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死闘の雰囲気出てきた・・・! 千日手魔神・永瀬拓矢挑戦者(28)王将戦第6局で先手番から千日手

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 3月13日。島根県大田市・さんべ荘において王将戦七番勝負第6局、渡辺明王将(36歳)-永瀬拓矢王座(28歳)戦、1日目の対局がおこなわれています。棋譜は公式ページをご覧ください。

 永瀬挑戦者先手で9時に始まった対局は14時11分、72手で千日手が成立しました。1日目15時以前に千日手が成立した場合は規定により、1時間の休憩後、先後を入れ替えて指し直し局が始まりました。

 永瀬挑戦者の千日手はこれで通算41回目となります。

鬼軍曹、今年度持将棋2回、千日手は3回目

 永瀬挑戦者先手で、戦型は角換わり。永瀬挑戦者は相手陣に角を打ち込んで馬(成角)をつくります。

 午後に入って、永瀬挑戦者は馬で相手の飛車を追いかけます。そうされては渡辺王将は飛車を逃げ続けるよりありません。以下、馬と飛車の追いかけっこが続き、14時11分、72手で千日手が成立しました。

 千日手は対局者だけではなく、関係者にとっても大変なもの。そこを突き抜けると「ズンドコズンドコ」と楽しめる境地に達するようです。

 永瀬挑戦者が千日手が多いことはすっかり有名となりました。今年度ではまず、歴史的死闘となった叡王戦七番勝負で千日手1回、持将棋2回が生じました。

 また今期B級1組の木村一基九段戦でも千日手になっています。

 指し直し局の結果は永瀬勝ち。振り返ってみればこの1勝は大きく、昇級レースでは永瀬王座が木村九段にわずかに競り勝ちました。

 指し直し局開始10分前、両対局者は駒を並べ始めます。それが終わったあと、立会人の福崎文吾九段が声をかけました。

福崎九段「一応、持ち時間の確認だけさせていただきます」

 記録係の高田明浩三段が残り時間を読み上げます。持ち時間8時間のうち、千日手局での消費時間は渡辺王将1時間28分。永瀬挑戦者2時間6分。残り時間は渡辺王将6時間32分、永瀬挑戦者5時間54分です。

「ただいまから千日手指し直し局を規定により、渡辺王将の先手番でお願いします」

 15時11分、福崎九段が指し直し局の開始を告げ、両者一礼しました。

渡辺王将は少し時間をおいた後、飛車先2筋の歩を突き出します。対して永瀬挑戦者もまた同様に8筋の歩を前に進めました。

 進んで戦型は角換わり。先後は交替しましたが、千日手局、指し直し局と同じ戦型が現れたことになります。

 25手目。渡辺王将は中段に桂を跳ね出しました。これは前局第5局と同様の進行です。

 32手目。永瀬挑戦者は8筋の歩を突き捨てて、手を変えます。

 16時を過ぎた現在は36手目、永瀬挑戦者が渡辺陣に角を打ち込んだところまで進んでいます。早くも激しい戦いの様相。千日手成立を知らない人が現局面を見ても「1日目にしてはずいぶん進んでいるな」と思うかもしれません。

 王将戦七番勝負では18時の段階で手番の側が次の手を封じます。指し直し局はどこまで進むでしょうか。

 王将戦七番勝負での千日手成立は14年ぶり。しかし持将棋はまだ現れたことがありません。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)、『など。

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