やはり国際オリンピック委員会(IOC)には『大陸バランス』の力学が働いている。ブエノスアイレスで開かれているIOC総会で、2020年五輪開催地に東京が決まったのに続き、10日、第9代の新会長にはトーマス・バッハ副会長(ドイツ)が選ばれた。

 IOC関係者によると、「会長」と「五輪開催地」を同じ総会で決める際には、同じ大陸から両方が出ないようにする、といった不文律があるそうだ。確かに退任するジャック・ロゲ会長(ベルギー)が決まった2001年の総会では、北京が2008年開催地の栄誉を獲得した。

 今回の会長選挙ではもともと、バッハ副会長が最有力視されていた。ということは、五輪都市には欧州以外、つまりマドリード、イスタンブールではなく、東京が選ばれることが有力だったということになる。その力学を知ってか知らずか、東京はバッハ副会長の支持を受けていたようだ。

 バッハ副会長は、1976年モントリオール五輪のフェンシングの団体金メダリスト選手である。だからこそ、東京五輪招致委では、ロンドン五輪のフェンシング団体銀メダリストの太田雄貴選手をプレゼンターで起用し続けたのだろう。

 そう考えると、今回の東京の戦略はよくできていた。バッハ氏を味方に引き込み、ライバル都市の大票田(44人)の欧州を切り崩した。ついでにいえば、いくら欧州とはいえ、同じ大陸から五輪開催地が続けて選ばれること避けたいだろう。これも大陸バランス、大陸ローテーション。だから2022年冬季五輪、24年夏季五輪に立候補したい欧州の都市を持つ国のIOC委員の支援を得ることもできたようだ。

 さらには国際陸上連盟(IAAF)のラミン・ディアックIOC委員(セネガル)と友好関係を築いたこととロビイングの奏功で、アフリカ大陸のIOC票(12票)を抑えたことも大きかった。 

 大陸バランス(大陸ローテーション)でいえば、12年ロンドン五輪、16年リオデジャネイロ五輪とくれば、次はアジア・オセアニアエリアの都市が優位になる。逆に前回16年五輪招致の際には、08年北京五輪の後、12ロンドン五輪をおいて、またアジアの東京となるのが厳しかったのである。

 東京は今回、オセアニアの6票もほぼ確保し、苦戦必至だったアジアの票(22票=投票権のない竹田会長を除く)も傷口を広げずに済ませた。結果、1回目の投票で、東京は予定通りの、「42票」を獲得した。トップだった。実は東京五輪招致では、決選投票の相手はマドリードと踏んでいた。

 だがマドリードがイスタンブールとのタイブレークの末、1回戦で姿を消してくれた。なぜ追い風が吹いていたマドリードが減速したのか。あるIOC委員は「おごりに反感を抱いた」と説明してくれた。最終プレゼンで故サマランチ会長をアピールしたのも逆効果になったようだ。つまりは戦略ミスだ。

 1回戦の時点で、東京の勝利はほぼ確定していた。反政権デモやドーピング違反、隣国シリア情勢の悪化など、ネガティブな要素が噴出したイスタンブールにはもはやIOC委員の過半数の票をとる力はなかったからだ。

 東京は、決戦投票で「60対36」という予想以上の大差でイスタンブールを破った。マドリード敗退後の票の囲い込みの戦略、最終プレゼンの出来がよかったからだった。東京招致委としては、中南米のIOC委員との信頼関係も築いていた。

 結果、マドリードが強い中南米の票(12票)のほとんどが東京に回ってきたようだ。スペインの3人のIOC委員の票も東京がもらうことになっていた、加えて、イスタンブールのなりふり構わないロビイングがIOC委員の反感を招いた可能性もある。

 さらに東京は最終プレゼンの出来がよかった。高円宮妃久子さまの感謝のスピーチから、被災地(宮城県気仙沼市)出身でパラリンピアンの佐藤真海の情感あふれる語り、安倍晋三首相による「汚染水問題」の不安の払拭…。IOCの心に、すべてが伝わったようだ。

 ロビイングの中心人物は言う。

「敵失もあったけれど、東京の汚染水問題の打ち消し方がよかった。ソチ五輪とリオデジャネイロ五輪の準備が遅れていることも、確実な運営能力を誇る東京にプラスに働いた。世界各地からまんべんなく票を獲ることができたことが大きい」

 確かに長年の東京の積み重ね、戦略が得票につながった。だが「大陸バランスの力学」も不安定な国際大会の準備状況も、ついには東京に優位に働いたのである。