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あいがかったイエス! 順位戦20連勝中の藤井聡太二冠(18)B級2組全勝をかけ先手番で相掛かりを採用

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 3月10日。大阪・関西将棋会館においてB級2組順位戦最終11回戦▲藤井聡太二冠(9勝0敗)-△中村太地七段(6勝3敗)戦が始まりました。

 藤井二冠は関西、中村七段は関東の所属。本局は中村七段が大阪に移動しての対局となります。もっとも、藤井二冠は愛知県瀬戸市在住ですので、やはり長距離移動です。

 対局がおこなわれるのは関西将棋会館4階・水無瀬(みなせ)の間。部屋の名は、駒書体の名にちなんでいます。

 9時39分頃、まず中村七段が入室。下座に着きます。ビニール袋からペットボトルのお~いお茶と、e3をお盆の上に置きました。

 お~いお茶は現在、棋戦名にもつけられています。

 e3はeスポーツプレイヤー向けの飲み物です。

 中村七段は自身のYouTubeチャンネルで、対局時に持参するものを紹介しています。e3はそのうちの一つです。

 中村七段に続いて9時40分、藤井二冠も到着。両者駒を並べ終え、静かに対局開始の時を待ちました。

 定刻10時。記録係が対局開始の合図を告げます。

「それでは時間になりましたので、藤井先生の先手番でお願いします」

 両対局者は一礼。

 藤井二冠はまず紙コップからお茶を飲みます。すっかり有名となったこのルーティーン。最近では藤井二冠が出演する伊右衛門のCMも放映されています。

 藤井二冠はお茶を飲んだあと、飛車先の歩を突きました。

 順位戦の表ができて以来、ずっと後手番の作戦を考えていたという中村七段。2手目は飛車の頭の歩を前に一つ進めています。

 3手目を指す前に、藤井二冠はスーツのジャケットを脱いでセーター姿になりました。

 互いに飛車先の歩を伸ばしあったあと、5手目は大きな分岐点。角道を開ければ角換わり、角の横に金を上がれば相掛かりとなります。

 藤井二冠のエース戦法といえば角換わりです。そしてデビュー以来ずっと、先手番で相掛かりを採用することはありませんでした。しかしここ最近は相掛かりを用いるようになっています。

 5手目。藤井二冠は金を上がりました。戦型は相掛かりに進みました。

 12手目。中村七段は7筋の歩を突きます。相手の飛車に取られてしまうのは承知の上の作戦。歩を損した代償に、手得で攻めの銀を素早く前に繰り出しました。

 28手目。中村七段は飛車のそばに金を上がります。藤井二冠の手番で定刻12時の少し前、昼食休憩に入りました。再開は12時40分です。

 B級2組順位戦の持ち時間は各6時間(チェスクロック使用)。昼食休憩と夕食休憩をはさんで、通例では夜遅くに終局となります。

 3人目の昇級者を目指す争いで自力の立場である横山泰明七段(6勝3敗)は東京で窪田義行七段(4勝5敗)と対戦。戦型は窪田七段の四間飛車に進んでいます。

 将棋界の歳時記では長い冬が終わって春になる頃、順位戦は最終局を迎えます。今年度はコロナ禍の中で始まり、いろいろなことがあって、こうして年度末を迎えることになりました。

 昨日3月9日はC級1組最終戦がおこなわれました。

 高崎一生七段、増田康宏六段に続き、劇的な展開の末に、高見泰地七段が3人目の昇級者に決まっています。来期B級2組にはこの3人の精鋭が加わります。

 明日3月11日はB級1組最終戦です。

 最後にA級への昇級者、B級2組への降級者も確定して、第79期順位戦は幕を閉じることになります。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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