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前期挑戦者・永瀬拓矢王座(29)今期王将リーグ白星発進! 永世王将・羽生善治九段(51)を降す

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 10月1日。東京・将棋会館において第71期ALSOK杯王将戦・挑戦者決定リーグ▲羽生善治九段(51歳)-△永瀬拓矢王座(29歳)戦がおこなわれました。

 10時に始まった対局は19時29分に終局。結果は120手で永瀬王座の勝ちとなりました。

 熾烈なリーグ戦、前期挑戦者の永瀬王座は幸先よく1勝目をあげました。一方、王将位12期のレジェンド羽生九段は黒星でのスタートです。

 永瀬王座の今年度成績は16勝10敗(勝率0.615)となりました。

 羽生九段の今年度成績は4勝11敗(勝率0.267)となりました。

 一般的に連勝、連敗、勝率などの成績記録は。未放映のテレビ対局の成績がすべて明らかとならない限り確定しません。その上で既発表分だけの成績を見れば、羽生九段は今回の敗戦で7連敗ということになります。確定している羽生九段の過去の最多連敗記録は2016年の6連敗です。

永瀬王座、優位をキープして押し切る

 羽生九段先手で、角換わりになりそうな立ち上がり。対して永瀬王座は角筋を止めて角交換を拒否しました。

 永瀬王座は雁木に組み、間合いをはかりながら中住居に構えます。現在のトップクラスの将棋は、あっという間に戦いが始まる展開が多くなったようです。対照的に本局はじりじりとした序盤戦が続きました。

 14時過ぎ、羽生九段がへこみ矢倉から穴熊を目指そうとしたタイミングで50手目、永瀬王座は歩を突き捨てて動きます。しかしそこからもすぐには本格的な戦いは起こらず、水面下での駆け引きが続きました。

 歩以外の駒が交換になったのは、七十手を過ぎてからでした。桂交換のあと、78手目、永瀬王座は羽生陣に角を成り込んで馬を作ります。このあたりから次第に永瀬王座がペースをつかんだようです。

 永瀬玉はそれほど堅くないものの、逃げるスペースが広く、安全度が高い。一方、羽生玉の周りには金銀4枚が集結しているものの、上と側面から圧力をかけられ、逃げ場がありません。形勢は次第に永瀬優勢がはっきりしてきました。

 苦しくなってからの羽生九段は辛抱を重ねて、容易には決め手を与えません。一方の永瀬王座は得意の負けない指し回し。慎重に時間を使いながらの落ち着いた指し回しで、逆転の機会を与えません。

「羽生先生、これより一分将棋でお願いします」

 羽生九段は持ち時間4時間を使い切って、111手目からは一手60秒未満で指す「一分将棋」になりました。対して永瀬王座は残り14分。少しずつ時間と使いながら、着実に羽生玉に迫っていきます。

 120手目。永瀬王座は馬をにじり寄ります。羽生玉は受けなし。一方で永瀬玉は詰みがありません。羽生九段はそこで投了を告げました。

 両者の通算対戦成績は羽生4勝、永瀬11勝となりました。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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