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早稲田ラグビーの課題は?

松瀬学ノンフィクション作家(日体大教授)

正月早々、つらい試合を見てしまった。ひと言でいえば、地力負けである。ワセダがフツーにやって、フツーに負けた印象だった。フィジカルやコンタクトでは帝京大より劣勢なのは分かっていた。なのに他でカバーすることができず、とくに後半は何もできなかった。だから悔しさが余計に募るのだ。

「死んでも勝つ」。これがワセダの合言葉だった。『打倒!帝京大』を目標に掲げて1年間、鍛錬を積んできた。意地もある。当然、選手たちの気力は充実していたはずだ。強風が吹き荒れる。その風上の前半、ワセダはタックルから前に出た。しつこいタックルで相手のハンドリングミスを誘った。モールを押し込んでトライも奪った。だがリズムには乗れない。

なぜかといえば、スクラムが不安定だったからだ。相手のうまいスクラムワークにやられた。構えた時、フロントロー同士の間合いが広く、あたり勝つと少し下がられる。その途端、主将の左プロップ、背番号1の上田竜太郎が左腕をねじる感じで落ちる。当たり負けても同じように落ちる。レフリーの目から見ると、ワセダのコラプシング(スクラムを故意に崩す行為)の反則となった。

前半、12回のスクラムのうち、4度のコラプシングをとられた。1度のノットストレートの反則、押されてのターンオーバーも許した。これではチャンスは膨らまない。

上田は試合後、嘆いた。「セットプレーでからだを張らないといけないのに…。そこでチームをまとめきれなかった。僕のペナルティーから崩れたようなものです。悔しいです」

確かに10-7の3点リードで折り返した。が、チームにその優位さを感じさせる雰囲気はなかった。体力的なダメージがあったかもしれない。ボクシングでいえば、帝京大のFWのサイド攻撃の連続はボディーブローのようなものだった。

風下の後半、スクラムは間合いを詰めて立て直したけれど、ブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)で圧力を受け始める。全体的にディフェンスが内に寄ってしまった。接点で圧力を受けているため、タックルの出だしも鈍くなった。受けに回る。なんども帝京大のSO中村亮土に大幅ゲインを許すようになった。

勝敗の帰趨を決めたのは、後半23分に奪われたトライだった。ワセダが反撃する。自陣から左オープンに回し、CTB布巻峻介が外にパスを投げた瞬間、相手CTBの荒井基植にインターセプトを許す。苦しくても攻めざるをえなかったのだろうが、布巻の判断ミスだった。これをつながれ、WTB小野寛智にインゴールに走り込まれた。ゴールも決まって、10-31となった。

結局、10-38の完敗だった。個々の身体能力は高くても、フィジカルの差はどうしようもなかった。後半はまとまりもなく、何をしたいのがわからなかった。意思統一が見えない。プレーの精度、チームプレーの完成度はとうとう高まらなかった。勝利への執着、巧さ、そういったワセダらしさが見えなかった。

残念ながら、体力的、精神的、技術的、すべてにおいて王者帝京大が上に映ってしまった。4強のなかで一番、ワセダがフィジカルで劣っていたのではないか。

いわば臥薪嘗胆である。まずは、もっと食事などの日常生活の過ごし方から考え、もっと科学的にからだを鍛えるしかあるまい。試合だけでなく、ふだんから死にもの狂いでやっていくしかない。もちろん、それを一番痛感しているのは戦った選手たちだろう。

布巻は言った。「地力で上回られたと思います。セットプレーにしても、1対1の強さにしても、ディフェンスにしても、基本になる部分で負けていた…。個々が強くならないといけない。そっからです」と。

その通りである。さらにいえば、ワセダの部員なら、ラグビーにかけてほしい。かつての狂気をみたい。覇権奪回のため、とことん知恵を絞り、これで勝負するというカタチと自信をつくるのだ。この悔しさを忘れるな。

【「スポーツ屋台村」(五輪&ラグビーPlus)より】

ノンフィクション作家(日体大教授)

早稲田大学ではラグビー部に所属。卒業後、共同通信社で運動部記者として、プロ野球、大相撲、五輪などを担当。4年間、米NY勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。1988年ソウル大会から2020年東京大会までのすべての夏季五輪ほか、サッカー&ラグビーW杯、WBC、世界水泳などを現場取材。人物モノ、五輪モノを得意とする。酒と平和をこよなく愛する。日本文藝家協会会員。元ラグビーワールドカップ組織委員会広報戦略長、現・日本体育大学教授、ラグビー部部長。著書は近著の『荒ぶるタックルマンの青春ノート』(論創社)ほか、『汚れた金メダル』『なぜ、東京五輪招致は成功したのか』など多数。

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