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7人制ラグビー、湘南の新しい風

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

またも7人制ラグビーの新たなチームが誕生した。NPO法人湘南ベルマーレスポーツクラブが発足させた7人制ラグビーの『湘南ベルマーレラグビーセブンズ』(通称Bell7)のトライアウトが11日、神奈川県藤沢市のフットサル場で行われ、30数人の挑戦者が運動能力やラグビーセンスをアピールした。

「これだけ人が集まってくれて、すごくうれしいですね」と、同クラブの水谷尚人理事長は驚きを隠せない。株式会社がサッカーのJ2のプロチームを運営し、このNPOではビーチバレーやトライアスロン、フットサルなどのチームを持つ。いわゆる地域密着の総合型スポーツクラブ。地域とのコミュニケーション、あるいは人間作りを目指し、7人制ラグビーでも「ユニークで愉快な、個性的なチームを」と期待をかける。

晴天下、才能がつどった。男子は、“7人制ラグビー王国”フィジーでラグビー修業を積んだ選手が圧倒的なリズム感を見せたほか、元釜石シーウェイブス選手や関東学院大ラグビー部OBも俊敏な動きを披露した。46歳のラグビー好きも参加した。

女子では、大東大ラグビー部の選手や元スノーボーダーが光り輝いた。とくに将来性を感じさせたのが、ラグビーの本場、ニュージーランドに留学していた武藤さくら。156センチ、50キロのバックス選手で、動きが柔らかく、スピードもある。明治学院大学ラグビー部に所属している。

トライアウト後、話を聞こうとすれば、人工芝の隅っこで背筋を伸ばして正座する。

「ツイッターで(トライアウトを)知りました。家(東戸塚)から遠くないし、どんなチームなのだろうと興味が沸きました。大学のラグビー部だと、男子としか練習ができません。やっぱり女子同士で練習や試合をしたいので」と、21歳になったばかりの武藤は声を弾ませる。「きょうは天気がいいし、すごく動けたのでよかった。楽しかった。のびのびとプレーできました」

小学校6年の時、神奈川・釜利谷クラブでタグラグビーを始め、中学1年生からラグビーをやっている。世界最強のラグビー環境に触れたくて、中学校3年生の3学期から、ニュージーランドのロトルアの女子校に留学した。同世代の州代表にも選ばれた。

充実した3年間を振り返る。

「楽しかった。自由なラグビーでした。環境が全然違う。いたるところにラグビーグラウンドがあります。ラグビー人口が日本とは圧倒的に違いますし、自分が好きな時に練習ができるのです。町の中でもみんな、ラグビーボールを持っているような国ですから。女子同士の試合も、質の高いラグビーもたくさん、できました」

日本の女子ラグビーの環境はまだ、脆弱である。武藤は大学のラグビー部に入っているけれど、男子と一緒だと危ないので、コンタクト練習には参加させてもらえない。日本では女子同士で練習する機会が少なく、試合だって、数えるほどしかない。

だが、7人制ラグビーが2016年リオデジャネイロ五輪から正式競技になったことで状況が変わった。「TKM(戸塚共立メディカル・ラグビークラブ)」や「Rugirl-7」「カ・ラ・ダ ファクトリー」「ARUKAS・ KUMAGAYA」など、女子の新チームが続々、誕生している。Bell7はアマチュアチームである。

武藤の夢は、15人制のワールドカップ(W杯)出場だった。これに7人制ラグビーのオリンピックが加わった。

「まだ全然、自分の限界には達していないので、いけるところまではいきたい。もっと、もっと、女子ラグビーをいろんな人に知ってもらいたい」

日本女子セブンズが五輪でメダルをとれば、一気に知名度はアップする。「可能性は、“全然ある”と思います」。ゼンゼンアルッの語尾に力がこもった。あちこちで五輪の夢が膨らんでいる。アツい湘南の風が吹く。それがうねりとなり、日本女子セブンズの実力を押し上げていくのである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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