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ラグビー日本代表の強化と人気を測るスコットランド戦

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
昨年W杯での日本×スコットランド(写真:ロイター/アフロ)

ラグビーの日本代表は6月、スコットランド代表と2試合、対戦する。場所は、18日が愛知・豊田スタジアム、25日が東京・味の素スタジアム。昨年のワールドカップ(W杯)イングランド大会で活躍した日本代表にとっては、「強化」と「ラグビー人気」を測るうえで重要なシリーズとなる。

2日、東京・秩父宮ラグビー場のクラブハウスでスコットランド戦の記者発表があった。メディアはざっと7、80人。日本代表チームの強化責任者、薫田真広ディレクター・オブ・ラグビーは「2019年のワールドカップで前回以上の成績を残すためには、スコットランドは最高の相手だと思っています」とあいさつし、試合の意義を説明した。

「(次のW杯で)ベスト8にほんとうに入れるのかどうか、これからの伸びしろはどこにあるのか、しっかりとスコットランド戦で評価していきたい。2019年に向けての最初のフィルターだと思っています。もう来年のサンウルブズのセレクション、契約の段階にも入っていますし、世界に通用するパフォーマンスを発揮してもらいたい」

スコットランドは昨年のW杯で日本が唯一、敗れた相手。つまりリベンジをかけた戦いとなる。勝敗のポイントとして、薫田氏は、1・セットピース(スクラム、ラインアウト)の安定、2・ハイボールの攻防、3・ペナルティーを少なくすることーの3点を挙げた。(ハイボールはもちろん、ウイスキーのハイボールではなく、キックの蹴り合い、捕球、チェースなどを意味する)

さらに薫田氏はラグビー人気にふれ、「コアなファンだけでなく、2015年のワールドカップを見て、新たにファンになった方々もいる」と言い、スコットランド戦ではスタジアムでぜひ観戦してほしいと訴えた。

会見には、スーパーラグビーのハイランダーズで活躍する日本代表SHの田中史朗も出席した。ラグビーの人気アップをいつも心掛ける田中はニュージーランドから帰国したばかりで、前日には震災復興の支援活動のため熊本を訪問してきたとあって、顔には疲労感がにじんでいた。「スコットランドと試合をすることで、自分たちの立ち位置がどこなのかはっきりわかるし、ほんとうに日本代表がどういう存在なのかを実感できる機会だと思います」と言い、こうつづけた。

「ぼくたち自身も、日本代表がどれだけ大事な存在なのか、子どもたちにどれだけ夢を与える存在なのかということを、しっかりと理解できる場なので、全力で彼ら(スコットランド)に立ち向かって、勝利できるよう、がんばりたいと思います。(熊本では)子どもたちはまだ、ラグビーというものを知らない子も多いので、日本代表が先頭となって、ラグビーというもののすばらしさを子どもたちに広めていって、希望を持ってもらえるようがんばります」 

代表選手にとっての環境の変化は、昨年のW杯後、日本のサンウルブズのメンバーとして、多くがスーパーラグビーで戦ってきたことである。田中のごとく、スーパーラグビーで世界レベルの試合を重ねれば、技量も磨かれていく。田中は、日本のサンウルブズ参戦の効果をこう言った。

「世界のトップのリーグに入ってプレーすることで、からだをあてる部分やフィジカルでも、(トップレベルに)慣れというものが出てくると思います。また日本の代表としてサンウルブズで戦っているという思いも出てくるでしょうから、やっぱり、ひとりひとりの責任感というものも大きくなっていると思います」

田中は、新生・日本代表のスタートに際し、ヘッドコーチやスタッフと選手の間のつなぎ役としての使命感をおぼえている。「チームをひとつにまとめるために、嫌われ役というか、そういう役をやっていきたいと思います」と言った。

最後。司会者から、「若者や女性ファンへのメッセージを」と頼まれると、誠実かつ、実直にこう言った。

「ぼくはいまラグビーをやっていて、ラグビーで生活させてもらっているんですけど、ラグビーがすべてじゃありません。みなさんにラグビーを好きになっていただけるのはうれしいですけど、ラグビーだけじゃなくて、自分の好きなこと、野球でもサッカーでもいいと思いますし、自分の好きなことをひとつ、見つけて、人生をつねに楽しい状態にもっていってほしいのです。そうすれば、日本全体が活発になってきますし、ひとりひとりが幸せな人生を送れると思います」

ここで、ひと呼吸おき、こう締めた。

「これから、何かひとつ、好きなものをみつけて、もしヒマがあれば、ラグビーをみてもらえたらうれしいと思います」

この謙虚さ、この人へのリスペクトさ。田中の態度と発言そのものが、ラグビーという競技のもつ価値を示している。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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