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セブンズ・ファミリー主義とは

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

春の嵐が吹き荒れた13日、東京・辰己の森ラグビー練習場をのぞく。7人制ラグビーの男子日本代表候補の練習は活力に満ちていた。強風にも集中力が薄れない。瀬川智広ヘッドコーチ(HC)は言う。

「今日はみんな、元気ですね。“明るく、楽しく、元気よく”。“やるときはやる”がチームのコンセプト。厳しいことを楽しくやって、チームとして結束していくのが一番だと思っています」

7人制ラグビー、通称セブンズは楽しい。この日の練習テーマがディフェンス。束となってはやく上がらないと、身体能力でまさる外国勢にはやられてしまう。実戦形式のアタック・ディフェンスでは「アップ!」との声がさかんに飛ぶ。

「走り勝つ」ことを目指す日本代表の生命線が、「アクション」と「ハマー」である。アクションは反応、鋭い動き出し。ハマーとは、15人制日本代表でいうところの「リロード」を指す。倒れても早く立ち上がる、自分の責任ポジションにつく。

つまりは瞬間スピードと体力を生かして、守っては「面」(連携プレー)で相手をつぶし、攻めては速いテンポでボールをリサイクルしながらトライを奪うのだ。「チームの浮き沈みはありますけれど、やるときはやるぞ、という集団になりつつあります」と、瀬川HCは手ごたえをつかんでいる。

五輪ロードの最初のヤマ場となる「香港セブンズ」(22日~24日・香港)「東京セブンズ」(30日、31日・東京)に向け、約3週間の異例の選考合宿を続けている。若手の長谷川峻太(大東大)の負傷リタイアは残念だが、大島佐利(サントリー)羽野一志(中大)がいい動きを見せている。

ベテランの桑水流裕策(コカ・コーラウエスト)も元気だ。初参加のジェイミー・ヘンリー(立正大)はチームにとってオモシロい存在になりそうだ。

この日はグラウンド練習後、合宿先のナショナルトレーニングセンターのプールで「水泳大会」を実施した。リカバリーをかねたチームビルディングの一環だろう。実は瀬川HCはこの日朝、水着を5千円で購入した。

「これを機会に時間がある時には水泳をしようかな」と、瀬川HCは笑顔を浮かべる。この長期合宿でジャパンは連帯感が強まり、ファミリーみたいになりつつある。「(香港セブンズは)これから世界で戦う第一歩。僕自身、あんまり心地よくないけれど、いいプレッシャーを感じています」

セブンズには悲壮感は似合わない。試合時間が短く、試合数が多い。切り替え、メリハリが肝要だ。明るく、楽しく、元気よく、それで最後に“セブンズ・ファミリー”は勝つのである。

【「スポーツ屋台村」(五輪&ラグビー)より】

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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