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エディーJ、9連勝の理由

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

ラグビーの日本代表(世界ランキング12位)は14日(日本時間15日)、米ロサンゼルス近郊で米国代表(同18位)を37-29で下した。これでテストマッチ(国代表同士の試合)の連勝を「9」に伸ばした。躍進の理由はずばり、攻守の基盤となる『スクラム』の成長ゆえである。

米国は、来年のワールドカップ(W杯)の1次リーグで直接対戦する相手である。メンバーはともかく、その相手に敵地で勝ったことは大きい。エディー・ジョーンズヘッドコーチ(HC)は日本協会のリリースでこう、コメントしている。

「セットピース(スクラム&ラインアウト)のおかげで今日はトラブルから抜け出すことができた。バックスはあまり調子が良くなく、判断ミスが多くあったが、みんなミスは犯すもの。昨年、今年とホームとアウェーでアメリカとカナダに勝利した。チームが前進しているということ」

とくに「前進」しているのが、スクラムである。典型は、後半開始直後の左の敵陣ゴール前5メートルスクラムである。マイボールだった。8人が一体となってガツンと組みこむ。テレビの映像を通して分かるのは、一列目のフロントロー3人だけでなく、ロックと第三列(フランカーとナンバー8)の5人の低い姿勢と固まり感である。

右プロップの畠山健介(115キロ)がトイメン(109キロ)に完全に組み勝っている。組んだ後もひざにためがあり、背筋はビシッと伸び、なんといっても、肩と胸で相手をコントロールしている。畠山は肩の使い方、ひじの使い方がよくなった。

左プロップの三上正貴(115キロ)も、トイメン(118キロ)の首を絞めていた。もう、いつでも前に出ていけるカタチである。

さらに注目すべきは、フランカーのリーチ・マイケル主将(106キロ)の体勢である。左肩を組み込む前から畠山のでん部の下のくぼみに当てている。低い。ヒットの際は一緒に押し込み、組んだ後も必死で畠山を押し込み、右手をうまく効かせていた。

これは意識と練習の質量の問題である。8人で組む。何があろうと8人で組む。ロックの位置も低く、ナンバー8のホラニ龍コリニアシ(112キロ)も懸命に押しているのが伝わってきた。いいスクラムとも、日本のそれのごとく、タテにキュッと長くなる。

FW8人が前に出て行った時、カタチが崩れなかった。右斜め前にずるずると押し込み、8人のアングルが乱れなかった。バインドがガチッとしている。姿勢が低く、足の運び方がいいのは、ひざに余裕があるからである。個々の下半身、コア(体幹)の強靱さが増したからである。

よほど、マルク・ダルマゾ鬼コーチのもと、ハードな練習で組みこんだのだろう。スクラムはやはり、組んだ数がものをいう。その過酷さは、日本協会の慶大OBが、ジャパンのスクラム練習を、昔の慶大の夏合宿とだぶらせるほどである。

このゴール前のスクラムでは最後、ホラニが左サイドに持ち込んだ。が、これは「スクラムトライ」である。スクラムで相手に圧力をかけているから、このところ、ジャパンの試合はラクに見ることができる。スクラムでの姿勢がいいというのは、ブレイクダウン、モールすべてのFW戦での姿勢がいいということにつながる。

殊勲のフロントローは試合後、こうコメントしている(日本協会リリースより)。成長の跡がみてとれる。

1番・三上正貴「プラン通りにスクラム1本目からプレッシャーをかけて早い段階で相手の心が折れたので、良かった。カナダ戦では、押すことができるまで時間がかかったので、今日は一本目からFW8人で話をして修正した。一人ひとりのパワーとスキルアップに加えて、8人がまとまって組めるようになったことが大きい」

2番・堀江翔太「今日は結果が何より。初めのスクラムからリードできて、主導権を握ることができた。最初からいけるという感じがあった。自分たちのミスでターンオーバーされたりしたので、自分たちのプレーをしっかりして、ミスをした後に対応できるようにして次の試合に臨みたい」

3番・畠山健介「ゲームを通して良いスクラムが組めた。最初のスクラムを組んだときに今日は良いスクラムが組めると思ったので、ピンチのとき、チャンスのときにスクラムでペナルティーをもらいにいったり、トライを取りにいったりした。自分たちのやりたいことである、『低い、ルーティン、8人で組む』という意識がアメリカより良かったので良いスクラムを組めたのだと思う」

ちなみに、「ルーティン」とは、決まりごとという意味か。足の位置と運び、肩、腕の位置、姿勢、ヒット、プッシュのタイミング…。見逃されがちだが、試合中の8人のコミュニケーション力も上がっている。これは苦しい時、力になる。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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