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馬を作ってうまくやった? 藤井聡太挑戦者、2時間28分の長考からリードを奪う 王将戦第2局1日目終了

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 1月22日。大阪府高槻市・山水館において第71期ALSOK杯王将戦七番勝負第2局▲渡辺明王将(37歳)-△藤井聡太挑戦者(19歳)戦、1日目の対局がおこなわれました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 渡辺挑戦者先手で、戦型は角換わりとなりました。

 藤井挑戦者が48手目、筋違い角を打った局面で12時30分となりました。

 13時30分、対局再開。2日制のタイトル戦の1日目といえば、まだ序盤の戦いが起こらず、比較的のんびりムードのうちに終わり、ということもよくあります。しかし本局はそうはなりませんでした。

 14時過ぎ。51手目、渡辺王将は打った筋違い角で相手3筋の歩を取ります。この手が早くも波紋を呼びました。

 藤井挑戦者からも同様に、筋違い角で3筋の歩を取る順が見えます。これが飛車当たり。相手に飛車を逃げられたあと、馬(成角)を作って得しそうです。ぱっと見た限り、アマチュアでもすぐに見える手順・・・。しかし相手は渡辺王将。あえて誘っているのだから、なにか用意がありそう・・・と思われるところです。

 でも本当に、それで大丈夫なのか? 藤井挑戦者からうまく攻めをつなげる順があって、相当やれそうにも見えます。

 もしかしたら・・・。もしかしたら。渡辺王将にはなにか重大な誤算があったのかもしれません。その先入観をもって渡辺王将の様子を眺めてみると、藤井挑戦者が席をはずしているとき、がっくりとしているようにも見えました。

 藤井挑戦者はこんこんと考え続けます。もとより中盤では時間を惜しまずタイプではありますが、とりあえず指せそうな手をすぐに指さないあたりは、いかにもプロらしい場面です。

 藤井挑戦者が52手目を指すまでに使った時間は、実に2時間28分。これは藤井挑戦者にとって、自身最長の長考記録のようです。

 52手目、藤井挑戦者はすぐには3筋の歩を取らず、8筋に歩を打ちました。

 渡辺挑戦者はここで強く攻め合いにいくのか。それともじっと金で歩を取り払って受けに回るのか。考えること55分。渡辺王将は歩を取って辛抱しました。

 藤井竜王はその打ち捨てを入れてから馬を作ります。筆者手元の将棋ソフトでは、評価値にして700点ほどの差がつきました。両対局者自身がどう評価しているのかはもちろんわかりませんが、客観的には、藤井竜王がリードを奪ったようです。

 57手目。渡辺王将は馬取りに銀を上がります。これで藤井挑戦者の馬は取られる形。しかしそのあと馬で銀を取るか、それとも飛車取りに銀を出るか。どちらも有力そうです。

 藤井挑戦者はここでまた考えます。そして18時を迎え、藤井挑戦者が58手目を封じることが決まりました。そこからさらにまた考え、18時22分。藤井挑戦者が封じ手の意思を示しました。58手目を決めるまでの考慮時間は40分でした。

 立会人の谷川浩司九段が2通の封じ手を預かって、1日目が終了しました。

 明日2日目も朝9時に始まります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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