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東京五輪パラ決定、障害者スポーツの環境改善も

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

2020年東京五輪パラリンピックの開催が決まって2週間が経った。大事なことは開催までの7年間で、どうスポーツ界を変えていくのか、である。パラリンピック関係の人々にとっても、障害者スポーツへの理解、環境が改善される大きなチャンスとなる。

「こういう結果になってよかった。ホッとしています」と、日本パラリンピアンズ協会会長の河合純一さんは言う。河合さんは全盲スイマー。前回2016年招致から障害者スポーツの代表として招致活動に携わり、20年招致でもアスリート委員会副委員長として奮闘してきた。

実は河合さんが招致活動に関わるようになった2008年頃、招致委員会の名前に「パラリンピック」の文字がなかった。東京と争う他都市の招致委員会の名前は「オリンピック・パラリンピック」となっていたのに、である。でもやがて東京も名前に「パラリンピック」が加わり、パラリンピックへの関心も少しずつ高まってきた。

20年東京五輪パラリンピック開催の決定は、障害者スポーツを取り巻く環境が変わるための「大きな起爆剤になる」と期待する。障害者スポーツの管轄が、厚生労働省から、健常者スポーツと同じく文部科学省に移される動きがある。一元化されるスポーツ庁の創設も現実味を帯びてきた。強化予算も、国からはもちろん、民間からの寄付やスポンサーなどを含めて増加することになるだろう。

「大きな希望と責任を感じる」と河合さんは言う。まずは7年後、パラリンピックを開催する運営力を築かなければならない。はっきりいって、日本にノウハウはまだない。他の障害者スポーツの国際大会を招致するなどし、経験を積んでいかなければならない。

同時に日本の競技力のアップである。昨年のロンドンパラリンピックで、日本は金メダル5個、銀メダル5個、銅メダル6個の合計16個に終わった。これは世界のメダル獲得ランキングでみると20位以下となっている。

五輪同様、タレント発掘が必要であり、強化を担う競技団体の整備、効率的な強化システムの確立も求められるだろう。五輪選手と比べると、パラリンピック選手では、強化費はもちろん、栄養指導、ドクター、トレーナーなどのスタッフも脆弱である。

さらには、ハード面のバリアフリー化とともに、人々の障害者スポーツへの理解、すなわち「心のバリアフリー化」も大事なことだ。例えば、スポーツに関係なくとも、もっと障害者の就職機会が増えていってほしい。

「いずれにしろ、アスリートファーストを大事にして、新しい時代のスポーツ像を目指したい」と河合さんは言う。そのためには、人々がもっと、障害者スポーツを知るべきだ。メディアへの啓もうも不可欠か。

先日、20年東京五輪パラリンピック招致で活躍したパラリンピック走り幅跳びの佐藤真海さんのテレビの特集番組があった。男性アナウンサーの最後の締めの言葉が「7年後、素晴らしいオリンピックをみたい」だった。

それは違うだろう。五輪とパラリンピックは別物である。ここでは「パラリンピック」か、「オリンピック・パラリンピック」と言わなければいけないのだ。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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