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トライ王山田章仁が2刀流で得たもの

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

ラグビーのトップリーグの年間表彰式が28日開かれ、パナソニックのWTB山田章仁が「トライ王」と「ベストフィフティーン」となり、表彰を受けた。今季はラグビーとアメリカンフットボールの“二刀流”に挑戦。山田は「うれしさというより、ホッとしています」と笑顔を振りまいた。

やはり華がある。ステージに上がると、会場の雰囲気がパッと明るくなる。表彰盾を胸に抱え、「多くの人々のサポートによって、アメフトへのチャレンジができました」とパナソニックのチームメイトやスタッフ、関係者に感謝する。相乗効果が出たのだろう、トップリーグでは変幻自在に走りまくり、シーズン最多記録となる20トライをマークした。初のトライ王に輝き、「トライは素人でも玄人でもわかりやすいシーンじゃないかなと思います。これからもトライのシーンにこだわって、多くの人に楽しんでいただけるよう頑張っていきたい」と話した。

慶大時代から甘いマスクと華麗なランニングで注目されてきた。人気回復を目指すラグビー界にあっては、こんなスター性のある選手にもっと大きくなってほしいものだ。今季は昨年春から、アメフトの社会人Xリーグ・ノジマ相模原にもリターナーとしてチャレンジした。よくぞパナソニック側が許したと思うけれど、山田もそれなりの覚悟を持っていたようだ。

話題性は抜群である。この日も記者から1ページで特集された英字紙を渡され、「うれしいですね。アメフトにチャレンジした年にこういうことをしてもらうのは」と喜ぶ。「アメフトではなかなか思うような結果を残せなかったけれど、自分自身が改めて分かりました。今回はアメフトとラグビーにチャレンジする中でどちらもおろそかにできない自分がいた。自分にプレッシャーをかけると、自分はすごく頑張れるなと気が付きました」

もちろんラグビーだけでも大変なのだから、2競技だとトレーニングの両立が難しくなる。特にけがができないので、食生活を含めて自己管理を厳しくしないといけない。「何も言い訳できない。フィールドの上で勝負しないといけない。当たり前のことですけれど、より一層、そのことを感じられたシーズンでもあります」。昨年11月の日本代表の欧州遠征メンバーにも選ばれた。

二刀流で昨季から変わったことを聞けば、ウソかマコトか、「彼女がいなくなったことぐらいですかね」と苦笑する。「デートの時間がちょっとウエイトの時間になったぐらいです。結果、(ラグビーとアメフトの)楕円球と一緒に生活する時間が長くなりました」

ラグビーでは、相手陣形を読む視野の広さとスペース感覚、接点の強さがアップした。トップリーグではプレーオフ準決勝で敗退したとあって、日本選手権の活躍で雪辱を誓う。

このほどアメフトのノジマの納会に参加した。来季もサポートしてくれるということで、「できれば、(来季も二刀流を)やりたいな、という思いはあります」と言う。「アメフトでちょっとでもやれば、ラグビーとしてのステージが上がるし、ラグビーのトレーニングができれば、アメフトの方でももうちょっと結果が残せると思います」。独創的な生き方を貫く27歳のチャレンジはまだ続きそうである。

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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