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藤井聡太竜王(20)攻め合いで快勝! 日本シリーズ、羽生善治九段(51)とのドリームマッチを制す

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 9月23日。北海道札幌市・札幌コンベンションセンターにおいて第43回将棋日本シリーズ・JTプロ公式戦2回戦▲藤井聡太竜王(20歳)-△羽生善治九段(51歳)戦がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 15時24分に始まった対局は16時26分に終局。結果は67手で藤井竜王の勝ちとなりました。

 藤井竜王はベスト4に進出。11月6日、愛知県名古屋市でおこなわれる準決勝において、稲葉陽八段と対戦します。

 藤井竜王の今年度成績は16勝4敗(勝率0.800)となりました。

 羽生九段と藤井竜王の通算対戦成績は羽生1勝、藤井6勝となりました。

藤井竜王、短手数の攻め合いを制す

 羽生-藤井戦は現将棋界のゴールデンカード、プラチナカードです。

 両者による公開対局は、公式戦初手合となった朝日杯準決勝以来。そのときは羽生現九段が竜王、藤井現竜王がまだ五段という立場でした。

 本局もまた大変な注目を集めました。一般ファン向けの観戦チケットも大変な高倍率。抽選で当選された方は、幸運というよりありません。

 対局開始前、会場のファンを前にして、両対局者は次のように語りました。

藤井「私にとっては今期のJT杯初戦になりますけど。初戦から羽生九段と対戦できるということで、非常に楽しみにしています。羽生九段はやはり、どのような展開になっても非常にうまく対応されるというか。本当に戦型選択も多彩で、非常に、総合的に見てすごく、常にレベルの高い指し手を選ばれている印象です。本局、公開対局となりますので、見ていただいてる方に最後まで楽しんでいただけるよう、熱戦にできればと思っています。よろしくお願いします」

羽生「(北海道には)昨年は残念ながら来ることができなかったので、2年越しに公開対局でこの場所に来ることができて、とてもうれしく思っています。(藤井竜王については)本当に、なんていうんでしょうかね。すべての面でスキがないというか。非常に高度な将棋をいつも指されているなあ、というような印象を持っています。この札幌の場所でですね、藤井さんと対局ができるということですので、最後までゆっくり楽しんで見ていってくださればうれしく思います。よろしくお願いいたします」

 選ばれたファンによる振り駒の結果、「歩」が3枚出て、先手は藤井竜王と決まりました。

 両対局者が「お願いします」と一礼をして、対局開始。藤井竜王はまず、グラスに注がれた水を飲みました。いつものお茶ではなく、水なのは珍しい感じもしますが、2019年、初めて本棋戦に登場し、三浦弘行九段と対戦した際にも、最初は水を飲んでいました。

 本局、藤井竜王は初手、飛車先の歩を突きました。

 後手の羽生九段が誘導して、藤井竜王は横歩を取ります。藤井竜王が横歩取りで有力とされる「青野流」を採用したのに対して、羽生九段は力強く三段目に金を上がり、一触即発の形となりました。

 36手目。羽生九段も横歩を取り返します。手が広い局面で「次の一手予想クイズ」に。藤井竜王が37手目を封じました。

 しばらくの休憩のあと、再開。藤井竜王の封じ手は、自陣を整備する銀上がり。解説の屋敷伸之九段が示していた、本命の一手でした。

藤井「ちょっとほかの手だと、こちらの玉が薄くなってしまうので。▲6八銀と上がって・・・。そうですね。後手からも手段が多いですけど、それでどうかなと思っていました」

 ここからは両者の読み筋が一致したか、あっという間に飛車の取り合う激しい変化へと進んでいきます。コンピュータ将棋が示す評価値を見る限りでは、このあたりで藤井竜王がリードを奪いました。

羽生「序盤から激しい将棋になったんですけど・・・。うーん。ちょっとどこかでなんか、手を戻す手を考えるべきだったかもしれません。もともとの岐(わか)れがわるかったのかもしれませんけど。ちょっとそうですね、まだ、調べてみないと結論はよくわからないと思いました」

 42手目、羽生九段はあたりになっている角を逃げず、先に相手陣に飛車を打ち込みます。

羽生「行きがかり上、△8九飛車はしょうがないかなと思って」

藤井「△8九飛車、見えていない手だったんですけど」

 羽生九段が角香交換の駒損からと金を作り、スピード重視で攻めます。対して47手目、藤井竜王も飛車を打ち返して反撃に出ました。さらに端に角を出た手が、攻防によく利いています。

藤井「▲8二飛車から▲9五角と攻め合いにいってちょっと、うまくいってるかどうかわからなかったんですけど。結果的にはそこから踏み込んでいって、勝ちに結びつけることができたのかなと思います」

 本譜は一直線の寄せ合いとなりましたが、局後の検討では、羽生九段が自陣に銀を打って受けに回る順も検討されました。藤井竜王はその順も読んでいたようです。「こちらも指し手が悩ましいのかなと思っていました」と前置きしながらも、早めの口調ですらすらと変化手順を示し、観戦者を驚かせました。「そうかー」と羽生九段。本譜よりは優った可能性もありますが、そちらの順を選んでも、形勢好転までには至らなかったようです。

 55手目。藤井竜王は中段に角を打ちます。これが羽生陣の左右をにらんで、これが鮮やかな決め手となりました。

藤井「こちらとしても手順としてはなんというか、消去法というか、仕方ないと思って進めていたんですけど」

羽生「これはちょっと困っていると思います」

 67手目。藤井竜王は金を打って王手をかけます。これで羽生玉は詰み。

羽生「負けました」

 羽生九段が投了を告げて一礼。藤井竜王も一礼を返して、今回の夢のカードも幕を閉じました。

 両者の次なる対戦も待たれるところですが、もし羽生九段が王将リーグを勝ち抜けば、藤井王将-羽生挑戦者の七番勝負が実現します。そうなればまた両者の並んだ姿を、ファンが目にする機会も増えるでしょう。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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