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西の天才・山崎隆之八段(39)深夜の熱闘で棋界四強・永瀬拓矢王座(28)を降し初のA級昇級に大前進

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月24日。東京・将棋会館においてB級1組順位戦10回戦▲永瀬拓矢王座(28歳)-△山崎隆之八段戦がおこなわれました。

 朝10時に始まった対局は深夜0時55分に終局。結果は166手で山崎八段の勝ちとなりました。

 これでリーグ成績は山崎八段8勝1敗、永瀬王座は7勝3敗となりました。

 今期B級1組の天王山ともいうべき一局を制し、山崎八段は初のA級昇級に向け、大きく前進しました。

 両者の通算対戦成績はこれで山崎八段2勝、永瀬王座6勝となりました。

天才・山崎八段、ついにA級が見えてきたか

 先手番は永瀬王座で、戦型は角換わり。ただし力戦得意の山崎八段は定跡形にはせず、3三金型で力勝負を挑みます。

 中盤、山崎八段は盤面の左右をにらむ筋違い角を自陣に据えます。この角がよくはたらき、先手陣の弱点の桂頭を巧みに攻めて、あっという間にリードを奪ったかに見えました。

 負かしにくいことにかけては棋界屈指の永瀬王座。じっと辛抱の道を選んで容易に崩れないよう、粘り強い手段を探し続けます。

 山崎八段がややよさそうながらも、難解な中盤戦が延々と続いていきました。山崎玉はずっと居玉のまま。対して永瀬王座は根気よく自陣を整備し、にわか普請の矢倉城に入城するに至りました。

 永瀬王座の粘り強い指し回しがついに実るときがきたか。終盤に入ったところでは、逆転して永瀬よしの場面もあったかもしれません。

 しかし山崎八段も崩れません。居玉を押し上げ、強く受けながら玉を四段目にまで進めます。手数が120手を超える頃、ついに山崎八段優勢がはっきりしてきたようです。自玉の上部を厚くし、入玉も視野に入ってきました。

 一方、永瀬王座の方は入玉が望めそうもありません。飛車を切って山崎玉を二段目にまで引き戻し、最後の勝負に出ます。

 162手目。山崎八段はねらわれている金を五段目に進め、不敗の態勢を築きます。山崎玉は上部に抜けることが可能で、入玉のルートも開けています。一方の永瀬玉はまだ堅く手数はかかるものの、確実に寄せられてしまう形。永瀬王座は攻防ともに見込みなしと判断し、そこで投了しました。

 山崎八段は大難関とも言える永瀬王座をも突破。初のA級昇級に向け、大きく大きく前進を果たしました。

 なお▲木村一基九段-△行方尚史九段戦は0時7分、千日手が成立。指し直し局は0時37分に始まり、いつ果てるとも知れない戦いが続いています。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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