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ラグビーW杯にかける夢~19年開催地・釜石の中学生も英国体験

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

経験は宝である。ラグビーのワールドカップ(W杯)イングランド大会(18日開幕・英国)に派遣される被災地・釜石市の中学生にとって、それはそれは貴重な経験になるだろう。2019年のW杯日本大会に向けて。

「ワクワクし過ぎて、なんか緊張しています」。13日。釜石東ロータリークラブ(RC)が実施するW杯派遣事業に参加する6人の中学生のひとり、甲子中学2年の新田壮吾くんはそう、漏らした。地元のラグビークラブ、「釜石シーウェィブス」のジュニアチームのメンバー。W杯イングランド大会への出発が近づき、胸の高まりを抑えきれない。

この派遣事業は、釜石東RCが釜石で開催される19年W杯の「親善大使」になる人材を育てたいとして、地元の中学1・2年生を対象に募集をかけた。企画に賛同する岩手、宮城など全国各地のRCからも支援金が集まり、目標額の5百万円を突破した。派遣する中学生も当初予定の5人から6人に増やした。

それだけ、全国のRCの人々の被災地復興にかける願い、将来の釜石の街づくりを担う若者への期待が大きいということだろう。新田くんも分かっている。少し強い口調でこう、言う。

「4年後、ぼくの街にも、世界的なビッグイベントが来るんです。とっても、うれしい。(震災後)たくさんのお世話になった方々に感謝の気持ちを込め、街の復興がしっかりと進んでいることを示したい。その釜石のW杯開催につながるよう、いろんなことをイギリスで勉強してきたい」

新田くんはことし3月、釜石市中学生のニュージーランド派遣事業にも参加した。新田くんらは、2011年3月の東日本大震災の直前に発生したNZ地震の被災地クライストチャーチを訪問した。震災を記憶にとどめながら、ラグビーとともに復興する人々と触れ合い、人間のたくましさ、ラグビーのチカラを認識した。「ラグビーがみんなの生活に溶け込んでいたんです。釜石も、そういう街になってほしいな、と思います」。コトバには、ラグビーに対する愛情があった。

新田くんたちはラッキーである。21日に釜石を出発し、W杯で盛り上がる英国の空気を味わい、23日のW杯の日本×スコットランドを観戦する。英国の若者たちとの交流の機会も設けられている。思い出深い1週間となるだろう。

「日本代表にはスコットランドに勝ってほしい。楽しみです。試合のほかにも、ビッグ・ベン(ロンドンの時計塔)を見たり、ラグビー・ミュージアムに行ったりする予定です。外国人と触れあう機会があれば、友達をつくってきたい」

新田くんが英国にいく時期、所属する岩手県スクール選抜チームの関西遠征とぶつかった。チームメイトからは「その代わり、ラグビーの歴史を学んできて」と言われたそうだ。ラグビー発祥の年と伝えられているのが、ラグビー校のエリス少年がボールを抱えて走ったとされる1823年。イングランドにはラグビーの歴史が詰まっている。

4年後には釜石でも、そのW杯が開かれる。13歳はコトバを足した。「開催地の街の雰囲気とか、周りのスタッフの人たちが何をやっているのかも見てきたい」と。

新田くんがやりたいことはてんこ盛りである。ただ、そう気負う必要はない。自然体で、初めての英国とW杯を感じてくればいい。ロンドンッ子の友達をつくるだけでいい。きっとW杯は夢と希望と笑顔にあふれているだろう。それを体験するだけで十分なのだ。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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