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「矢倉を制する者は棋界を制す」名人戦七番勝負第3局は挑戦者・斎藤慎太郎八段(28)先手で相矢倉

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 5月4日9時。愛知県名古屋市「亀岳林 万松寺」において第79期名人戦七番勝負第3局▲斎藤慎太郎八段(28歳)-△渡辺明名人(37歳)戦、1日目の対局が始まりました。

 将棋界の伝統では「王将」の駒は上位者側が持ちます。渡辺名人は小さく会釈をして「王将」の駒を取り、盤上一段目の中央に据えました。続いて挑戦者の斎藤八段が「玉将」を手にして、初期位置に置きます。

 両者駒を並べ終わったあと、しばしの静寂。中継画面からは、対局室の静謐な空気が伝わってきます。対局前の緊張感が高まってくる、この静けさを愛するファンの方も多いことでしょう。

 本局の立会人は淡路仁茂九段が務めます。

「定刻になりました。第79期名人戦第3局の対局を始めてください」

 朝9時。淡路九段の声を聞いて、両対局者は「お願いします」と一礼。対局が始まりました。

 先手の斎藤八段は角筋を開きます。対して渡辺名人は飛車先の歩を伸ばしました。これは第1局と同じ立ち上がりです。そして第1局と同じく、戦型は矢倉に進みました。

「矢倉を制する者は棋界を制す」

 昭和五十年代にはよく、そんな言葉も聞かれました。実力制名人戦が始まって八十年以上が経ちます。その間、名人位に就いたほとんどの棋士は矢倉を得意としてきました。

 この名人戦七番勝負の舞台でも多く、矢倉の戦型で戦われてきました。

 第1局は斎藤八段が矢倉で勝利を収めています。

 続く第2局は渡辺名人が相掛かりで勝ちました。

 両者のこれまでの対戦成績は渡辺名人4勝、斎藤八段3勝です。

 前局からほとんど間のないタイトなスケジュール。その中で渡辺名人は棋聖戦挑戦者決定戦を戦い、永瀬拓矢王座に勝ちました。

 渡辺名人は6月6日開幕の棋聖戦五番勝負で藤井聡太二冠に挑戦。名人戦七番勝負が第5局(5月28日・29日)で終わっていなければ、並行して番勝負を戦うことになります。

 斎藤八段は本局のあと、王位戦リーグ最終局を戦います。

 王位戦リーグ紅組は大混戦。

 斎藤八段は最終局に勝てば3勝2敗で、同成績で4者が並ぶ可能性まであります。しかし直接対決の結果の関係ですでに、斎藤八段には優勝、およびリーグ残留の可能性は残されていません。

 斎藤八段の最終局の相手は優勝の可能性を残す木村一基九段。こうした一番で全力を尽くすのが将棋界の伝統です。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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