勝てなかった悔しさか、負けなかった安ど感か。1922(大正11)年に始まった伝統のラグビー早慶戦は25-25の引き分けに終わった。ワセダのロック大峯功三主将は試合後、顔をゆがめた。「同点というカタチだったんですけど、内容は完敗かなと思います」

ひとことで言えば、「意思統一」「プレーの精度」不足である。確かに伝統の一戦ということで、プレーに気持ちは入っていた。誇りに満ちた赤黒ジャージはからだを張った。終了間際のゴール前ディフェンスでは、見ているこちらの胸も熱くなった。

だが、ふっと気が抜けたかのようなシーンがある。例えば、前半終了間際。慶応ナンバー8の森川翼にスクラムからサイド攻撃を仕掛けられ、ふたつ目のラックを割られて、トライを許した。ラックの左サイド。ロックの大峯、ナンバー8佐藤穣司が一緒に慶応フッカー神谷哲平にいってしまい、内側でボールをもらったナンバー8の森川にインゴールに飛び込まれてしまった。

森川は180センチ、95キロ。腰高のタックルに行ったワセダSHの岡田一平が165センチ、78キロ。これでは止めるのは無理だっただろう。ラックサイドの他のFWの反応も鈍かった。

このほか、ラインアウトのミス、ライン攻撃でのハンドリングミス、ブレイクダウンでのペナルティーも多々、あった。二人目の寄りが遅いから、一人目がどうしても孤立してしまう。総じて、慶応より姿勢も高かった。

反則数は慶応10個に対し、ワセダは14個だった。プレーに迷いなく“らしさ”が出ていたのは、慶応の方か。ワセダの後藤禎和監督はこう、話した。

「慶応は慶応らしく、泥臭くて派手さはないけれど、いいチームでした。ちょっとでも気を緩めたらいかれてしまう。ワセダは、その部分で負けないよう試合に臨みました。でも、今シーズン、ずっと言い続けてきたとおり、ラインアウトやいろんなところで、ミスやペナルティーを重ねてしまって、なかなかワセダのペースに持ち込めない時間帯が多かった。残された時間で、(プレーの)精度を積み上げていかないといけません」 

気になったのは、アタックでの迷いである。例えば3点差を追う後半の10分頃。ワセダは狙いどころのPKをタッチに蹴り出し、トライを奪いにいった。そのラインアウトからの展開で、難しい位置からSO小倉順平はDGを狙った。外れた。

なぜだったのか。小倉はこう、答えた。「フェーズが重なれば重なるほど、こっちの人数が減っていった。相手はすごく人がいたので、もうドロップゴールしかなかったのです。結果論として、(PGを)狙っていた方がよかったのかなと思います」と。

もちろん、いいプレーも随所にあった。小倉のパス、WTB荻野岳志の鋭利鋭いラン、大峯主将のレッグドライブ、怪我から復帰したフランカー布巻峻介の職人芸のジャッカル…。スクラムもよかった。

右目上に白いバンソウコウを張った布巻は「慶応の気迫に押された部分がありました」と反省した。

「勝てなかったのは、カタチにはない執着心(の差)だったり、ちょっとしたところで抜かれたりしたからだと思います。ブレイクダウンでは、相手の激しさではなく、勢いを感じました。勢いでより強く見せられてしまったというか、こちらが余裕を失った部分があったと思います」

慶応はブレイクダウンにフォーカスしていた。慶応の木原健裕主将によると、「低さ」と「2人目」を意識していたようだ。ナルホド、傍目には、慶応のほうが低いタックル、はやいサポートをしているように映った。

「プレーの高さ」を聞けば、日ごろ低いプレーにこだわっている仕事人の布巻はこう、答えた。「ワセダも低くいったプレーもあったんですけど、正直、相手の方が低かったような気がします」

課題は明らかになった。「らしさ」を出せなくても、ワセダは負けなかった。見方によっては、より強くなる可能性があることになる。次は12月7日の早明戦である。

布巻はチームの気持ちを代弁した。声が薄暗い通路のコンクリート壁に反射した。

「男として負けられない。赤黒を着ている身として負けられない。理屈じゃないところで勝たなければ、ワセダの成長はないかな、と思います」

1本のパス、1本のキック、1本のタックルに魂を込める。大学王座奪回まで、あと1ケ月半。上昇気流に乗れるかどうか。ここからが、ほんとうの勝負どころである。