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斎藤慎太郎八段(29)作戦は相掛かり 渡辺明名人(38)強気に応じて戦いに 名人戦第4局1日目終了

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 5月19日9時。山口県山口市「名勝 山水園」において第80期名人戦七番勝負第3局▲斎藤慎太郎八段(29歳)-△渡辺明名人(38歳)戦が始まりました。

 本局の立会人を務めるのは桐山清澄九段(74歳)。先日、現役生活を引退したばかりの名棋士です。

桐山「それでは定刻になりましたので、斎藤挑戦者の先手で始めてください」

 朝9時、桐山九段が声をかけて両対局者は一礼。持ち時間各9時間、2日制の対局が始まりました。

 両者ともに飛車先の歩を伸ばしたあと、斎藤八段は5手目、金を上がって相掛かりにするか。それとも角筋を開いて角換わりか。

 斎藤八段先手の第2局は角換わりでした。本局でもそう予想する声が多く聞かれましたが、斎藤八段は金を上がり、相掛かりを選びました。

 第3局は斎藤八段が逆転勝ちを収めました。

 七番勝負が始まる前は名人乗りの声が多かったと思われる本シリーズ。渡辺名人が連勝して防衛の可能性が非常に高くなったとも思われました。しかし斎藤八段が連勝を返せば、流れは追いついた側にあるかもしれません。

 斎藤八段はこれまでに王座を1期獲得。タイトル戦登場はこの名人戦で5回目となります。番勝負での成績は6勝14敗です。

 渡辺名人はタイトル戦登場41回。獲得30期。番勝負の成績は122勝80敗です。

 現在、藤井聡太五冠(竜王・王位・叡王・王将・棋聖)がタイトル戦で12連勝中なのが話題になっています。

 渡辺名人の最多連勝記録は10連勝。その内訳は羽生善治現九段6勝、森内俊之現九段に4勝です。一方の連敗記録は最近の6連敗。相手はすべて藤井現五冠です。

 本局がおこなわれているのは山口市。斎藤八段は午前、地元銘菓「小郡饅頭」を頼んでいました。

 本局で記録係を務めているのは徳田拳士四段(24歳)。山口県出身者としては初の棋士です。

 角交換のあとの47手目。斎藤八段は自陣に角を打ち据えます。

「この角がはたらくかどうかが本局のポイント。この先は難しい中盤戦が続いて長そう・・・」

 リアルタイムで観戦していた人はそう思ったかもしれません。しかしあれよという間に局面は大きく動いていきます。

 54手目。銀取りに打たれた歩を、渡辺名人は強く取りました。角筋が渡辺陣奥まで通り、香を取られながら馬(成角)を作られます。驚きの一手であり、これでバランスが取れていると見た名人はさすがの大局観といえそうです。

 59手目。斎藤八段は1時間21分を使いました。そしてふわっと8筋、相手の飛車先に歩を突き出します。現代の相掛かりではこの地点から陣形を押し上げていくことが多い。渡辺王将-藤井聡太挑戦者(立場は当時)の王将戦七番勝負でも、この筋の歩が突かれたことが話題となりました。

 今度は渡辺名人が1時間5分を使います。そして強く、相手が突き出した歩を飛車で取りました。飛車の天敵である香を打たれると、生還できるかどうかはわからないところ。大きな勝負どころを迎えました。

 斎藤八段が馬をにじり寄って渡辺陣の金をねらうのに対して、渡辺名人は64手目、銀を引いて受けます。難解な形勢で、優劣はまだついていないようです。

 18時22分頃。斎藤八段は徳田四段に「図を書いてください」と頼みました。

 18時30分。立会人の桐山九段が声をかけます。

「封じ手の時刻になりましたので、斎藤挑戦者、次の一手を封じてください」

 斎藤八段はすぐに65手目を封じる意思を示しました。桐山九段が封じ手が納められた封筒2通を預かって、本日1日目は終了。形勢は五分で、時間は斎藤八段が2時間以上多く使っています。

 明日2日目は午前9時に封じ手が開かれ、対局が再開されます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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