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女子セブンズ・福島わさな「その日をつかめ」

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)
太陽生命女子セブンズ発表会見(右端が福島わさな)

「Seize the Day(シーズ・ザ・デイ)」。いい響きである。「その日をつかめ」、あるいは「今を生きる」といった意味になる。女子7人制ラグビーのホープ、福島わさな(追手門学院大学)はこの言葉を好み、「シリーズ優勝をつかみたい」と言い切った。

過日の女子7人制ラグビーの国内シリーズ「太陽生命ウィメンズセブンズ」(4月開幕)の開催発表会見でのことだった。大学のグラウンドにかかる横断幕には「Seize the Day」と書かれているそうだ。

「自分たちのチームは(2013年)、何もないところから始まりました。他のチームよりも何倍も何倍も練習しないと周りには追い付けません。だから、シーズ・ザ・デイ、”その日をつかめ”なんです。1日1日を本当に大事にして努力を積み重ねていったら、絶対1位になれると信じています」

追手門学院大学の女子ラグビー部は後藤翔太ヘッドコーチ(早大―神戸製鋼)の好指導の下、メキメキと力を付けている。昨年の同シリーズでは総合3位に躍進した。ことしも「台風の目」となる可能性は大きい。

「今年のチームは昨シーズンよりも100倍強くなっていると自信を持っています」と福島は言った。聡明な頭脳と熱いハートを持つ20歳。

「進化するチームなんです。私も練習についていくのが必死。1人ひとりのスキルもそうですが、気持ちの部分、ラグビーの理解度がすごく成長していて、なんというか、1人ひとりが自分の仕事をきちんと実行できるようになっています」

福島は女子7人制ラグビーで、高校時代から注目されてきた逸材である。右ひざの大けがを乗り越え、昨年の同シリーズで活躍した。日本代表候補スコッドのメンバーながら、強化合宿や遠征には呼ばれたり、呼ばれなかったりの微妙な位置に置かれている。

「(代表メンバー入りの)崖っぷちというか、ぎりぎりのところですね」と説明する。長所はクレーバーさとゲーム理解度の高さ。どちらかといえば、周りの選手を生かす「チームプレーヤー」で、自分の目指すプレーと代表チームで求められているプレーのギャップに苦しんでいる。

「もちろん、(代表チーム入りのためには)求められているプレーヤーにならないといけない。自分で仕掛けていくというか、ぐいぐいいってチャンスをつくれるプレーヤーにならないといけません」

ラガーマンである父親の仕事の関係で、タイのバンコクで生まれた。ユニークな「わさな」という名前はタイの言葉で「幸せな子」という意味だそうだ。6歳の時、日本に戻り、楕円球を追いかけてきた。

サッカーの女子日本代表「なでしこジャパン」はリオデジャネイロ五輪の出場権を逃したため、出場権をつかんだ女子7人制ラグビー日本代表に“ポストなでしこ”の期待もかかる。日本代表のレベルアップは、この国内シリーズの底上げがあればこそである。

人気面も同じか。「試合をどんどん見にきてほしい」と福島は訴える。

「初めて(7人制ラグビーを)見る人にオモシロいと言ってもらえるようなプレーをしていきたい。本当にスキルフルで、ボールがたくさん動いてスピーディーです。激しい部分は激しいし、クレーバーなやりあいはクレーバーだし…。すごく楽しんでもらえると思います」

166センチ、64キロのスタンドオフ。囲み取材の最後、リオ五輪出場の話題を持ち出せば、表情をきゅっと引き締めた。

「オリンピックもがんばります。いや、オリンピックも出ます」

まさに「シーズ・ザ・デイ」。日々努力を重ね、その日をつかめ、オリンピックの切符をつかめ、なのである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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