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関東対抗戦勢の4強独占のワケ

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

ラグビーの第50回全国大学選手権は第2次ステージを終え、ファイナルステージに進む「4強」が出そろった。5連覇を狙う帝京大ほか、早大、筑波大、慶大。関東大学対抗戦グループ勢が独占した。そのワケは。

関東対抗戦勢の4強独占はありそうで、そうない。6大会前の第44回大会と、ずっとさかのぼる1974(昭和49)年度の第11回大会の2回である。もちろん、その年のチーム環境、学生の能力、戦力差、組み合わせ、運など、いろんな要素がからんでくるが、今季は、ゲーム・マネジメント、勝負強さで対抗戦のチームが相対的に優位にあったのだろう。

関東対抗戦1位の王者・帝京大は第2ステージ最終戦で、関東リーグ戦3位の大東大に圧勝した。対抗戦4強の理由を問われ、帝京大の岩出雅之監督はコトバを選びながら、「(他のリーグの大学が)結果的に勝ち切れないのは、現状では、対抗戦のチームの規律がしっかりしているからだと思います」と説明した。

「(反則は)どちらも起こす可能性はありますが、(他のリーグのチームが)ここで反則するのか、と思う時もあります。全体的に(他リーグの)ゲームの運び方、プレーの質が対抗戦とは、現状では、違うのかなと」

大学ラグビーの各チームは、まず地域リーグを勝ち抜かなければならない。そのリーグのレベルが高ければ高いほど、当然、チーム力は磨かれていくことになる。実績や人気がリーグに集まる素材の質を押し上げ、チーム同士の切磋琢磨が日々のコーチングを高めることになる。

関東の対抗戦とリーグ戦のチームの今季の戦いぶりを見て感じたのは、「接点のはやさ」の違いである。一瞬の仕掛け、動き出し、圧力といってもいい。タックルのはやさ、ブレイクダウンでの2人目のはやさ、予測や判断のはやさである。

2次リーグ最終戦の、関東対抗戦3位の筑波大と、関東リーグ戦1位の流経大の試合が象徴的だった。

選手個々の身体能力では、流経大も決して悪くはなかった。なのにアタックではボールをなかなか前に運べない。圧力を感じてか、ふだんの癖か、ボールをもらった選手が一瞬、止まって、次のプレーに移ろうとする。『間』がある。そこを、組織的なディフェンスを強みとする筑波大に突かれた。

筑波大のダブルタックル、あるいは2人目のはやさが生きる。流経大のナンバー8高森一樹主将は嘆いた。

「タックルからのリアクションにやられました。(筑波大は)二人目、三人目がはやい。ブレイクダウンのプレッシャーが全くちがった。ボールに絡まれ、安定した球出しをさせてもらえませんでした」

結果、筑波大は36-11で流経大を破った。能力の高い筑波大のバックスはともかく、FWの動きでもはやさが違った。コンタクトエリア、とくにディフェンスでのヒットスペースに瞬時に入るはやさは、いかに『アンティシペーション(予測)』し、しっかり意識しておくかである。

これは、ふだんの鍛練の積み重ね、試合経験によるものだろう。さらにいえば、タックラーが素早く、瞬間的なリアクションではやくいくためには、サポートプレーヤーがいるという信頼があればこそ。アタックでも、キャリア―の動き出しのはやさは、周りの選手とのコミュニケーションと無関係ではあるまい。

個々の身体能力、フィジカルの強さはともかく、複数人で一斉に動くスピードこそ、相対的に対抗戦グループの上位チームの優位な点ではないか。それは練習のディシプリン(規律)や意識、地道な反復練習、厳しい試合で培われるものなのである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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