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東京五輪招致の勝算は?

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

2020年夏季五輪パラリンピック招致レースで、国際オリンピック委員会(IOC)の評価委員会による東京視察が終わった。はっきり言って、これはセレモニーに近い。失点がなければ、「成功」である。

評価委員会はマドリード、イスタンブールを回り、3都市の評価報告書が作成されることになる。これにはロゲ会長やIOC幹部の意向も反映されるといわている。

忘れもしない4年前の2016年五輪パラ招致の際の報告書。各都市とも評価記述は似たようなものだったけれど、リオデジャネイロだけ、「very」の副詞が付き、「a very high quality(非常に質の高い)」となった。ナゾだった。

だいたい投票するのは約100人のIOC委員である。報告書の評価がそのままIOC委員の投票行動に反映されるわけではない。評価委員から質問された部分をポイントとし、今後、IOC委員に懇切丁寧に説明して理解してもらう必要があろう。

東京五輪パラ招致委の総括会見で、五輪専門メディア「アラウンド・ザ・リングズ」のエド・フーラさんは「二度目となる東京の情緒的なアピール不足」を指摘した。

招致委理事長の竹田恒和・日本オリンピック委員会(JOC)会長は「都市力」「安定感」を訴えた。

「新しい場所、新しい国でオリンピックを開催するのも素晴らしいでしょうけれど、ロンドンは3回目の開催で大変素晴らしいオリンピックをして世界に貢献した。東京はロンドンを上回る、将来の模範となるオリンピックを目指しております」

確かにイスラム圏初の五輪開催を目指すイスタンブールと比べると、インパクト不足は否めない。だが、コンパクトで運営能力、財政基盤は強い。支持率も「70%」にアップした。つまりウリは安心安全を提供できる「円熟都市」ならではの五輪である。

兎にも角にも、東京に勝算はあるのか。いろんな人に聞かれたし、こちらもいろんな外国人記者にリサーチした。結果、やはり現時点では、イスタンブールが頭ひとつ抜け出しているようだ。

過去のIOCの投票心理からいくと、五輪運動にとっての「功績」を選ぶ傾向にある。すなわち「初もの」。2016年五輪は南米初のリオデジャナイロ、20年五輪ではイスラム圏初のイスタンブール…。とくに9月のIOC総会がロゲ会長の最後となる。もうひとつ「勲章」をほしくなるというわけだ。

ただ消去法でいくと、中東のトルコは将来、政情不安となるリスクがある。大地震の不安が消えない東京も避けられ、逆に財政再建の期待を受けてマドリードが逆転することもあるかもしれない。

4年前、ほとんどの人がこの時点ではリオが勝つとは思っていなかった。だから、というわけではないが、東京招致成功のチャンスは十分あるとみる。IOCに「安定志向」の風が吹けば…。投票まであと半年。勝負は魑魅魍魎たるロビー活動にかかっている。

【「スポーツ屋台村」(五輪&ラグビー)より】

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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