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豊島将之竜王(31)深夜の逆転勝ち! 永瀬拓矢王座(29)とのタイトルホルダー対決制しA級3勝目

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月19日。大阪・関西将棋会館において第80期順位戦A級4回戦▲豊島将之竜王(31歳)-△永瀬拓矢王座(29歳)戦がおこなわれました。

 朝10時に始まった対局は深夜0時24分に終局。結果は124手で豊島竜王の勝ちとなりました。リーグ成績は豊島3勝1敗、永瀬2勝2敗となりました。

容易には負けぬ豊島竜王

 タイトルホルダー4人が「四強」と呼ばれる現在の将棋界。順位戦のピラミッドでは渡辺明名人(棋王・王将)が頂点に君臨しています。A級には豊島竜王と永瀬王座。B級1組には藤井聡太三冠(王位・叡王・棋聖)。本局は今期A級で唯一のタイトルホルダー対決となります。

 永瀬王座先手で、戦型は角換わり腰掛銀。永瀬王座は自陣の金銀を低い位置に置いたまま、手早く歩を突き捨てて動いていきます。対して豊島竜王も自陣に角を据えて反撃。この戦型らしいスリリングな中盤戦となりました。

 59手目。永瀬王座は豊島陣に銀を打って攻めます。対して豊島竜王は1時間59分の長考で金を引いて受けました。永瀬王座はその金にねらいをつけ、角を切って一気にたたみかけます。豊島玉がほとんど孤立無援で丸裸になったのに対して、永瀬王座は飛車を手にして攻めが続く形に。形勢ははっきり、永瀬王座優勢となりました。

 しかし豊島竜王は決して勝負をあきらめません。82手目。壁になっている金の姿をじっと直して辛抱します。持ち時間6時間のうち、残りは永瀬2時間10分、豊島10分。豊島竜王にとっては盤上の形勢のみならず、時間でも不利な状況ですが、そこを持ちこたえ、攻防ともに手段を尽くし、相手に決定打を与えませんでした。

 すぐにも寄りそうだった豊島玉はしぶとく耐え続けます。一方、安泰に見えた永瀬玉はいつしか危険な格好となりました。形勢は混沌とし、ついには逆転しました。

 112手目。豊島竜王は永瀬陣に角を打ち込み、詰めろ飛車取りをかけます。対して豊島玉には詰みがありません。形勢は豊島勝勢です。

 残り時間は永瀬43分、豊島2分。絶望的とも思われる盤面を前にして、永瀬王座の手が止まります。盤面を見つめ、そして視線をはずして、しばし中空を見つめる。永瀬王座敗勢の終盤で、まれに見られる光景です。

 永瀬王座はあぐらから正座に直り、スーツのジャケットを着ます。ずっとつけていたマスクをはずして手元のごみ箱に捨て、違うマスクをつけました。

 消費時間は29分。113手目、豊島玉が詰まぬことを承知で、永瀬王座は銀を打ち、豊島玉に王手をかけました。あとは終局への手順。豊島竜王はノータイムで正確に応対し、下段一段目の玉を、中段四段目まで逃していきました。

 124手目、豊島竜王が玉を逃げたのを見て、またしばし中空を見つめた永瀬王座。最後は静かに一礼し、投了の意思を示しました。

 両者の対戦成績はこれで8勝8敗2持将棋の五分となりました。

 両者はちょうど1週間後の10月26日にまた王将戦リーグで対戦します。

 また日本シリーズで永瀬王座が勝ち上がれば、2年連続決勝で両者の対戦が実現します。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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