワールドカップという大会に出る以上、すべてのチームが勝つことを目標としています。それは同じだと思います。いま思っているゴールとしては、選手たちがプレーしてエキサイティングになるラグビーをして、メディアのみなさんがすごくエキサイティングな気持ちでリポートしたくなるようなラグビーをして、ファンのみなさんがほんとうにトップのラグビーを見ることができたと満足してくれるようなラグビーをすることです。そうすることによって、世界中からリスペクトを集めることができるという風に思います。そこが私のゴールです」

5日の新HCの就任会見は都内のホテルで開かれた。会場は、桜のエンブレムをシンボルとする日本代表にふさわしく「桜の間」だった。天井には3つの桜の形状のシャンデリアが輝く。「こんにちは、みなさん。えー、ジョセフでございます」と日本語で言って、ジョセフ新HCは英語で抱負を述べた。

「2015年のワールドカップを見た印象では、日本のチームはスキルに長け、フィットしていました。ボールを持っているシーンでは、ランニングゲームをよく理解していて、持っているエナジーをすべてつぎ込む激しさもあったと思います。そこの代表の強みを、もっと進化させないといけません。持っているスキルをフィールドいっぱいに発揮していって、どんどんボールを動かしていく。そこをもっと強みにしていけるのではないかと思います」

日本の課題としては、「パワー」の部分を挙げ、世界のラグビーの潮流に合わせ、「キッキングゲーム」「相手のストラクチャーを崩すキック」「キックのスキル」の必要性を強調した。躍進の武器となったスクラムの重要性も口にし、「戦術面では、いかに相手と自分たちの違いをあぶり出し、発揮させていくのか。そこが大切です」と説明した。

ジョセフ新HCの任期は19年末まで。スーパーラグビーに参戦するサンウルブズ、世代別の代表など日本ラグビー界全体の現場の“総責任者”となる「チームジャパン2019総監督」(仮称)にも就任した。

「皆さんに是非、お話ししたいのは、年間を通じてのスケジュールであったり、ラグビーで何が起きるのかと考えたりしたとき、日本のラグビーの景観がほんと、大きく変わっているということです」

つまりは、日本代表としてのテストマッチのほか、国内のトップリーグ、スーパーラグビーに参戦するサンウルブズと大きく3つのシリーズが常に行われることになる。プロ化も進むかもしれない。トップ選手を取り巻く環境が変わるのである。

「ひとことでいえば、非常にむつかしいが、代表強化にとっては一番いい環境だと思っています」

11月5日のアルゼンチン代表戦(秩父宮)が初陣となる。まずはミニキャンプなどを通し、選手たちとの信頼関係を構築し、その力量、持ち味を知ることがテーマとなる。上昇気流に乗る日本ラグビー。おおきな体の新HCには、日本代表のさらなる躍進への期待がかかっている。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

松瀬学の最近の記事