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パナソニック、個々のつよさの結束V

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

白い粉雪が舞う中、青色に染まったスタンドで応援団の勝鬨(かちどき)があがる。「エイ、エイ、オ~! エイ、エイ、オ~~!」。愛称「ワイルドナイツ(野武士軍団)」の3季ぶりの覇権奪回である。中嶋則文監督も、堀江翔太主将もつい歓喜の涙を流した。

監督就任3年目、中嶋監督がマイクに向かって声を張り上げる。「やっと探していたものが見つかった感じです」。スタンドがどっと沸く。記者会見で、「探していたものとは?」と聞けば、当たり前のことを聞きなさんな、という顔で説明してくれた。

「ほんとうに、やっと優勝杯が手に入ったということです」

『攻撃的なディフェンス』『徹底した基本プレー』の栄冠である。流れを決めた後半10分ごろのフッカー堀江主将のジョージ・スミスへのあびせ倒しも、窮地での1年目プロップ稲垣啓太の猛タックルも、後半中盤のサントリーの12フェーズにおよぶゴール前の波状攻撃を阻んだ結束ディフェンスも、基本に忠実な個々のタックル技術とフィジカル、つよい意志があればこそである。

足の踏み込み、肩の位置、両手のパック、レッグドライブ、そして周りとのコミュニケーション。三洋電機時代からチームを支えた14年目、36歳のプロップ相馬朋和が顔をくしゃくしゃにする。「うちは個々の能力が高いんです。かつては“集団の強さ”で勝ったが、いまは“個々の強さ”で勝負しています」

確かにそうだ。世界レベルのSOベリック・バーンズ、JP・ピーターセン、スーパーラグビーでプレーする堀江、SH田中史朗…。チーム45人、他の選手とて、日々の鍛錬を怠らない。切磋琢磨がチーム力を押し上げる。スーパーラグビーの元クラブスタッフのアシュリー・ジョーンズ氏が今季からフルタイムのストレングス&フィットネスコーチに就くなど、環境とて年々、整備されてきた。

終了間際のスクラム。サントリーのゴール前の相手ボールのそれをめくり上げ、ターンオーバーからとどめのトライに結びつけた。1番の稲垣、2番の堀江、交代で3番に入った川俣直樹、ぎゅっと固まった強力バインドと息の合ったワンプッシュだった。

このプッシュは、最後の最後まで、サントリーを倒すんだという45人の意志の表れだったと思う。チーム10年目、32歳のいぶし銀CTB霜村誠一もまた、「個人の力量アップ」を口にした。

「世界レベルの選手に刺激されて、僕らみたいな普通の選手が、いっこ上のレベルに上げてもらっている。弱気になったら終わりというタイトな場面でも自分に勝てる選手が多くなったのかな、と思います。メンタル面とか、スキル面とか、いろんなレベルが上がりました。とくにコミュニケーション、ゲーム理解度がアップしました」

なるほど。予測と見極め、コミュニケーション。これがパナソニックの「カウンターラグビー」の成長を支えているのだろう。後半、ブレイクダウンでの瞬間のスピードでは相手を圧倒していた。フィジカルのつよさで刺し込み、寄りのはやさで食いこんでいた。だから、サントリーの反則を誘発したのだ(後半のPKはパナソニック2、サントリー8)。

パナソニックは中長期的なチーム作りがしっかりしている。振り返れば、トニー・ブラウンからベリック・バーンズまで、練習からチームをリードする真面目な外国人選手を呼んでくる。スタッフもしかり、である。チームスローガンが『覚悟』。予算の多寡はともかく、チーム作りにも覚悟を感じるのである。

社名は変われど、ワイルドナイツの風土は変わらない。都心から離れた群馬県太田市の人々の熱心な声援がパナソニックを後押ししている。この日も大応援団が極寒のスタンドに詰めかけ、声を枯らした。

最後、霜村がいたずらっぽく笑った。

「オトコの子って見栄っ張りですから。カッコつけたいじゃないですか。応援してくれる人がいるから、からだを張って、もっともっと応援してもらおうと思うんです」

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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