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二刀流・大谷、「波」克服を。

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

沖縄のプロ野球キャンプ地を駆け足で回る。週末、黄金ルーキーの大谷翔平を見るため、沖縄本島の北部、日本ハムの二軍キャンプ地の国頭村(くにがみそん)のくにがみ球場に向かう。一軍キャンプ地の名護から車で約50分、国道58号線を北へ走る。岸壁沿いの道端にこんな道路標識が何カ所にも立てられていた。<この先、「波」走行注意>。

海岸沿いのくにがみ球場に着けば、いるわ、いるわ、メディアがざっと150人、ファンは500人ほど。二軍キャンプ地としては異例のにぎわいだろう。球場外のテントで球団グッズを販売している女性に聞けば、「大谷効果」とうれしそうだ。「メディアだけでなく、芸能人もたくさんきます。色紙が飛ぶように売れます」と。一塁スタンドの芝生には伊集院光さんがひとり、座っていた。

視線の先には、大谷がいた。背番号「11」。パッと見、タダ者ではないオーラを発している。フリー打撃で空振りしても、苦笑いすると、もう憎めないのである。高校の学年末試験でチームを離れ、この日、3日ぶりにキャンプに合流した。強行日程の影響か、ちょっとからだに切れがなかった。

それでも手足が長く、立ち姿が美しい。193センチ、86キロ。右投げ左打ち。ピッチング練習を見ることはできなかったが、バッティングにしろ、守備にしろ、ランニングにしろ、1つひとつの動きが伸びやかなのだ。柔軟性、運動神経に長けているのだろう。ただ、線が細く見える。とくに下半身。

18歳の風貌は愛らしい。目の端には知性と意志の強さがにじむ。純粋というか、いかにもまじめそうだ。ここはダルビッシュ有や中田翔の新人時代とは少し違う。

高校史上最速の160キロ右腕にして通算56本塁打のスラッガー。球界のフロンティアとなるべく、投打の「二刀流」に挑戦するとあって、どうしたってメディアの大波を受け続けることになる。

キーワードは「波」である。メディアやファンの波をどう、流していくのか。投手と野手、両方の練習の波をどう対応していくのか。コンディショニングは難しくなる。ケガがこわい。でもからだを鍛え込む必要もある。アマとプロは厳しさが違う。けがのリスクを考えながら、どう鍛練を積んでいくのか。

好不調の波は必ず、やってくる。とくに不調の時、どうやって乗り越えるのかが課題となる。やはり大谷本人の精神力が一番大事だが、コーチングスタッフ、トレーナーらのサポート、つまり球団の育成力の真価が問われることにもなる。

ニ刀流の挑戦には「夢」がある。いちメディアとしてもワクワクする。今でも「二刀流は無理だ」という評論家が多い。この既成概念をぶち壊してくれまいか。できれば、打っては四番、投げてはエースというスーパースターをプロ野球で見てみたい。

作家開高健の言葉を借りると「悠々として急げ」といったところか。じっくり二刀流、大リーグへの夢を追う。

<この先、「波」走行注意>である。

【「スポーツ屋台村」より】

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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