Yahoo!ニュース

カド番の豊島将之竜王、角換わりを選択 藤井聡太挑戦者は堂々と受けて立つ 竜王戦七番勝負第4局開始

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 11月12日9時。山口県宇部市・ANAクラウンプラザホテル宇部において第34期竜王戦七番勝負第4局▲豊島将之竜王(31歳)-△藤井聡太挑戦者(19歳)戦が始まりました。棋譜は公式ページをご覧ください。

 将棋界の新しい時代を告げる大型棋戦として第1期竜王戦が開始されたのは1987年。今年2021年には第34期を迎えました。その間に竜王位に就いたのは島朗、羽生善治、谷川浩司、佐藤康光、藤井猛、森内俊之、渡辺明、糸谷哲郎、広瀬章人、そして豊島将之の10人です。本局の結果次第では、新たに藤井聡太の名が加わることになります。

 8時45分頃、まず藤井挑戦者が入室。続いて8時50分頃、豊島竜王が姿を見せました。両対局者ともに駒を並べ終えたあと、両対局者は静かに対局開始のときを待ちます。

 本局の立会人を務めるのは福崎文吾九段(61歳)。1986年、竜王戦の前身である十段戦七番勝負を制して、十段位に就いた経験があります。

 9時。

福崎「定刻になりました。第34期将棋竜王戦七番勝負第4局は豊島竜王の先手で開始してください」

 福崎九段が声をかけたあと、両対局者は「お願いします」と深く一礼。持ち時間各8時間、2日制の対局が始まりました。

 先手番の豊島竜王は一呼吸をおいたあと、初手、飛車の前の歩を手にして、ゆったりとした仕草で、一つ前に進めました。

 かつてのタイトル戦であれば、写真撮影のため、先手番の対局者は何度も初手を指す仕草を繰り返したものです。現在ではそうした光景はほとんど見られなくなりました。

 藤井三冠はいつものように湯呑を口にしてお茶を飲みました。そしてデビュー以来変わらぬ王道のスタイルで、2手目、飛車先の歩を一つ進めました。

福崎「いま21度ですけど大丈夫でしょうか? 暑くないですか?」

 福崎九段は対局者にそう尋ね、問題がないことを確認してから、対局室をあとにしました。あとは対局者2人と記録係だけが残されます。

 本局の記録係を務めるのは徳田拳士三段(23歳、小林健二九段門下)。徳田三段は対局場の宇部市から見て少し東の周南市の出身です。2009年、小学生名人戦で優勝。郷土の期待を背負って現在は、奨励会三段リーグで四段昇段を目指しています。現代の将棋界では、山口県出身の棋士はまだ1人もいません。

 宇部市から見て少し西の下関市では2018年、竜王戦第7局(羽生竜王-広瀬挑戦者)がおこなわれました。徳田三段はそちらでも記録係を務めています。

 将棋連盟のウェブページには2014年10月、奨励会で指された徳田二段(香落)-藤井初段戦の棋譜が紹介されています。(段位はいずれも当時)

 熱戦の末に、結果は上手の徳田二段勝ちでした。

 藤井初段の歩みはおそろしく早く、7年後の現在には「藤井竜王」「藤井四冠」を目前としたところにまで来ています。

 カド番に追い込まれた豊島竜王。本局は角換わりの戦型を選びました。藤井挑戦者はデビューからどのような戦型になろうとも、相手の作戦を正面から堂々と受けて立つ王者のスタイル。本局も現代最新の攻防が見られそうです。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

松本博文の最近の記事