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レジェンド羽生善治九段(51)黄金世代のライバル佐藤康光九段(52)を降し棋王戦ベスト8進出!

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 8月5日。東京・将棋会館において第48期棋王戦コナミグループ杯3回戦▲羽生善治九段(51歳)-△佐藤康光九段(52歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は18時47分に終局。結果は89手で羽生九段の勝ちとなりました。

 羽生九段はこれでベスト8に進出。次戦で広瀬章人八段-菅井竜也八段戦の勝者と対戦します。

 羽生九段と佐藤九段は166回目の対局を終え、通算対戦成績は羽生111勝、佐藤55勝となりました。

 羽生-佐藤戦は、あと1局で大山康晴-升田幸三戦、あと2局で羽生-谷川浩司戦と並びます。

上座の譲り合い

 対局がおこなわれるのは東京・将棋会館5階の特別対局室。まず最初に部屋に入ったのは羽生九段でした。そして下座に着きます。

 続いて佐藤九段。羽生九段の姿を見てすぐに上座を勧めます。

佐藤「あっ、先生、さすがに・・・」

羽生「いやいやいや・・・」

佐藤「いやいやいや・・・」

羽生「いや、まあどうぞ」(上座を手で差しながら)

佐藤「通常そういうことになってますんで。さすがにそれはちょっと・・・」

 こういう上座の譲り合いが見られるのは、将棋界ならではです。

 本局の場合、席次でいえば羽生九段の方が上になります。

 佐藤九段の言う通り、規定では羽生九段が上座と決まっています。しかし規定とは関係なく、当事者同士の関係で席次上位者が下座に着く例はよくあります。年齢は佐藤九段が1歳上。順位戦のクラスは佐藤九段がA級で、羽生九段はB級1組。そうした点などもあって、羽生九段は下座に着いていたのかもしれません。

羽生「大変申し訳ありません」

 しばらくのやり取りのあと、そういって羽生九段の方が上座に移っていきました。

 近年では2019年6月、永瀬拓矢叡王(当時)と羽生九段の対戦において、席次上位の永瀬叡王が下座に着き、あとから訪れた羽生九段が規定通り上座を勧めたという例もありました。羽生九段が歴代最多の通算1434勝がかかっていた一局で、映像でもその模様が映されて話題になりました。

財布がない?

 振り駒の結果「歩」が3枚出て、先手は上位者の羽生九段と決まりました。後手番の佐藤九段は横歩取りに誘導。羽生九段が横歩を取ったのに対して、やや少数派の桂を跳ねる作戦で臨みました。

 戦型の大枠が定まったところで、係の女性が食事の注文を取りに来ます。羽生九段は豚しゃぶ弁当。佐藤九段は肉豆腐山椒弁当を注文・・・しようとしたところで、アクシデント。財布が見つかりません。

 佐藤九段は鞄の中、スーツのポケット、買い物のビニール袋を探します。しかしなかなか財布は見つかりません。

佐藤「いやいや、どっかにあるんです。・・・おかしいな。きっとあるんだから。・・・忘れちゃったかな。忘れることがあるのかな」

 佐藤九段が焦っているところで、先崎学九段が建て替えてお札を出そうとします。

佐藤「いやいやいや、ちょっと待ってください。さすがに・・・。ああ、ありました。ごめんなさい。失礼しました。すみません」

 先崎九段のエッセイに登場しそうなひとこまでした。

羽生九段、鮮やかに勝利

 39手目。羽生九段は左銀を上がります。駒が二段目に並び、中央四段目の飛車を頂点として、ピラミッドか富士山のような珍しい陣形となりました。

 40手目。佐藤九段は端1筋から動いていきました。

佐藤「無理でしたか」

羽生「いやいやいや・・・」

 仕掛けの成否は不明。ここからは激しい戦いとなります。

 55手目。羽生九段は盤上右隅に角を打ち込みます。持ち時間4時間のうち、残り時間は羽生1時間52分、佐藤35分。佐藤九段は当たりになっている飛車を逃げるか。それとも逃げずに端に歩を成って勝負するか。8分考えたあと、佐藤九段は飛車を逃げました。

佐藤「本譜は最悪でしたね。全然ダメでしたね」 

 代わりに歩を成ればいい勝負だったようです。本譜は羽生九段がリードを奪いました。

 67手目。羽生九段は馬(成角)をズバリと切って相手の金と刺し違え、一気に寄せに出ます。この順を佐藤九段は見落としていました。羽生九段からは歩を打ち捨てる軽妙手で攻めが続きます。

 中段に逃げた佐藤玉を羽生九段は下に押し戻します。最後は佐藤玉を受けなしに追い込んで一手勝ち。佐藤九段が「負けました」と投了の言葉を告げ、終局。両者166回目の対局が幕を閉じました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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