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名棋士・丸山忠久九段、史上最年長53歳で銀河戦優勝! 決勝で若き王者・藤井聡太八冠を下す

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月13日。第31期銀河戦決勝▲丸山忠久九段(53歳)-△藤井聡太銀河(21歳)戦がYouTube「囲碁将棋プラス」のチャンネルで配信されました。

 結果は99手で丸山九段の勝ち。丸山九段が銀河戦史上最年長での優勝を果たしました。

 藤井銀河は2年連続3回目の優勝はならず。また前年度に引き続いての早指し4棋戦の「グランドスラム」の可能性もなくなりました。

角換わりのスペシャリスト、最強八冠を破る

 収録がおこなわれたのは、秋深き11月1日。丸山九段は最初からスーツの上着を脱ぎ、半袖のワイシャツ姿です。

 丸山九段が筋力トレーニングに励んでいるのは、将棋ファンの間では有名です。

 表彰式後のインタビューでも、丸山九段はトレーニングについて尋ねられていました。

丸山「普段はもう毎日、トレーニングしてて(笑)。(どういった?)どういったというかもう(笑)。まあハードなトレーニングというか、なんというか(笑)。してるんですけど。体の方を壊さないようにしたいと思います、はい」

 丸山九段は決勝トーナメント2回戦(準々決勝)で渡辺明九段、準決勝で永瀬拓矢九段に勝利。いずれも丸山九段の先手でした。そして決勝の本局でも振り駒で先手となります。

丸山「(今期銀河戦は)全局印象に残ってるんですけど。全体を見て先手番が多かったのが、けっこうびっくりしたなというふうに思って(笑)。将棋の内容はもう、非常に厳しい内容ばかりだったんですけど、そんな中ツイてたのかなというふうに思っています」

 藤井銀河、丸山九段ともに一礼して対局開始。

「お願いします」のあいさつの声が、ひときわ大きいのも丸山流です。

 戦型は予想された通り、丸山九段は普段通り、得意の角換わりを採用します。以下、すらすらと、互いに腰掛銀に組み合いました。

丸山「相手が強すぎるんで、対策立ててもまあ、あまりしょうがないというか。それでうまくいくとかいうことも特にあるとは思えなかったんで。ただまあ、チャンスが来たときにはつかみたいなというふうには思ってました」

 本局の解説は佐藤康光九段。丸山九段とは名人戦七番勝負や棋聖戦五番勝負など、数々の名勝負を戦ってきました。その対戦の多くも角換わりです。2010年の銀河戦決勝もまた、角換わり。結果は佐藤九段の勝ちでした。

丸山「何年前か忘れたんですけど、今日の解説だった人(佐藤康光九段)に決勝で打ち破られてからもう、鳴かず飛ばずになって。何年経ったかわからないんですけど。一度は優勝したいなっていう気持ちはあったんですけど。ただまあ年齢的にも、正直ちょっとできるのかどうかわかりませんでした」

 本局、藤井銀河がバランス重視の右玉に構えるのに対して、丸山九段は銀矢倉にスイッチし、堅い城内に玉を収めました。藤井銀河の銀が中央に出ると、丸山九段は歩を突いて動き、戦いが始まります。

 63手目。コンピュータ将棋(AI)が示す候補手は、桂を成り捨てる強手です。

佐藤「▲5三桂成ってAIは言ってますけど、それは指さないと思いますね(笑)。まあ、けっこうね、AI・・・」

 佐藤九段がそう解説しているそばから、丸山九段は桂を成り捨てました。

佐藤「あれっ!? 指しましたよ。やっぱり古いですね、自分の感覚は(苦笑)。こう指すもんですか」

 丸山九段が5筋下段の飛車を基軸として攻め続けるのに対して、藤井銀河は受け続けます。AIの評価値が揺れ動く、スリリングな中盤戦となりました。

 83手目。丸山九段は銀を引いて受けます。

藤井「ここからは厳しいと思います」

 藤井銀河は形勢を悲観していたようです。84手目。藤井銀河は7筋の歩を突いて、丸山陣にプレッシャーをかけました。代わりに桂を跳ねて攻める手もありましたが、藤井銀河はそれもよくないと判断していたようです。

 本譜は丸山九段の攻めが一手早い形。藤井銀河はめったに見られない、がっくりした表情を浮かべました。

 絶体絶命の最終盤から、藤井銀河が大逆転を演じた例は何度もあります。しかし本局、丸山九段は間違えることなく、しっかり着実とゴールに向かっていきました。丸山九段は自玉が詰まないことを読み切って、決めにいきます。

 99手目。丸山九段は玉を逃げました。藤井銀河はしばらくうつむきます。

「20秒、1、2、3、4・・・」

 記録係がそこまで秒を読んだところで、藤井銀河は「負けました」と頭を下げました。

 銀河戦史上最年少18歳で優勝した藤井現八冠。21歳となった現在は、タイトル八冠を独占しています。その若き王者を破って、丸山九段は史上最年長53歳で銀河戦優勝を果たしています。大変な偉業というよりありません。

丸山「1回ぐらいは優勝したいなというふうには思ってたんですけど。正直、そういう機会があるのか、わからなかったんで。本当にうれしいです」

 本局収録からしばらくあとの12月8日。丸山九段は通算1000勝の偉業も達成しています。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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